外食するタイミングに限って、家でも豪勢な料理がお出しされたりするよね
というわけで香苗さんと葵さんはサクッと車で一旦ご帰還なさって、残るメンバーだけで駅へと向かう。ここに来る時にも使ったローカル線で、そこから隣県まで行くのだ。
「残念ではございますが、私はこれにて失礼いたします……アンドヴァリのことがあった以上、ダンジョン聖教内でもしばらくは荒れるでしょう。私は少しでも真実を明らかにするべく動きたいと思います」
「まあ無理すんじゃないよ、神谷。あんたももう歳なんだから……下手にヤブ突っついてヘビが出た、なんてことにゃならんようにね」
「ありがとうございます、先輩」
残念ながら神谷さんとはここでお別れだ。彼女は今回明るみになったアンドヴァリのあれこれについて、さっそく聖教内を調査すべく動き回るらしい。
さっきヴァールが電話であちこちに連絡飛ばしてたから、たぶんWSOもすでに動き出していると思う。その対応のためもあるというか、おそらくは混乱するだろう組織内を安定させる意味合いもあるんだろうな。
当代聖女シャルロットさんまで前線に出ている以上、そのへんの役割は先々代聖女たる神谷さんのものということだ。
護衛であるウィリアムズさんに先導され、SPの運転する車に乗って去っていく。彼女は、というかダンジョン聖教はしばらくの間大変なんだろうなーと伺えるような、なんとも悲壮感が漂う去り際だった。
「気の毒ではあるが仕方ない、こればかりはな」
「対倶楽部戦線においても尽力されてきた、神谷さんまでもを疑う気など毛頭ありませんが……しかし探られても仕方のないほどにアンドヴァリの行いが悪辣に過ぎた。複雑なところです」
「何が目的なのか知りませんが、そんなに神を現世に降ろしたいものなのでしょうかねえ。私には理解しかねますよ」
見送るヴァール、サウダーデさん、ベナウィさんのやり取りは、仲間と言っても良いほどの人をそれでも疑る他ない現状へのやるせなさが感じられる。
俺としても率直に残念だ。ダンジョン聖教そのものまでもが委員会と繋がっていた、というのは取り調べの話をそのまま受け取ればなさそうなんだけど、いかんせん火野の言うことだからな。
悪辣にすべてを踏みにじってきたあの男の言うことを、さすがに鵜呑みにするわけにもいかない。
そんな思いもあり、仕方ないけどダンジョン聖教には潔白を証明してもらうしかないと考えるわけだね。
エリスさんが大きく天を仰いだ。
まだ昼の3時過ぎ、夏の青空は太陽と入道雲を伴い広がっている。気持ちのいい景色だけれど、彼女の内心は裏腹の曇模様なんだろうな。
ま、そんな気持ちさえ含めて、この後の宴会で濯いでもらえれば何よりだと思うよ。いろいろあったしいろいろあるんだけど、ひとまず厄介な問題が一つ、区切りをつけたのも事実なんだからね。
そんなわけで俺達も行くかぁ、と歩き始めた。駅まで徒歩数分、後は電車に揺られて──途中何度か乗り換えは必要だけど──のんびり向かうだけだ。
S級探査者が元含めて4人。精霊知能が3人に不肖俺ととんでもないメンバーでの徒歩。現地ではさらにS級とA級が1人ずつ追加されるわけなので、なんていうか内実を知る者からすると驚くべき光景かもしれない。
そんなメンツの肩書の厳つさはともかく、道中の空気はひたすら和やかで穏やかだった。今日もまあまあシリアスな問題があったけど、それはそれとしてオフは楽しむってことだね。
「いやーしっかし暑いな現世! これが夏ってやつかぁ」
「受肉した身体は頑丈ですけど、それでも水分はちゃんと補給したほうが良いですよー。駅前にコンビニがありますし、ちょっと寄って行きましょうかー」
シャーリヒッタが初めて本格的に味わう日本の夏に驚きの声を上げた。それでも俺に引っ付いてきているのは、嬉しいっちゃ嬉しいけど暑くないのかと心配になる。
同じく不安を抱いたのかコンビニで水分補給を提案するリーベに、一同が頷き俺達は少しの寄り道をした。シャーリヒッタはもちろんながら、酒呑み組も水分補給はしっかりしないといけないからね。
涼やかな空調の聞いたコンビニ内はまさに楽園だ。めいめい、好みの飲料やアイスなどを買いつつ店内をうろつく。
と、その間俺は俺で母ちゃんにメッセージを入れていた。シャーリヒッタについて、今日の夜連れて帰るねーって連絡したのだ。
『なんかあの子受肉してたから連れて帰るね。夕飯は一緒に宴会してくから大丈夫なんでよろしくー』
『了解ー。うちらはうちらで焼肉するわー、もちろん鉄板で焼くやつー』
『えっ』
えぇ……俺も焼肉食べたぁい……
まあ、俺とリーベが宴会だしってことで家でも宴会するんだろうけど、それはそれこれはこれで焼肉にも惹かれる俺ちゃんだ。
今日行く店はマジで居酒屋らしいから、焼肉ってのとはまたちょっと路線が違うみたいだしなあ。またこっちはこっちで楽しむけれど、そっかー焼肉かー。
「む……ご家族に連絡か、山形公平」
「え? あ、ああ。シャーリヒッタ絡みでな。急な受肉だしさ」
「そうか……」
不意に話しかけてくるヴァール。どこか目を細め、微笑ましそうに俺のスマホを覗き込んでいる。
しかしてそこから少しばかり厳粛な面持ちを見せ、彼女は俺を真っ直ぐに見据えてこんな事を言ってきた。
「すでに近隣のエージェントは総動員しているし、能力者犯罪捜査官への要請も済ませている。早ければ近場にいる者達がチラホラと、現地入りを果たしているだろう」
「…………へ?」
「あなたの周辺、およびこの地域一帯の保護だ。今からでも警戒するに越したことはないからな。あなたにとってのアキレス腱となり得る部分は、WSOのみならず大ダンジョン時代を構成する現世秩序がその総力を挙げて保護してみせよう」
「あ、ありがとうございます……」
やべー、統括理事様ガチガチのガチだよ。
すでに動き出しているらしいWSOはじめ関係各所の皆様に、俺はびっくりしつつも頼り甲斐を覚えずにはいられなかった。
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