鬼島の取り調べは任せろー(バリバリ)
火野、翠川、そして青樹さん。3人の倶楽部幹部への取り調べが終わり、いよいよ残るは鬼島だけとなった。
肝心要の相手だ……概念存在・赤鬼を正体とするこの男こそ、委員会について少なからず情報を握っている可能性が大なのだから。
神魔終焉結界を発動して蒼いコートに身を包みつつ、俺は立ち上がった。同時にヴァール、リーベ、シャーリヒッタも立ち上がる。
コマンドプロンプトと精霊知能3体──この場にいるシステム側の存在総出だ。元より鬼島の取り調べに関してだけは現世でなく私達が請け負う形でヴァールが調整してくれていた。
であれば、ここからは我々の戦いということになる。
「よし。やれるな3人とも」
「もちろんですー!」
「いつでもいけるぞ、山形公平……いえ、コマンドプロンプト」
「へへっ、父様と姉妹達とで鬼退治ならぬ鬼尋問だ。鬼島め覚悟してやがれよ!」
気合十分の三姉妹。彼女達にとっても概念存在とまともに向き合うのは、まあヴァールなら多少経験はあるかもだけど割とレアなことだろう。
俺にしても織田を除けば鬼島が2体目だし、敵として相対するって意味だと記念すべき第一号だ。
……いやまあ、本当はシステム側がここまで出張るのが良くないことではあるんだけどね。
本当に想定外なんだよ。俺達からしても今回、ここまで概念存在とガッツリやり合うことになるとは思ってもいなかったってのが本音だ。
刑事さんが退室してがらんどうになった取調室に4人、入って俺が椅子に座る。後ろで並び立つ精霊知能3体に向け、俺は雑談がてら軽く話しかけた。
「にしても、明確にシステム側が現世に肩入れして概念領域を睨む形になっちゃってるよな。これ、バランス的にはどうなんだ? ワールドプロセッサ的にはあまり面白くないとは思うんだけど」
「たしかに、喜ばしいことじゃないとはあの方も零してたぜ、父様。結局父様に現場をお任せしてしまっていることまで含めて、現状は望ましいものではないってさ」
「俺のことは別に構わないんだけどさ」
今こそ成り行きから、そして一部の概念存在のやらかしっぷりから俺ことコマンドプロンプトが明確に現世に寄り添い、連中と敵対している形にはなってるけど。正直なところこれも、本来はあるべき形とは言えない。
概念存在の相手は現世が行うべきなんだよね、本当は。いつか知的生命体が概念存在を超えるためにも、いつか巣立ちの時を迎えるためにも。
ただ今回、バグスキルの悪用に始まりダンジョンコアの無断加工、スレイブモンスターやバグモンスターの製造。
果ては偽りの神の器まで拵えるなど、完全にシステム側の逆鱗に触れる事態を複数引き起こしてしまっているから……そうした件については現世側だけでは対抗できないと判断して、システム領域も介入を決意したって形なわけだね。
「バグスキルとかダンジョンコアを利用しない形で概念存在が動き回ってる程度だったら、現世側が乗り越えるべき問題ってことでシステム領域がここまで動くことにはならなかったんだろうなあ」
「その場合でもワタシやあなた、それに後釜は参戦していたとは思うがな。どうあれ現世に受肉している我々は、常に当事者側なのだから」
「つってもたしかに、異分子処断権限が認可されるところまでは行かなかったのは分かるぜ。ぶっちゃけ本来の役割を果たす日が来るなんて思いもしてなかったしな、オレ」
「システム領域の存在、それも基幹たるワールドプロセッサが名指しでアウト判定下すなんてとんでもない話ですからねー」
シャーリヒッタの言葉に、リーベが肩をすくめてやれやれって感じで吐息混じりに漏らす。いやまったく、シャーリヒッタまで動くことになるなんて完全に予想外な展開だったよ、倶楽部についてはさ。
それだけ連中がシステムを悪用してしまい、かつそれが現世秩序を大きく乱しかねないものだということだ。邪悪なる思念との決着がついた直後にこれだから、ワールドプロセッサも全力で容赦なくことにあたるのは当たり前のことだ。
そう考えると倶楽部も、なかなかドンピシャでデリケートなタイミングに動き出したもんだよなあ。ここについては偶然でしかないんだろうけど、恐ろしい間の悪さだよ。
倶楽部やサークル、ダンジョン聖教過激派……ひいては委員会からしてもシステム領域については知る由もないわけだから、なんかいきなりよく分からん第三勢力? みたいなのが敵対してきた感じになってそうだね。
「鬼島への取り調べで少しでも、委員会に与している概念存在について聞き出せるといいんだけどな……」
「あとはあの、オー、もとい織田が向こう側の情報をどれだけ掴めるかですねー。彼の立場を考えるとアンテナが低いわけないとは思いますけど、とかく概念領域はいくつも勢力がありますからー」
「過度な期待は向こうにも悪いからするべきじゃないけど、彼とも近々話さなきゃなー。まったく、夏休みがなんだかんだと大忙しだよ」
北欧神話の大神オーディンこと織田。彼とはこないだ盟約を結んだばかりで、お互いに連絡先を教えあったりもしている。
現世で動いている概念存在についての情報を得たいとなれば、かの神とも話し合わなきゃいけないだろうね。それも結構頻繁に。
今月下旬には首都圏にも行かなきゃだし、自由研究もしなきゃだし。なんならシステム領域にも一度里帰りしなきゃいけないしでなんかやたらと忙しいなあ。
しかたないことだけどどうにもやるせない。差し当たっては鬼島から聞けるだけのこと聞き出して、ちゃっちゃとやるべきことをやっていかなきゃなーと俺は内心でため息を吐くのだった。
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