どうしたことだ、伝道師と聖女の姿がダブって見える( ;つд⊂)ゴシゴシ
ブチギレ神谷さんはしかし、先輩方のからかいを受けて気を静めた。さすが年の功トリオと言ったところか、宥め方が堂に入っていた気がする。
こほん、と気を取り直して神谷さんが居住まいを正した。立ち上がり深々と頭を下げて、アンドヴァリの件について俺達に謝罪してきたのだ。
「アンドヴァリが、大変なことをしでかしておりました。今ここで謝ることにさしたる意味も価値もありはしないでしょうけれど、それでも言わせてください──本当に、申しわけありませんでした!」
「頭を下げる、というのはそれそのものが大変なことだ。意味も価値もないとは決して思わんがしかし……はっきり言って今、そのような謝罪の有無に依らずダンジョン聖教そのものが疑わしき立場に置かれている。その認識はあるな?」
「はい、もちろん。先代聖女がかくも組織に関与していた時点で、我々ダンジョン聖教の信用性、信頼性など地に墜ちたも同然。特に、直接あの女を聖女の後継たるに相応しいと定めた私など、共犯と見られてもなんらおかしくはないでしょう」
言うべきことを淡々と告げるヴァールに、厳正な面持ちで頷く神谷さん。
残念ながら二人の問答は正しい。アンドヴァリが聖女になる以前から委員会とつながりがあったなんて、その時点でダンジョン聖教自体も疑惑の組織になってしまったんだからね。
無論、個人的にはダンジョン聖教そのものまでもが連中の息のかかった組織だとは思わない。神谷さんのこれまでを見ていてもそう思うし、ウィリアムズさんという命懸けで倶楽部からデータを回収してみせた人さえいるんだ。
それに首都圏では当代聖女のシャルロットさんまでもが、過激派を追って活動している。少なくとも彼女や彼女達の派閥はシロだと見たい──おそらく他のみんなも同じ思いだろう。
だけど、クロでない保証だってないんだ。だからみんな、ひとまずは疑念を抱かざるを得ない。
参ったな……先代聖女アンドヴァリ。その存在そのものがこちらの信頼関係を崩すある種のトラップだったなんて。
苦い思いを禁じ得ない俺をよそに、ヴァールはなおも告げる。
「すまんがWSO、および捜査官による捜査をダンジョン聖教本部並びに関係支部も受けてもらう。それに伴いある程度の結論が出されるまでは神谷、お前は我々と行動をともにせず本部に戻り調べを受けるように」
「かしこまりました」
「……これはお前達を疑うためのものでなく信じるためのものだと理解して欲しい。新たな戦いが始まらんとする今、潔白は証明せねばならないのだ」
「承知しております。私どもとて、これで何もなしに信じてほしいなどと言えるわけがありません。我らが矜持、我らが信じる"神"の名の下において、我々は必ずや身の清廉なるを明かしてみせましょう」
微笑む神谷さん。自分達が疑われることを当たり前と断じ、信じてもらうために腹を探られることをもあえて許容する。潔い態度だ。
さすがは先々代聖女、ということだろうね……エリスさんがそんな神谷さんを褒め称えた。
「神谷くん、君はやはり素晴らしい聖女だと思うよ。私なんかよりずっとね。ありがとう、ごめんね。私個人は君達を信じているけれど、それでも見過ごせないこともあるんだ」
「初代様……! こちらこそ、温かいお言葉感謝に絶えません。偉大なる初代様に薫陶を受けた2代目様が、正しき教えを胸に創設されたこの教団の頂、聖女。そこにおぞましい企みを抱えた者を据えさせたのは他ならぬ私です。心の底から己を情けなく、罪深く思います」
「気にしない気にしない! 私だって一度アンドヴァリくんとは会ったけど、彼女は完璧な聖女って感じで非の打ち所がなかったんだ。話を聞くに相当長い間仮面を被ってたってことだろうし、騙されたって無理ないよ。ま、ダンジョン聖教は基本クリーンですよって表明するいい機会をもらったと思いなよ」
「…………申しわけありません…………!!」
初代聖女として、聖女にとっての聖女とまで呼ばれ尊敬されているエリスさん。
その彼女から暖かな言葉をかけられて、神谷さんは涙をこぼしながらその場に跪いて祈りの態勢に入った。
アンドヴァリを次代に指名した本人として、ダンジョン聖教を、ひいては歴代聖女を穢したくらいにさえ考えていたのかもしれない。
それを他ならぬ初代から慰められて、弱っていた心に沁みたんだろうね。御高齢にも関わらず前線に近い位置で倶楽部との戦いに臨んでおられたあたり、責任感が相当強い方なのは間違いないわけだし。
しかし……当のエリスさんは案の定だけど、祈られて大層困っていらっしゃる。冷や汗をかいて、やんわりと神谷さんを宥めていた。
なんともはや、相変わらずどこかで見た光景だよ怖ぁ……
「ハッハッハー、分かったから! もう止めようよそれ、なんかあるとすぐ祈りだすけど、それ私にやられてもご利益とかないからね!?」
「初代様を御前に、お言葉をもいただき……これをもって祈らずにいるなど、聖女を経験した者には不可能な話でございます。あの愚かなるアンドヴァリでさえ、貴方様の尊き御姿の前には罪深き五体を地に伏せ、罪を自覚し罰を請うことは間違いありません」
「そうなんですか? はっはっはー! じゃあ師匠はアンドヴァリの前になんとしても立たせないといけませんね。控えおろー! なんちて」
「ハッハッハー、印籠かな?」
困り果てたエリスさんに、弟子の葵さんがからかいの言葉を投げる。
いつもの2人の空気感に、場の雰囲気も多少、柔らかくなるのだった。
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