見えてきた組織図、アンドヴァリの謎
火野の余計な言葉を受けてキレる女性陣を宥めつつ、しかして続く質疑を眺める。
気になっていた倶楽部の目的についてはやつと鬼島で認識が異なっていることが判明したわけだけど、これは委員会の下部組織としての役割を果たそうとしていた火野と、概念存在として本懐を遂げようとしていた鬼島の違いとも言える。
客観的な全貌を導き出すにはやはり、鬼島や他の幹部からの話を聞き出す必要があるだろう。
ある程度聞き取りを終えて、刑事さんは次の質疑へと移った。今後にも関わる話……すなわち倶楽部と結託していた組織達とのつながりについて、だね。
「倶楽部と協力関係にあった組織……サークルにダンジョン聖教過激派、さらに技術提供を受けていたと思しきウラノスコーポレーションについて。どのような成り行きで関係を持つに至った? 倶楽部からの働きかけによるものだったのか?」
「核心を問うてきよるか。当たり前とはいえ小癪じゃな」
「無駄口を叩くな。答えろ」
軽口を交えて笑う火野に、努めて冷淡に刑事さんが促す。煮ても焼いても食えない老爺に対しては、一切の感情を見せずに淡々と相手をするのが一番なのだろう。
実際、火野もすぐつまらなさそうに鼻を鳴らして、渋々と話し始めたからね。
そうして語られる周辺組織との関わりについて、なんだが。
ここに来てまたしても火野は、誰にも予想できていなかった驚くべき真実を口にした。
「倶楽部から、というのがまず前提として間違っとる。発端は過激派、アンドヴァリじゃ」
「……何?」
「クククッ、聞いて驚けよ? あの女は委員会と個人的なつながりを持っておる。聖女になる前、まだ小娘同然だった頃からな」
「…………うそ」
後ろで神谷さんが息を呑んだ。先代聖女アンドヴァリが、聖女になる前からすでに委員会とつながりを持っていた。
しかも倶楽部創設の実質的な首謀者でもある、なんてとんでもないスキャンダルだ。つまりはダンジョン聖教はある一時期、委員会の手のものによって支配されていたも同然なのだから。
ダンジョン聖教過激派は倶楽部、サークルと手を組んで異世界の神を現世に顕現させるために動いている、までは知っていたけど……
それどころか初めからそのために倶楽部を、もしかするとサークルさえも作るよう働きかけていたのかもしれないのだ。口元を手で抑え、顔面蒼白になる神谷さんの反応も当然のものと言えた。
「それゆえやつが信奉する"神"とやらの顕現に向け、働きかけた結果が倶楽部創設じゃ。儂と鬼島はその意向を受けて動いたに過ぎん」
「ダンジョン聖教そのものが、委員会と結託してサークルや倶楽部を創り上げたと?」
「そうじゃ──と言いたいがな。それでは今、かの宗教が内輪揉めしとる理由が分からんじゃろう? アンドヴァリめは聖女としては、忌々しいほどにキッチリ委員会との関係を断絶して仕事しとったわ。聖女を辞めてからじゃな、本格的に動き出したのは」
「アンドヴァリ個人の、プライベートでの動きでしかないということか……」
刑事さんのある意味、ダンジョン聖教への容赦のない質問。あるいは神谷さんにさえ嫌疑がかかりかねないところだったが、なんの因果かそこは火野がファインプレーを見せた。
委員会とのつながりはあくまでアンドヴァリ個人のものであり、聖女時代は完全にクリーンな組織運営を保っていたと供述したのだ。
無論、それがどこまで信憑性があるかは微妙なところだけれど……少なくともダンジョン聖教そのものを完全に黒と断定してしまう状況でもないのは不幸中の幸いと言ったところか。
神谷さんも少しだけ顔色を取り戻していたけれど、それでもその表情は深刻だ。自らの直系の後輩が、まさか今回の件の元凶とも呼べる存在だったなんて思いしなかったのだろう。
仮にもダンジョン聖教の聖女にもなったんだし、アンドヴァリ周りの身辺調査はしっかりやってたとは思う。となると隠蔽しきっていた先代聖女がこの際、すさまじい手管だと言うべきなのかな。
これは取り調べ後の話が揉めに揉めそうだよ。初代聖女のエリスさんも相当、難しい顔をしているしね。
「あと言っとくが、サークルの創設に関してはアンドヴァリ率いる過激派も儂ら倶楽部も大して関わっとらん。あやつらも委員会の下部組織であることには違いないが、ラインが違うでな」
「ラインだと?」
「委員会とて複数、プランを練っておるということよ。サークルは別の目的、これは儂にも分からんがそのために作られ動いており、ダンジョンコアの流通に関しての儂らとの提携はあくまでついで程度のことじゃ。過激派とはまた別個に、関東のほうでつるんどるようではあるがな」
なんとも複雑な話だなあ。要するにサークルはサークルで、倶楽部や過激派とは何ら関係のない別口の計画のために創られたってことか。
それでも一部、ダンジョンコア絡みで提携する箇所があるため協力していたと。さすがに委員会は悪の組織めいているだけあって、いくつも同時並行で企てを進行させているんだな。
「サークルの本来の目的はなんだ? ダンジョンコアが絡む話なのは間違いないだろうが……まさか単純に密輸して資金を得るためだけではあるまい」
「ミス・アンジェリーナやミス・ランレイは何か情報を得たりはしてないのですか?」
「目下のところ、密輸相手の詳細や支援者についての資料は入手できているようだ。支援者を辿れば浮かんでくることもあるかもしれん」
「組織の目的を知った上で投資している者もいる、可能性は大いにありえますね」
ヴァール、ベナウィさん、サウダーデさんがサークルの目的への足がかりを語る。首都圏で今、やつらを相手取っているアンジェさんやランレイさんが得た情報の中にヒントは隠されているのかもしれない。
迫る次なる戦いの、準備が段々と整ってきている。そんな気がするよ。
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