かーっ!見んね長女に次女!卑しか三女ばい!
存分に水分やら糖分やらを補給したのでいざ、電車に乗る。町中にあるローカル線の駅は、こじんまりしているけどそれなりに電車を待つ人もいたりする。
そんな中に俺達一行もズラズラと入り込んでホームで電車を待つわけだ。まあ、人目につかないわけもないよね。
「あ……あのー。もしかしてソフィア・チェーホワさんですか……?」
「ん……ええ、そうですが」
「やっぱり! うわすご、本物のチェーホワさんだぁ!」
電車を待つ少しの間、近くにいた女性の方がおずおずとヴァールに話しかけていた。
当然ながらソフィアさんと思っているみたいで、応対するヴァールも即座に口調と表情を入れ替えてソフィアさんっぽく振る舞う。
こういうとこ、器用だよなあこの子も。100年も肉体を共有してソフィアさんの影武者めいたことをしてるわけだし、このくらい朝飯前なんだろうけど。
関心しているとちょいちょいっと袖を引かれた。なんぞやと思って見るとリーベにシャーリヒッタがどこか、口元をニヤニヤさせつつ俺に密着してくる。
あからさまに面白がった様子で、ひそひそ話をしに来たのだ。
「父様、父様。見てくださいよヴァールのやつ、ソフィアの物真似マジうめぇ」
「都合何度か見てきましたけど、地味にすごいですよねあれー。いつもの鉄面皮が嘘みたいにニッコニコ!」
「あいつも普段からああしときゃあ、可愛げがあって良いのになァ。父様はどう思います?」
「えぇ……?」
怖ぁ……超無茶振りしてくるじゃん。
どうやら改めてソフィアさんのガワを取り繕うヴァールのクオリティが高すぎることに面白味を感じているんだろう。たしかに今のヴァールってば、ほぼ完全にソフィアさんの素振りや表情、言動をエミュレートできてるものな。
テレビで見るような有名人に会えて、感激している女性に対して楚々とした笑みをもって対応しているヴァールを見る。
ソフィアさんならいつもの素敵なお姿って感じで、見惚れることはあれど驚きとかはないんだけど、中身ヴァールのままあの笑顔を見せているって考えるとシャーリヒッタの質問も分からなくはない。
ただ、俺はそれでもこう思うなあ。
ヴァールの邪魔にならない程度に声を抑えつつ、俺はシャーリヒッタとリーベに答えた。
「でも意外と普段からあの子、結構微笑んだりしてくれてるぞ? ソフィアさんみたいに花咲くような笑顔じゃないけど、夜空に浮かぶ月のように密やかで、でも見るだけで心が暖かくなる素敵な笑顔だ」
「あー……まあたしかに、口元や目尻は結構感情表現豊かなとこありますよねー。表情筋を動かさないだけでー」
「だろ? だから俺は、そういう笑顔もあの子の魅力かなーって。ソフィアさんじゃなくヴァールって子の持つ、彼女だけの素晴らしいところだと思うよ」
──と、話したところで電車がやってきそうだ。カンカンカンカン、と警笛が鳴りつつ遮断器が折り、すぐに電車がやってくる。
ローカル線ならではの2両編成、いわゆるラッピング電車ってやつで車体全体にアニメキャラがデカデカと張り付けられている。どうもこの近辺ってか隣県を舞台にしたアニメの宣伝広告らしく、初めて見た時は度肝を抜かれたものである。
「ハッハッハー、エリスさん見てるよこのアニメ。面白いよー」
「町中での宣伝効果としては大きな効果を見込めそうですね……ちなみに太平洋にもネット環境は整っていて、日本のアニメーション作品も月額料金を払えば見られるようになっています。便利な世の中になったものですよ」
「アニメねぇ? それよか私ゃ時代劇のが見たいね、ファファファ〜」
外観の個性にコメントしつつ、エリスさんやサウダーデさん、マリーさんが電車に乗り込む。さすがはガチオタ疑惑のあるエリスさん、ジャパニーズアニメも網羅していらっしゃるよ。
俺達も続いて乗り込む。冷房の効いた車内はそこそこ人がいて、席はそんなに空いてない。でも次の駅ですぐ降りて乗り換えるし問題はないね。
このローカル電鉄はうちの県と隣県を跨いで行き来しているわけだけど、次に降りる駅で県内をそのまま走るルートと隣県に向かうルートに分かれるのだ。
そして隣県ルートについてはその駅が始発駅ないしは終着駅なので……この電車に乗りっぱなしだと、県内は湖西のほうに行くわけだ。
だから次の駅で乗り換えるんだね。
「幹線鉄道でサクッと行くのも良いけど、ローカル線でのんびり行くのも風情があっていいよなあ」
「そうだな、山形公平。特にこの県は一部路面電車となっているのだろう? 日本ではあまり見かけないからな、個人的にも楽しみだ」
「ヴァール。さっきの方はもういいのか?」
シャーリヒッタとリーベがはしゃぎながら走る景色を見ているのを眺め、独り言つ。なんかいいよね、こういうの。
するとなんとなくしみじみしているそんな俺に、不意にヴァールが話しかけてきた。どうやらファン? の方との語らいは終わったみたいだ、さっきの女性、ニコニコ笑顔で席に座ってらっしゃる。
ファンサービスとかもあるから人気者って大変だな? とちょっと頬を緩めてヴァールを見ると、どことなく彼女の顔が赤い。
それでいて拗ねたように俺を見て、でも口元はどこか嬉しそうに緩んでいるのだから驚きだよ。え、何、どうした?
「ヴァール?」
「その……ワタシも探査者だ、耳は良い。普通に聞こえるから、あまり、照れさせるようなことは言わないでくれ」
「え。あ、さっきの笑顔云々?」
「ソフィアのようでなくとも、などと言われてはさすがに頬も緩む。ワタシとて、鉄面皮の自覚はあるが情緒はあるのだ。その、気恥ずかしい……ありがとう、ございます……」
「あ、ああ。いやその、こちらこそ?」
どうやらさっきの話を普通に聞いてたみたいだ。ファン対応しながらとは器用なことをする。
それで盛大に照れているみたいで、はにかみながら俺に礼を言ってくる。
うん……やっぱりソフィアさんとは違う、けれど彼女にも負けない素敵さがあるよ。かわいい。
なんだか俺まで頬が緩むような、そんな笑顔をヴァールは浮かべていた。
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