500年もデスマーチしてたらそりゃ、上司相手の愚痴や不満くらい言いたくなりますよって話
概ね話し合いも終わり、これでようやく一段落がついた。いろいろ新たな情報も多く混乱しそうだったけど、もっぱらのところ俺についてはやるべきことはそんなに多くはない。
首都圏に行って、アンジェさんやランレイさんのお手伝いをする。システム領域に帰還して、ワールドプロセッサと話し合いを行う。それだけだ。
俺の留守中に委員会の天罰とやらが起きるかも、みたいな点についてはヴァールとシャーリヒッタがフォローしてくれるとのことだし、そもそも空間転移を使っての日帰りが基本だしね。
どうもしばらくはこの近辺、S級やら能力者犯罪捜査官やら精霊知能やらが跋扈する地域になるようなのでセキュリティ的には万全も良いところだ。
そんなわけで俺も、安心してサークルや過激派の戦いに身を投じることができるわけだった。
会議室にて各自、しばし今しがたの話し合いにて判明した事柄を確認しあう中。
俺は精霊知能達と集まって、軽く認定式までのスケジュールについて打ち合わせを行っていた。
「──となるとやっぱ、首都圏に行くまでに諸々済ませとかないとなあ。自由研究とかシステム領域への一時帰還とか」
「システム領域に戻る時は前もってお伝えください父様! 精霊知能一同、総力を挙げて歓待いたしますから!」
「えぇ……? 気持ちはありがたいけどいいよそんなの、どっちかというと気まずさのある帰省なわけだし……」
シャーリヒッタがふんすふんす! と鼻息荒くして引っ付いてくるものの、俺としては微妙な話だ。
いやもちろん気持ちはありがたいんだが、いかんせん500年もの間姿を見せなかった私だからな。今さらどの面下げて凱旋を気取るのか、という思いは正直な所ある。
今のところ出会ってはいないものの、精霊知能の中には当然ながらコマンドプロンプトのこれまでについて不満を抱いているモノとているだろう。
そんな彼ら彼女らのことを思うと、肩で風を切るようにご帰還だぞ! などと粋がる気にはなれない。
率直に思うところを語れば、娘を名乗る少女精霊知能はしばし考えてから応えた。
「んー……そりゃまあ、父様について多少の愚痴を口にするやつもいるにはいます。意志を獲得した分、そのへんの感性についても多様性を獲得してるわけですし、ないほうが不自然ですらありますしね」
「だろ? だからそんな、俺の歓待なんて考えなくても──」
「ですけど父様。そういった精霊知能達も含めてみんな、間違いなくあなたに感謝してあなたを心から喜んで迎えたいとも考えているんです。そこも考えてやって欲しいかなってオレは思います」
「う……」
……意志や思考を獲得した以上、思想というのも当然個々によって異なる。システム領域も今や多様性を得た、一種の社会となっているからね。
俺に不満を持つモノもいれば、感謝や好意を抱いてくれているモノも当然いる。シャーリヒッタによればそっちが大多数のようだけど、だからこそ彼女は歓待させてくれと言うのだ。
つまりは否定的意見だけに目を向けて、肯定的意見を無視するようなことはしないでほしいと、彼女は言ってるわけだね。
このあたりは、現世のネット内におけるシャイニング山形のファンとアンチの構図にも似ている。
俺個人としては好きも嫌いもその人達の想いなのだからと好きにしてくれモードなわけだけど、精霊知能に対してもある程度、そうしたスタンスを持ってほしいのだとシャーリヒッタは語るのだ。
「ようやっと邪悪なる思念絡みの案件が片付いて、システム領域にも落ち着くゆとりが生まれました。その中で振り返りがてら、あれやこれやと意見が出始めてる感じなんですよ、今は。つまりは言っちまえば父様の500年があってこそもたらされた時間なわけで」
「つまりは一時的な熱……すべてが終わって、今まで抱えてきたものをようやくみんな、吐き出し始めてる段階なんですねー。多少理不尽でも、いわゆる愚痴だって出てきますかー」
「まあな。つってもやっぱり、平和への歓喜とか互いへの感謝とかが基本だよ。愚痴や不満も、ことが済んでから改めて振り返るわけだし多少は言いたくなるさ」
リーベが苦笑いとともに納得を示す。すべてが終わった今、辿ってきたすべてを思い返しての総括……の、ようなものがシステム領域においては行われ出しているらしいな。
そしてそれは精霊知能達が、いよいよ自分達の獲得した意志、思想、心について向き合い始めた証左とも言える。
これまでは世界を護ることに必死だったから、そんなことさえできずに駆け抜けてきたんだ。誰も彼も、システム領域にいるモノはみんな。
そんな状況も終わってさあ一段落だ、となってようやく、そうした話に向き直れるようになったということなんだろうな。で、その過程の一つとして溜めてきた感情を吐き出し始めている子達もいるということか。
良いことだ。
とても素敵で素晴らしい変化だと、心からそう思う。
獲得した心を、単なる機能でなく愛すべき個性として発露しつつあるんだ、彼らは。
これまでもリーベやヴァールを見るに個性的な子はいたけど、やはりどこか使命や責務を第一に置いていたからね。これからは本当の意味で自由な心の情動を味わい、楽しんでいけるのだろう。
シャーリヒッタが笑って言った。
「ですから、不満を持つ者もいれば心から歓待したい、させてくれって言うモノもいる。それだけなんです父様。どちらにせよ、そうした想いをどうか否定しないでいてほしい」
「…………もちろん。コマンドプロンプトとして、そういうのを受け止めた上で言祝ぐことも俺の役目だ。彼らの心を、私は尊重するよ」
どんな形であれ、これまで頑張ってくれた精霊知能達の想いを無碍にはしないさ、決して。
快く頷くと、シャーリヒッタもリーベもヴァールも、笑顔を浮かべるのだった。
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