システム領域、次なる一手
ささっとお昼ご飯も食べ終えて、俺達はいよいよ話し合いを開始する。先の倶楽部幹部の取り調べを経ての、今後についての打ち合わせだ。
思い思いの席に座る俺達から見て一番前、いわば教壇的な位置に立つヴァールが司会進行役を務めてくれる。クールで淡々とした無表情のまま、彼女は切り出した。
「火野、翠川、青樹、そして鬼島──連中から今回聞き出せた情報の中で重要な点がいくつかあった。ダンジョン聖教過激派首魁たる、先代聖女アンドヴァリについてとサークルについて。そして委員会が山形公平をターゲットにする可能性がある、という点だな」
「前2つはともかく最後の、公平さんを天罰だのの対象にするかもって話は結構まずいですね……少なくとも彼周りについては状況が、倶楽部と戦っていた時よりも悪化しかねませんし」
「青樹が単独でつけ狙っていたのとはわけが違いますしねえ。いわば組織ぐるみで、概念存在まで一緒になって特定個人を脅かしに動く可能性があるってことでしょう? 卑劣なことしますよ、まったく!」
軽くおさらいしたところ、エリスさんと葵さんが深刻な面持ちで委員会に狙われだした俺を案じてくださっている。
たしかに、俺個人や周辺だけで言えば明らかに倶楽部の時よりまずいことになっている。どれだけの範囲、どれだけの数がいるかは分からないけど概念存在まで本腰入れて、組織ぐるみで俺に罰とやらを下しに動くかもしれないってんだからね。
俺だけに限って言うなら問題はないんだけど、やっぱり気になるのは家族や友人知人、あるいは近隣の無関係な方々に手を出されるとってところだ。
手を出したのが分かった時点で俺は即座に全力で因果操作して解決に走るけど、そもそも手を出される前になんとかするのが大切なのは言うまでもない。
でも、そのへんをカバーするというのはさすがに難しいかもなー……と、さっきまでは思っていたんだ。さっきまでは。
「先にも述べたが、この未曾有の事態に対して我々WSOは本腰を入れる。世界中の戦力を叶う限りこの国に集結させ、委員会に属するモノどもを返り討ちにし尽くしてやるのだ。山形公平周り以外にも、サークルや過激派など傘下組織に対応するための戦力は入用だからな」
「能力者犯罪捜査官メインに呼ばれるみたいですが、どうせ連中スレイブモンスターとかも使ってくるでしょうしS級も入用になるでしょうねえ! ファファファ、こいつぁ面白いことになりそうだ、知り合いのS級に片っ端から声かけてやるかねえ!」
「我らが救世主様の平穏無事をこうまであからさまに脅かさんとするモノども! 断じて許せるものではありません、私も人脈を駆使してことに当たりますとも!」
「怖ぁ……でもありがとうございます、ヴァール、マリーさん、香苗さん」
滅茶苦茶気炎をあげてる御三方の、勢いに飲まれながらも感謝を述べる。そう、WSO統括理事たるヴァールが今回、相当本気で動こうとしてるんだよね。
能力者犯罪捜査官やS級探査者を動かせるだけ動かして、俺を狙ってくるだろう委員会の連中を逆に叩きのめしてやろうっていうのだ。なんならサークルやらダンジョン聖教過激派などの、首都圏まわりの案件にも動員したいって思惑も垣間見えるね。
おそらくはそれを皮切りにして、逆に委員会の懐にまで一気に攻め込みたいまであるだろう。
なんかもう、想像を超えて大きな話になろうとしていてすごいことになりそうだ。
委員会というかうっかり漏らしちゃった鬼島、虎の尾を踏んでしまったんだなあ。
やられっぱなしは気に食わないと、可能性の話であれ脅しつけるつもりだったんだろうけど迂闊に過ぎたな。結果としてこっちは万全の準備を整えようとしているんだから世話ないよね。
サウダーデさんとベナウィさんが、後ろのほうの席で腕組みして深く嘆息した。
困ったように眉を下げ、師弟で何やら話をしている。
「能力者犯罪捜査官並びに、可能な限りS級をも呼び寄せる、と……参ったな。今月一杯で太平洋に帰る俺だが、そんな話を聞かされては帰りたくなくなってきてしまう」
「私もですよ師匠。まして我らが友ミスター・公平の平和を守るという大切な戦いになるでしょうし……離脱するのは心苦しいものがあります」
「我々にも我々の都合があるゆえ仕方はないが、そうだな……俺達も友人知人に声をかけてみようか。概念存在と戦う機会など滅多にないのだ、喜んで参加する者が太平洋ダンジョンにはウヨウヨといるだろうからな」
「それは良いですねえ。私もそうですね、何人か声をかけましょうか」
どうやら今月で日本を離れるという元々の日程に対して思うところがあるようで、それぞれ何やら動こうとしてくださっているみたいだ。
本当にありがたい……んだけどなんだろ、怖くなってきた。S級としてトップクラスのお二人が戦力として声をかけようって言うなら、それは間違いなく信頼の置ける探査者だろう。
下手するとS級クラスがゴロゴロいるのかもしれない。そう考えるとなんだろ、最終的にマジでヤバい戦力が集結しそうじゃないこの地域ってか俺の周辺。あるいは日本全土?
すごいことになりそうでちょっぴり引き始めている俺に、シャーリヒッタが次いで声を上げた。
ヴァールに向けて、高らかに宣言する。
「そういうことならオレも、システム領域はワールドプロセッサ補佐役として動くぜ、ヴァール!」
「む?」
「────精霊知能の追加投入さ! 近々システム領域で構築する、現世介入用の特別チームをさっそく動かすんだ!! すべては父様の現世での安寧のためになっ!!」
満面の笑みで強気にそんなことを言う。
なんか初めて聞く話がまたでてきたんだけど。現世介入用の特別チーム? 何それ怖ぁ……
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