メモリー・オブ・おばあちゃんズ
電車を乗り換えてわずか一駅、数分足らずでいよいよ目的地へと着いた。居酒屋さんのある市場に一番近い駅である。
ここからさらに歩くこと10分すれば市場に辿り着くわけだね。改札を出て、階段を上って地下鉄構内から脱出する。時刻は午後4時頃、まだまだ炎天下の青い空が広がる市内に俺達は到着していた。
「ちょっと早すぎませんー? この調子だと16時半にはその居酒屋に到着するんじゃないですかー?」
「一応うちの葵が17時から予約を取ってるし、そもそも件のお店は昼の11時から開いてる。まあまあいい頃合いだと思うよリーベちゃん。市場というだけあって見どころ満載だから、一通りぶらついていたら30分じゃ足りなくなるかもまであるね、ハッハッハー」
「昼間から楽しめるとはいいですねえ。私のような者にはありがたい話ですよ」
時間を気にするリーベの、質問にスラスラ答えるエリスさん。葵さんが予約を取ってくださった都合上、師匠である彼女も今回向かう店については情報を仕入れているみたいだ。
呑み始めるには結構早い気がするけど、いわゆる昼呑みとかもできるタイプのお店みたいだしまあ、そんなもんなのかな。
というかベナウィさんが、お昼から呑めるタイプの居酒屋であることに興味津々な様相を見せている。案の定って感じで逆に安定感あるなあ、もはや。
たしかに今くらいからだとちょっぴり時間は浮くけど、まあこの近辺は市場でなくとも近場に商店街があったりして暇潰しにはこと欠かない。
逆にうかうか夢中になっていると予約をすっぽかしちゃう可能性さえあるのがさすが、関西有数の都市部だよねって感じだ。
ともあれ歩き出す。香苗さんや葵さんは今それぞれ最寄り駅の電車に乗ったみたいで、グループチャットにてメッセージを送ってきている。
どちらも俺達と同じルートで来ることになるだろうから、何事もなければちょうど予約に間に合うくらいのタイミングで合流できそうだね。
「いやはやいつ来ても人が多いねえ、ここらは。それこそ60年前から来る度思わされるよ、ファファファ!」
「ふむ……先生はその頃から日本にはよく来られていたのですね。俺も永らく弟子をしておりますが、そのあたりのことはあまり聞いたことがありませんでした」
「ちなみに日本フリークだから来日されたので? それか別な用で日本に来て、そこからドハマりされたのですか?」
町中を流れる川を見下ろすように横断する橋には、絶えることなく相当な数の人達が常に行き交っている。
その様子にポツリと漏らしたマリーさんは、なんと半世紀以上も前から度々この辺に来られていて、その度に人の多さに驚いていたらしかった。
弟子であるサウダーデさん、孫弟子にあたるベナウィさんがそれぞれ初耳らしく意外そうに、興味深そうに尋ねている。
俺からしても気になるところだ、マリーさんのお若い頃っていろんな人から割とアレな噂を耳にしてるけど、直接後本人から聞く機会ってなかなかないからね。
そんなわけで歩きつつ耳を傾けていると、彼女は陽気に笑って答えてくれた。
大の日本好きで知られるマリアベール・フランソワさんの、日本との関わりについての話である。
「ファファファ、私ゃ後者だよベナウィ。実のところ最初は日本についてあまり興味もなかったんだがね、ゆえあって来日することになり、このへんの……いや、ぼかさず言っちまうか。将太先輩の家でしばらく滞在させてもらってるうちに、いつの間にやら大好きになったわけさ」
「将太先輩……って、香苗さんの!?」
「そう。御堂将太、香苗ちゃんの曾祖父さんだねえ」
しみじみ語るマリーさん。予てから将太さんを通じて御堂家と繋がりがあるってのは知っていたけど、日本贔屓になったルーツからして彼が関わっていたのか。
というか、一時期御堂家に滞在さえしていたんだな。えっ、何? もしかして同棲とかってやつなんだろうか? えっ、えっ? ちょっとドキドキ。
俺の隣を歩くリーベも同じく気にしたらしい。
おずおずと、けれど好奇心を隠せない様子で質問していく。果敢か!
「え、あのー……もしかしてそれ、若き日の恋とかそういう話だったりしますー!?」
「ファファファー、残念残念! 私は当時18歳、向こうはすでに所帯持ちの40手前。そんな浮いた話なんざあるわけなかったよ。同年代の才蔵にしても、すでに婚約者がいたしね」
「あ、そうですかー……すみません、下衆の勘ぐりでしたー」
あっけなく否定され、バツが悪そうに頭をかいて謝るリーベ。危なかった、俺もそのへん気になってたから若干つられて気まずいぞ。
考えてみればそりゃそうだ、将太さんとマリーさんだと結構世代が違う、それこそ下手すると親子くらい年が離れているものな。
となると、将太さんのご家族の元に転がり込んでしばらく滞在する、いわゆるホームステイに近い形だったわけか。
才蔵さんとはこないだも気のおけないやり取りをされていたけれど、そうした関係はその頃に培われたんだな。
「結局半年程度の滞在だったが、その日々で私はすっかり日本を気に入ったのさ! それ以来、まあ機会がある度に来日させてもらってるってわけさね、ファファファ!」
「人に歴史あり、だねえ。ちなみにエリスさんは裏社会を転々としている中で来日したことが何度かあるよ。大体アレな組織絡みで、それこそ任侠物みたいな光景を見たこともあるね、ハッハッハー」
「怖ぁ……」
マリーさんの思い出はなんとも素敵な、宝石箱のようなものなんだろうなと思えるものだったのに対してエリスさんが相当バイオレンスだこれ!
何度も日本に来てたってのはともかくとして、そのほとんどで抗争か何かっぽい流血沙汰に絡んでいたってのはいかにも闇が深い話である。
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