利用する者される者、あるいは互いに騙し合うモノ
「貴様らは……やはり人間は、変わってしまった」
天罰執行宣言こそが鬼島にとってはある種の切札、というかせめて脅しつけるくらいの意趣返しはできる威力は秘めていると思っていたんだろう。
そのあてが外れて、すっかり彼は意気消沈してつぶやくばかりとなってしまった。概念存在を、天罰をまるで恐れずに反抗し、立ち向かってみせると息巻く俺達の姿に力なく項垂れたのだ。
うーん。気持ちは分かるけど、さすがに相手が悪かったなあ。
まさか鬼島も目の前にいる年端も行かない少年少女達が、その実この世界の根幹を構成するシステム管理者であるなどと思いもしていないのだろうし。
精々がどこか知らないところから来た、別の概念存在に関係しているくらいにしか思ってないんだろう──とまで考えて、俺はそう言えば、とついで質問を変えることにした。
気になるところはまだあるからね。というか倶楽部の目的の核心たる部分、異世界の神については是が非でも聞いておきたいところだ。
そもそも彼らがどうやってかの存在に気づいたのか。また、どうして利用しようと思い至ったのか。そのへんは明らかにしておかなければならないだろう。
「話を変えよう。あなた達倶楽部が製造していた神の器……そこに収めるはずだった神についてだ」
「…………なんだ」
「どういう経緯でその存在について知った? そしてどうして、その神を現世に降臨させようとしていたんだ」
「そもそもソレがどのような存在なのか、お前達委員会に属する概念存在はどのような認識を持っているのだ。そこを知りたい」
俺とヴァールの立て続いての質問。鬼島は胡乱げな目を向けつつ、疲れ切った顔でそれでも素直に口を開いた。
たぶん、思っていた以上に概念存在が恐れられなくなっていることを受けて悄気げちゃったのと、俺の隣でシャーリヒッタが未だにブチギレて威圧を放っているのが怖いんだろうね。
俺に天罰を下す宣言をした、ってのがこの子的には本気で許せない、完全アウトな話らしかった。あれからずーっと鬼島にプレッシャーを放ちつつメンチ切ってるんだもの、怖ぁ……
愛すべき娘の背中を軽く撫でて落ち着かせつつ、俺はこの場を終わらせたいならさっさと話すことをオススメするよと問いかける。
鬼島も、人間同然に弱ってしまった今ここまでの威圧には晒され続けたくないのか、従順と言っていいほどにスラスラと話し始めてくれた。
「あのモノについては……発見したのは、現世がこうなるより少し前からだ。120年ほどの昔だったと聞いている」
「結構古いな。どこで見つけた?」
「概念領域はギリシャ神話カテゴリーの勢力下にて。物言わぬ骸、しかして権能だけと言っていい状態のまま鎮座しているのを海神が発見した」
「権能だけだと……骸? 意識はないのか、思考も、反応も?」
思わず尋ねると鬼島はそうだと頷いた。早速の予想外の話だ……異世界の神は、力だけがこの世界にやって来たとでも言うのか?
いや、さすがに概念存在だからってそこまで細分化できるものじゃない。おそらくは一時的に心身が分裂している程度の話で、権能は見つかったものの、肝心の意志、精神の部分は今なお行方不明ってことだろうな。
異世界の神が利用されようとしているってのはつまり、発見された権能部分だけを良いように使おうとしていたってことなんだな、委員会は。
そしてそのために神の器を用意したんだ。権能に肉体を与え、極めて強大な操り人形とするために。
精神部分がどこに行ったのか。そこは気になるところだけれど、今は発見した権能部分に肉体を与えて、一体何をさせるつもりだったのかというところだな。
加えて尋ねると、鬼島はさらに詳しく説明していった。
「そもそも、その神に──その権能に器を与えて顕現せしめようと提案したのは人間側、ダンジョン聖教のアンドヴァリだった。委員会との交流の中でその存在について知ったあの女はどういう理屈か、意志なき権能そのものに何かを見出したらしい。わけのわからんことを、何やらブツブツと言っていたが」
「先代聖女の提案の下、倶楽部が発足したのは火野の証言にもある。だがお前達にもそれなりのメリットがあっただろう。何もなしでただアンドヴァリの願いを聞くなど、そんなはずもあるまい」
「つまりー、あなた方概念存在側とダンジョン聖教先代聖女側とで利害が一致しているからこそ、共謀してことにあたったわけですよねー? そちらの利益とは、一体何なんでしょー?」
アンドヴァリが基点となっていることについては今のところ、概ね事実として扱うべきだろう──火野と鬼島の証言が完全に一致しているし、実際に元聖女は今なお、首都圏にてサークルと組んで迷惑行為に及んでいるからね。
彼女が何を求めているのか、そこは定かじゃない。それは今後、首都圏にて戦う中で判明していくことなんだろう。
だがそれと同時に、委員会側にもなんらかのメリットがあったはずなんだ。なければそもそもアンドヴァリの提案に乗って、ここまで大掛かりなことをするとも思えないからな。
そこを突いたヴァールとリーベの問い掛けに、しかし鬼島は頭を振った。
力なく、失笑さえ浮かべて答えたのだ。
「……委員会の目的は、意志なき神そのものではない。その現世降臨に至るまでに培われるであろう、ノウハウだ」
「ノウハウ……まさか、倶楽部の!?」
「そう、ダンジョンコア加工技術から始まりスレイブモンスターの製造、人間をモンスター体に仕立てる技術、その先にある神の器の製造……ウラノスコーポレーションを利用しての、スキルブーストジェネレータ技術。それらそのものが委員会の欲していたものだ。それさえ手に入れば、アンドヴァリの野心などどう転ぼうがどうでも良い」
「アンドヴァリをまんまと利用したんだな、テメェら……!」
シャーリヒッタが愕然と呻いた。
そう、委員会にとってこれは目的のために講じた手段でなく、手段を求めて乗りかかった目的だった──
目的のためには手段を選ばないのでなく、手段のために目的を選ばなかった結果、たまたまアンドヴァリの提案に応じたのが倶楽部の発端だったんだ!
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