罪業と血、邪悪に塗れた男の旅路
「それではこれより能力者犯罪結社・倶楽部に関しての取り調べを行う」
郷田さんの厳粛な声とともに、取り調べ室のテーブルの前、椅子に座る火野への取り調べが始まった。
いわゆる被疑者……にあたるらしい彼は、年齢相応の皺だらけの顔でしかしなお、若々しい気力を感じさせる瞳をギラつかせている。
ニヤリ、と不敵に笑う火野を無言で見つめてから、実際に取り調べを行う刑事さんが質問を始めた。
「まず被疑者の来歴について確認する。名前は火野源一、歳は98歳。住所不定無職だが倶楽部の創設者として各拠点を転々としていた。間違いがあれば訂正を」
「特にありゃせんよ、カカカ! 住所不定無職という扱いは面白くないがのう、若いの。年長者への敬いが足りんぞ?」
「関係のないことは話さないように……84年前に探査者として組合に登録済み、しかし81年前に行方を晦ませる。次に姿を見せたのは3年後、78年前に起きた第二次モンスターハザード事件の首謀者として。それまでどこで何をしていた?」
嗤いながら茶化す老人に、無表情で答えつつ刑事さんは話を進める。分かり切っていたけど反省や後悔の色は一切見えないな、火野老人。
隣でエリスさんが小さく舌打ちした。冷たい怒りを秘めた、軽蔑の眼差しでモニターの中、火野を見ている。
そんな、まるで改心した様子もない犯罪者は、彼が初めて犯罪に手を染めた第二次モンスターハザードに至るまでの空白の3年を問われていた。
探査者としての活動、3年しかしてなかったのか……それ以降は情報更新がなかったことから、ずっと犯罪組織に身を寄せていたことになる。
人生の大半を罪に塗れて生きてきたんだな、火野という男は。
やつは問いかけに対し、余裕の笑みをもって答えた。
「知っとることをわざわざ聞きよるか、しゃらくさいのう……委員会。過去100年にわたりモンスターハザードを度々引き起こしたあの組織にわしはおったよ。なんならつい20年ほど前までな!」
「……そして第二次モンスターハザードを引き起こす尖兵となった、と。事件が終息してからは再度姿を晦まし、次に姿を見せたのが今回の件。それまでずっと委員会にいたのか? 何をしていた?」
「いろいろしとったのう。傘下組織に出向したり、よその犯罪組織の起こした騒動にアドバイザー扱いで参加したり……クカっ! そうじゃそうじゃ、"実験室"なんて組織ともいくらかやり取りしたこともあったのう!」
楽しげに語る内容は、さわりだけでもおぞましい内容をほのめかしているものだ。
第二次モンスターハザード──エリスさんが主体となって解決したその事件の終了後、やつはずいぶんと裏社会で精力的に活動していたようだな。
所属している組織・委員会の下部組織や別の組織への出向、協力。それだけでも叩くまでもなく埃まみれの身であろうに、続けて老人は哄笑した。
もはや人間のものとも思えない邪悪そのものな笑顔のまま、高らかに告げる。
「人力でステータスを獲得する方法を模索する集団じゃったなあ。わしはさしたる興味もなかったが、請われて少しだけアドバイスしてやった覚えがある」
「アドバイス?」
「モルモットは身寄りないガキどもを使い潰せば良いのではないか、とかな? クククッ……まさかモルモットの中の一匹が、後に同僚めいた玩具として手元に来るとは思いもせなんだよ! いやはや、これも縁というやつじゃなぁ」
「っ……」
「香苗さん」
楽しげに語られる所業に、左隣りに座る香苗さんの表情が変わった。血の気が引いて真っ青になって、けれど壮絶な怒りの視線をモニターに向けている。
咄嗟に俺は彼女の手を握り、宥めた。同時に昂ぶる心を落ち着かせるために発光し、自制を促す。
内心では俺とて、渦巻く怒りはある。香苗さんの師匠にして倶楽部幹部である青樹さん──幼少時にいた孤児院にて人体実験を受けた結果、人造オペレータとでも言うべき存在になってしまった彼女の不幸。
そのほぼすべてが今、モニター越しにいる火野老人を起点に起きてしまっていたんだ!
「まったくもって傑作じゃった。言うなれば放流した稚魚が育ち切ってから、わざわざ食われにわしの手元にやってきたんじゃからな。モルモットとしても能力者としても半端者、人間未満の蛆虫風情が思い上がって粋がっている姿は思い出すだけで……クカキャキャキャ! 無聊の慰みというやつよなあ!」
「香苗さん、聞くに堪えないなら、一旦退室しても良いんじゃないでしょうか……」
「……ありがとうございます、公平くん。私は大丈夫です」
怒りと憎しみを鎮静して……心配する俺に笑いかけ。それでもなお、またモニターをにらみつける香苗さん。
他の面々も怒りと不快感に顔を歪めている。火野という犯罪者が、まさかここまでおぞましく不快な生き物だなんて……この世の悪意を詰め込んだような姿は醜悪の一言だ。
「……78年前になんとしても殺しておくべきだった。私のミスだ。取り返しが、つけられない……!」
つぶやくエリスさんの言葉に力はなく、後悔の色が強い。やつを取り逃がしたことで起きた悲劇の数々に、深い悔恨を抱いてしまっているんだな。
先のことなんて誰にも分からないんだ、そんなところまでこの人の責任だなんて、言えるわけはないのに。
責任感が強い彼女は、それでも気にしてしまっているようだった。
「エリス……あの時点で今この時を予測するなど不可能だ。お前に責はない。やるべき時にやるべきことを、自身の限界さえ超えてやりきってくれた。それはワタシが保証する」
「倒した敵の、その後のことまで背負う必要ないですよ師匠。あなたはあなたの仕事をした、そこから先の火野のことは全部火野自身の責任です」
落ち込むエリスさんを、ヴァールと葵さんが優しい声音で慰める。
そう、エリスさんに責任なんてない。彼女は78年前も今この時も、立派にやるべきことをやり遂げたんだ。戦いの果てに不老になってまで、かつての世界を守り抜いてくれたんだ。
そんな彼女を、誰も否定なんてできはしないよ。
第一、敵が生き延びて以降にやらかしたことまで背負え、なんてそんなこと、言えるはずがないんだしな。
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