宴会の前だ、食前酒を呑もう!(呑兵衛の戯言)
歩くこと少しして、目的地の市場に辿り着いた。
細めの路地に左右ずらりと店が立ち並び、食品から土産物から店頭販売していたり、はたまた中に入って落ち着いて食事をしたり買い物できる店があったりする。
そしてそこを大量の人が行き交っているのだ。
いやもう大混雑よこれ。地元っぽい人から遊びに来てる人から観光客から、本当にいろんな人達がひたすらにあちこち回って、思い思いに観光している。
久々に来たけど相変わらずすごい光景だ。催事も特にないだろう、これが日常となっているんだろう状態に、初見のシャーリヒッタがうお!? と短く叫んで俺にしがみついてきた。
「と、とうさ──げふげふ公平サン! なんだこりゃ祭りってやつですか!?」
「いや、至って普通の日常。ここはいわゆる人気スポットだからさ、混雑してる時はこのくらいにはなるみたいなんだよ」
こんなにたくさんの人がここまで細い道を行き来するの、初めて見ると面食らうよね。
俺も初めてきた時、怖ぁ……って母ちゃんにしがみついたもの。あれ何年前だろ、10年くらい前?
人の流れに乗るように俺達もとりあえず進んでいく。まあ細い道と言っても立ち止まって店を物色している人達を、避けて歩いていける程度の幅はあるからね。
集合時間までにちょっぴりだけ余裕があるし、軽くあちこち見て回りながら行こうかな。
「ハッハッハー、すっごーい人! え、ここ本当にいつもこんななのかい、マリー?」
「私だって別にここの常連ってわけじゃありゃしませんけどね……この半世紀、何回か訪れはしましたがいつの時代も大体こんなもんでしたよ。ま、最近は特に外国からの客が増えてる印象はありますねえ」
「ふぇー……! でもでもー、たしかにいろーんな美味しそうで楽しそうなお店がいっぱーい! これはたしかに観光スポットとして最適ですよー!」
先程、日本贔屓のルーツについて貴重な話をしてくださったこともあるんだろう。
すっかり日本通扱いでエリスさんが尋ねてくるのを、マリーさんは苦笑いとともにやんわり否定しつつもけれど、この市場が時代を経ても人気なことを語っている。
リーベもはしゃいで、さっそくあちこち見て回っているね。行き交う人達の邪魔にならないようにしながらも立ち止まり、気になった店を興味津々に見ている。
一方で大人組も、これまたすっかり観光客モードに入っていた。
「おお、地ビールを店頭でいただけますか! 師匠、どうです我々も」
「そうだな……うむ、折角の機会だからな。すみません、こちらの地ビールを2人分お願いします」
「これから宴だと言うのに呑むのか。まあ誤差の範囲ではあるが──すみません、追加でジュースをいただけますか? ええはい、そちらの地元で作っている、はい」
「ふふふ、食前酒と言うものですとも、ははは」
今から行く店でしこたま飲むだろうに、酒飲み特有のわけの分からない言い訳をしつつ店頭で売ってる地ビールを購入するベナウィさんとサウダーデさん。
ベナウィさんは言わずもがな、サウダーデさんまで乗っかったのは正直意外だ。対倶楽部の中盤辺りから大いにお力添えをしてくださったお方だ、戦いも一段落ついたことで、せっかくだしという気になっているんだろうね。
ヴァールがやれやれ、と肩をすくめつつ自分もちゃっかりジュースを買っている。地元で取れた果物で作ったものみたいだ、美味しそう。
そしてそのまま3人で軽く、乾杯なんかして呑み始める。軽く数口のヴァールはともかく男二人は勢いよく一気飲みだ、ワイルド!
あっという間に飲み干して、店主の方に空のコップを回収してもらいつつも彼らは笑った。
「────ふはあ。いやあ、堪りませんねえ! エキゾチック・ジャパンのマーケットで飲むローカルビール!」
「ううむ、良い味わいだ。非日常的な形で飲む酒というのは、なんというか風情があって俺は好きだな」
「美味いな……ふむ。酒ではないワタシにも風情というのは伝わってくる。普段ないシチュエーションだからな、特別感というものがあるのだろう」
もはや完全に普通の外国人観光客な3人が、それぞれ地元の味を堪能して頬を緩める。うわ、美味しそう!
人が飲み食いしてるのを見るとこっちもしたくなるよね……ましてや滅多に来ない観光地となればなおのことさ。
隣で、それらを眺めていたシャーリヒッタが喉を鳴らすのが聞こえた。近くのリーベやマリーさん、エリスさんでさえもそうだ、あからさまに刺激された感を出している。
特にシャーリヒッタからしてみれば、受肉してすぐだもんな。お腹も減ってるだろうし、現世の食文化は否応なしに欲望を刺激するもんな。
「……父様、オレ達も何か軽く食べたり飲んだりしましょうよ。せっかくですし」
「公平さん、あっちあっち! なんかスイーツ売ってますよー!」
「こらベナウィ、クリストフ! 私を差し置いて何を呑んでんだい! 混ぜな混ぜなァ!!」
「えぇ……?」
「ハッハッハー、まあマリーが我慢できるはずないよねー」
生き生きした表情で弟子筋に絡みに行ったマリーさん。怖ぁ……エリスさんも笑ってるくらいに即落ちって感じだ。
とはいえ俺も正直たまらん、虫養い程度に何かしら胃に入れたくなったし、しちゃいけない理由もぶっちゃけないし。シャーリヒッタとリーベもせがんできてるし。
『おい、あっちで肉寿司なんてものが売ってあるぞ公平! 行け、行くんだ! 店に着くまでに可能な限り美味いものを楽しめ! せっかくだろ!!』
何より脳内のアルマさんがかつてなく必死に叫んでいるし。こいつマジ、食うこととなるとうるさいないろいろ……
ま、せっかくだしってのは同感だ。俺はエリスさんと顔を見合わせて、笑い合いながら頷きあった。
「じゃあせっかくですし、時間の許す範囲で」
「楽しもう楽しもう! ハッハッハー、祭りだ祭りだー!」
「わーい!」
「ヴァールそれオレにも飲ませろー!」
許可が出るなり動き出す娘さん達2人。俺達も行きますかね。
そんなわけで少しの間だが、俺たちは自由に市場のグルメを観光することとなった。
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