質疑応答─老醜から見た倶楽部とアンドヴァリ─
逮捕されても変わることのない邪悪さ。火野老人は何一つ反省も後悔もしないとばかりに嘲笑を浮かべ、おぞましい言葉を吐き続けている。
面と向かって質疑を投げている刑事さんはすごいよ、顔色一つ変えていない。こんな類の輩を常から相手にしてるんだろう、慣れた感じが物悲しくも頼もしい。
火野の来歴はそこそこに、次いでなされた質問はいよいよ核心を突くものとなっていく。
すなわち倶楽部の活動目的とサークル、ダンジョン聖教過激派、委員会などの各組織とのつながりについてである。
「お前が事実上のリーダーとして率いていた組織・倶楽部……その活動は人の手により操作可能なモンスター、スレイブモンスターの国外への密輸とされているがそれだけではないな? 一体何を目的としていた」
「ふむ……ま、もう儂も潮時、あとはどうあれ死ぬだけの身よ。最後くらいは潔くしてやろうかの」
哄笑を浮かべていたのが一転して、静かな水面を思わせる表情に切り替わる。
いかにも満足げだがこの男、これから裁判にかけられて罪過に問われ刑に服するんだがその自覚はあるのだろうか?
ステータスによる恩恵もなくなり完全に98歳の身体だ、もう長くないからと開き直ったのか?
何もかもを洗い浚い話すつもりなのは結構だけど、勝ち逃げを画策しているかのような余裕ぶりであまり愉快な話でもないな、正直。
微妙に釈然としないながらも固唾を呑んでモニターを見る。
防音の壁を隔てて向こう、老醜と呼ぶほかない男はやがて語り始めた。
「委員会にて活動していた儂が、その話を受けたのは20年前のことじゃった──ある日突然、鬼島なる男とともに組織を作れと言われたのじゃ」
「言われた? 誰にだ」
「幹部、としか言いようがないのう。秘密主義の組織ゆえ、半世紀以上も属しておった儂ですら首魁はおろか幹部連中の顔も名前も知らぬのよ」
「…………なるほど」
嘘をついていないかどうか見定めていた様子の刑事さんだったけど、どうやら本音だと判断したみたいだ。
長年の勘によるだろう感覚的な判断の良し悪しはなんとも言えないけど、俺も、今の火野は嘘をついていないんだろうとは思えるよ。
委員会──倶楽部やサークルの上位組織にして、おそらくは概念存在も大きく絡んでいるだろうかの組織が、人間である火野にすべてを曝け出すようなことはしないだろうからな。
突然鬼島を連れてきたってのも、要するに概念領域から自前のエージェントを差し向けたって話だろうし。システム領域からすればある程度は予想のつく連中だけれど、現世社会からすれば概要すらつかめない謎の者達なのは当然のことと言える。
「鬼島と儂、作る組織のその目的は──儂が知る限りでは"神の器"の製作とそれに伴うノウハウの確立、というものじゃった」
「神の器。倶楽部拠点から押収した資料にもあったが、神とはなんだ? そしてその器とは?」
「知るかよ、儂ゃ宗教かぶれではないわ。ただ過激派のアンドヴァリはソレをして"ダンジョン聖教が真に讚えるべき存在"と言うておった。ダンジョン聖教の神は自前の教典などで散々描写されとるはずじゃが、あの小娘はソレとはまた別なところに神とやらを見出だしとったということじゃろう」
いくつかの質問に素気ない素振りながらも逐一答えていく。なるほど、火野にとっての倶楽部の目的とはすなわち、こないだの化物を産み出すことそのものだったわけか。
アレがそもそも、ダンジョン聖教過激派が降臨を目論む異世界の神のための器であろうことを考えると……倶楽部もまた、異世界の神の降臨のために動いていたということになるな。
「神を……我らが信仰すべき御方を、アンドヴァリは元より違えていた? ややもすれば、20年前から……?」
「異世界の神の存在に、四半世紀前から気づいていた? ……システム側よりも先に、だと。あり得るのか……?」
神谷さんとヴァールの、呆然とした響きが聞こえた。
ダンジョン聖教過激派のリーダーにして先代聖女であるアンドヴァリさんが、場合によっては倶楽部創設以前から独自の解釈で神の存在を特定していたということになるのだから、彼女の一代前の聖女としては驚く他ないのだろう。
ここについては内心、俺にとっても驚きだ。ヴァールがつぶやいたように概念存在なり現世の存在なりが、異世界から流れ着いた神の存在に25年近くも前から気づいていたなんて青天の霹靂ってやつだからな。
ワールドプロセッサは気づいていたのかもだけど、精霊知能達は知らなさそうだし。今度システム領域に還った際、このへんの話はあいつから直接問いただしたほうが良いのかもしれないな。
「反面、鬼島は鬼島でまた別口の目的のために動いとったみたいじゃがな。そちらは儂の関与するところでもなければ興味のあるところでもない。儂は知らぬが、やつとて捕まっとるんじゃろう?」
「鬼島……か。たしかにやつも捕らえている。のちほどそちらにも取り調べは行うが」
「あの得体の知れん化け物を、ようも捕まえたもんじゃのう。あれか、直接相手しとった山形公平の仕業か……モリガナ以上とでも言うか? 小生意気な。先達への敬意も持たぬ若造がモリガナの上におるなど、身の程知らずじゃのう」
鬼島、ひいては概念存在側の目的──探査者を探り、叶うならば管理下において概念領域側の手駒とする──についてはやはり知らされていないようだ。興味もなさそうに嘯く。
ただ、やつがヒトならざるモノであることは勘付いていたみたいだ。そこはさすがと言うしかないね。
なんなら俺が鬼島を捕まえたところまで推測で当ててきたけど、その後が余計だった。
俺をなんだか毛嫌いしている感を出しつつ揶揄する老人に、うちの女性陣が結構キレちゃったのだ。
「なんだとこのジジイ! うちの父様になんて口利きやがる!!」
「生意気はどっちですか! 魂まで薄汚れてるくせしてー!」
「伝道して……は、やりませんよあのような輩。救世主信仰による救いの手が差し伸べられる時が来るとしても、最低限それは償いを終えてからであるべきです」
「怖ぁ……」
シャーリヒッタとリーベがいきり立ち、香苗さんは冷淡な顔と声でまさかの伝道キャンセル。
さすがの伝道師でもラインは設けてたかー。でもまあ、罪を償えば伝道する余地を残してそうなのはさすがの一言だね。
などと、変に感心しちゃう俺だった。
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