この救世主、戦闘になるとひたすら塩っぱいんですけど
間違えて完結済みにチェックしちゃってました…
まだまだ続きます!連載中です!
失礼しましたー
そっちのほうが楽しそうだから、などと極めて短絡的な理由で義務付けられている全探組への登録を行わず、家族さえ捨てて、裏社会へと入っていった倶楽部幹部・翠川均。
もう20年以上も前のことらしい。彼はそこから、犯罪組織を転々としては各所で用心棒のようなことをしていたとのことだった。
「同じ穴の貉な能力者はそれなりの数いてな、毎日とはいかねえが頻繁に戦ってたよ。ああそうだ、戦いといえばあの頃が一番楽しかったなあ……バトル大会に参加してたんだぜ、俺」
「捜査の結果そこは判明している。10年前に摘発されて壊滅した、裏社会の地下能力者格闘大会だな」
「並み居る強敵どもを俺の《振動》がぶちのめしていく、お互い命懸けでのバトルさ。スリリングだったぜ? かれこれ3年くらい、あそこで遊んでたなぁ」
能力者による地下格闘大会って、そんなのもあるんだな、世の中。からから笑う翠川は、当時を思い出しているのか心から楽しそうに見える。
大会を開けてしまうくらい、裏社会に流れる能力者が多いってのは率直に残念だ。探査者として生きることを様々な理由から拒否して結果、そうした道を進んでしまうんだろうかね。
ともかく用心棒をする傍ら、地下試合で趣味の能力バトルに明け暮れていた彼は、しかし地下大会が摘発されて壊滅したことを受けて根無し草同然になったという。
用心棒としてやることも基本、非能力者を脅しつけるだけのことでしかないらしく……率直に退屈してしまったのだと、あっけらかんと語っていた。
「用心棒なんざ楽しくもなーんともねぇ。非能力者を能力でいびる、なんざちっともやり甲斐ねぇし、かと言って今さら探査者になろうにも、なんせ裏社会にどっぷりのモグリだ。さすがに進んでムショ行きになるのも御免だったしよ」
「それで倶楽部に参加したのか。火野とはどのタイミングで接触した?」
「8年前。用心棒もいい加減飽きてたし、心底腐ってた時期だった。いきなり現れたあのジジイに叩きのめされてよ、俺ぁスカウトされたのさ」
いよいよ核心の、倶楽部との関わりについて語られていく。どうやら翠川については青樹さん同様に火野手ずからのスカウトを受けたらしく、その際に勝負をして打ち負けたみたいだな。
8年前、となると翠川は30歳頃、火野は90歳頃の時期だ。普通なら勝負にもならないただの老人虐待だけど、何しろ相手が相手だからね。
どこか悔しげに、彼は呻くように供述した。
「用心棒やってる中で俺が得ていた切札《座標変動》も……あのジジイにゃ届かなかった。そもそも《玄武結界》がインチキ過ぎたし、そうでなくとも肉弾戦で普通に押し負けちまった。思えばリベンジできずじまいだったな、くそ」
「ふむ……それで、負けたことでスカウトを受けたのか?」
「まーな。あとアレだ、倶楽部の目的がもろに世間様に喧嘩売ってるわけだしよ。手伝ってりゃ能力者とバトルできるかなと思ったんだ。実際、最終的にゃあ早瀬葵だのソフィア・チェーホワだのと上玉とやり合えたしな。ハハハハハ!! あいつらと戦って終われたんなら悔いはねえや、スッキリさせてもらったぜ!」
高らかに笑う翠川。念願かなって能力者との戦い、その末に敗れて今、こうして捕まっているわけだけど彼にはそれが満足のいくものらしかった。
筋金入りだ、このバトルジャンキー。倶楽部の目的なんて本当にどうでも良くて、ただついていけば道中で能力者と、探査者と戦えるからってだけで組織に参加していたんだな。
貪欲すぎる趣味への姿勢。道を踏み外してまで追い求めた娯楽だからか、のめり込み方が尋常じゃない。
期せずして彼のそうした欲求を満たす、手伝いをさせられる形になってしまった葵さんやソフィアさん、いやさヴァールなわけだけど……彼女達はそりゃもう盛大に嫌悪感で顔を歪め、揃って吐き捨てていた。
「キモい……本当にキモい。何が上玉なんだっての……」
「自身が死ぬことさえ厭わずに、己の欲求を満たすことを優先したのか。理解に苦しむ……何より物言いがおぞましい。どことなく、鳥肌の立つ心地だ」
うーん、辛辣だけどこればかりは仕方ない。独り善がりな欲求発散に、無理矢理つきあわされた形になってるわけだからね。
モンスターハザードを引き起こそうとしていた男の勝手すぎる言い分に、彼女達が嫌悪感を抱くのは当たり前の話だよ。
っていうか俺については言及ないのか……一応その場にいたんですけど。
まあ直接何かしたわけでなし、取り巻きのスレイブモンスターを全滅させた程度だしなあって思っていると、モニター越しの翠川がふと、顔を歪めた。なんだ?
面白くなさそうに足を組み、不貞腐れたように口を開く。
「誤算といえばまあ、あのガキ……山形公平だな。ありゃなんなんだ、なんのスキル持ってやがんだ? 風穴開けてやったはずの女を一瞬で治しやがったり、虎の子のスレイブモンスターを一瞬で全滅させやがったり……せっかく気持ちよくなれたのにアイツのせいでちょっぴりだけモヤモヤが残っちまった」
「シャイニング山形……彼もその場にいたようだな。彼については不満か」
「まあ、多少はな? 俺ぁつえーやつとは戦いたいが、さすがにあそこまでインチキなやつはお呼びじゃねえ。つまんねーやつだよ、何もかも初手でひっくり返してきやがる。ありゃエンタメ的には人気でねーやつだな、なんか光るから面白がられてるだけだ、一発屋だよありゃあ」
「…………」
えぇ……なんかエンターテイメントの観点から酷評されてる、怖ぁ……
別に見世物じゃないんだ、最初からできる限りを尽くして何が悪いのか。ましてや光るだけの一発屋扱いだなんてあんまりだ、なんでお前のウケを取ろうとしなきゃいけないんだか。
「救世主様になんたる暴言……!! 赦せません、今すぐ殴り倒して無理矢理伝道してやりましょう!!」
「おうやっちまえ香苗! オレも手伝うぜ、父様への侮辱は絶対に許さねえ!!」
「待て待て待て待て」
「香苗さんストップー!! シャーリヒッタもー!」
そして案の定と言うべきか、即座にいきり立つ伝道師さんと囃し立てる使徒兼娘。
取り調べの邪魔というか、別の意味で取り調べ受けることになるから大人しくしていてください! ステイ!
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