さしものワルにも義理人情くらいはあった
火野に続いて再度いきり立つ女性陣にはひとまず落ち着いてもらって、翠川への取り調べはまだまだ続いていく。
彼の来歴については概ね分かった。心底短絡的な理由から裏社会に入り、そして地下大会や用心棒などを経て火野と出会い、能力者とのバトルを求めて倶楽部へ参加と、概ね常に欲求への素直さが目立つ。
バトルジャンキーらしいといえばらしい話で納得できなくもない話だ。
そんな呆れた男は刑事さんの次なる質問、すなわち倶楽部に入って以降のことについて尋ねられ、特に嫌がる様子でもなくあっけらかんと答えていた。
「──倶楽部における俺の役割はもっぱらタクシー、あるいはバス、もしくは電車が飛行機か。つまるところは《座標変動》を用いての遠距離移動で幹部間の連携を取ったり、実際にあちこち連れて行く役割だった」
「瞬間移動スキルだな。他にもスレイブモンスターの密輸に関して、クライアントとのやり取りも担当していたはずだ。違うのか?」
「いんや? たしかにそっちも担当してたよ。つっても年に数回、ブローカーを間に立てての事務的なやり取りばっかだから大した手間でもなかった。やっぱり俺の仕事は、幹部連中や荷物やらをあちこち運ぶ公共交通機関だったぜ」
こともなげに恐るべき犯罪、スレイブモンスターの他国への輸出について語る。
半ば分かっちゃいたけど、特に罪悪感とかはないんだな、火野と言いこの男と言い。つくづく遵法精神もなければ法や秩序に逆らっているという自覚さえない、まさしくアウトローなんだなと思い知らされる心地だよ。
とはいえ翠川本人の意識としては、密輸関係よりもやはりバグスキルを用いての幹部間のやり取りを調整する役割のほうが本業だと思ってたみたいだ。
言っちゃうと事務仕事は彼じゃなくともできるだろうけど、《座標変動》を用いての移動やそれに伴う連絡網の構築なんかは翠川にしかできないからな。
それを考えると、俺達が一番最初に捕まえることができた幹部が翠川だったのは運が良かったな。思わずして幹部間の連携や連絡を著しく断ち、スレイブモンスターの集結も半ばで頓挫させられたわけだし。
巡り合せの良さを今さらながら感じていると、さらに刑事さんが質問を重ねていた。
「幹部間の連携を取り持っていたと言うが、それは鬼島も含めてか? 火野、青樹の他にもう一人、幹部がいたことは把握していたのか」
「そりゃまあな。シャイニング山形同様に得体の知れないやつで苦手だった……あー、ちなみに青樹だけは鬼島と接触がなかったはずだぜ」
「……青樹だけが鬼島を知らないと?」
「あの女だけは元からして火野が使い捨て用に連れてきた名ばかり幹部だしな。だからあいつだけ大した仕事も任されてねえはずだ。倶楽部への勧誘活動とか、スレイブモンスターの世話とかな」
鬼島との関係性を聞く中で、なんとも嫌な話を聞いてしまった。隣の香苗さんを見る、無表情の中にも怒りを覗かせる瞳に、俺は彼女の手を握る。
火野自身が言っていたけど、青樹さんを見出したのは本当に偶然の産物だったみたいだ。
かつてアドバイスした組織で生まれた、人造能力者である彼女をたまたま見かけたもんだから、これ幸いにと近づいて洗脳して使い捨てたんだな。
そして本来想定していた要員じゃない上に最期には切り捨てるのが確定していた人材だから、大した仕事も任せることなく半ば塩漬けしていた、と。
胸の悪くなるような話だ。火野め、徹底的に青樹さんを道具か玩具のようにして遊んでいたんだな。
モニターの向こう、翠川が鼻を鳴らした。彼もまた青樹さんを侮蔑的な視線で見ていた覚えがある。つまりはある程度でも青樹さんの事情を知り、その上で利用していたということなんだろう。
「火野なんぞに目をつけられたのは災難だが、あの女の滑稽さは俺からしたら爆笑もんだったぜ。真人類なんてジジイの戯言真に受けて、その気になってよ……」
「お前自身は真人類優生思想保持者ではないのか」
「ったりめーだろ、馬鹿馬鹿しい。人類に真も偽もあるかよ、体のいいおためごかしに引っかかりやがって」
吐き捨てる翠川。真人類優生思想を、明確に青樹さんを洗脳するための出汁にしていた火野と同様、彼もまたそうした選民思想には興味がないらしい。
清廉さによる無関心ではない。それが人を騙すための方便に過ぎないとわかり切っているからこその、邪悪な無関心だ。心を弱らせた青樹さんが火野につけこまれたのを、この男は黙って見ていて、あまつさえ嗤っていたんだ。
ベクトルは違えど、この男もまさしく邪悪と呼ぶに相応しい。
隣の香苗さんが険しい顔でモニターを眺めるのを横目にしつつ、俺もまた、翠川に注視した。
不意に、彼は凪いだ表情でつぶやく。
「……ま、あいつは俺や火野、鬼島に比べりゃ大した仕事もしてねえってのは言っとくぜ、お巡り」
「なんだと?」
「俺も鬼じゃねえ、さすがに十把一絡げに裁かせるのもちぃとな……使い捨てだったあいつはそれゆえ、勧誘活動だのスレイブモンスターの世話だのと、雑用しかしてこなかったよ。罪の軽重で言えば、非能力者の鬼島と並んで軽いほうだとおもうぜ?ま、そのへんを言えばやっぱブッチギリはあのジジイだがな」
…………意外な、言葉だ。まるで、いや完全に今、翠川は青樹さんを弁護した。
自分や火野に比べて大したことをしていないのだから、自分達ほど重い罪にするのはおかしいと、言ってみせたのだ。
刑事さんまでもが困惑しきりに見つめる中、彼はさらに小さく、囁く程度の声で言う。
それは、妙に優しい、けれど皮肉っぽさの抜けないつぶやきだった。
「とっ捕まった時、わざわざ手助けに来てくれた礼だ…………馬鹿な女がよ。これに懲りたらもう二度と、変なジジイに絡まれるんじゃねーぜ、青樹よう」
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