そして始まる取り調べ
シャーリヒッタ受肉についての説明も済み、そろそろ頃合いと見てかヴァールが動いた。
立ち上がり一同を見て、さて、と告げたのだ。
「それではそろそろ時間だ、準備はしておけよ。取り調べは施設9階、県警本部は刑事部能力者犯罪対策課内にある特殊犯罪調査室にて行われる」
「こないだ行ったフロアにあるのか」
「ああ。そろそろ案内の者が来るはずだ……来たぞ」
ヴァールが手で指し示すと、その先にある通路からちょうど今、見知った人が数人、やってきていた。
警察庁のお偉いさんである郷田さんに、ダンジョン聖教先々代聖女の神谷さん。そして神谷さんの護衛であるウィリアムズさんだ。
3人とも緊張した様子で俺達に近づき、会釈とともに挨拶してきた。
「どうも皆様、朝早くから申しわけありません」
「お疲れ様です、皆様」
「こちらこそ、取り調べの参加を受け入れていただき感謝する。今日はよろしく頼む」
「よろしくお願いします。それではこちらへ、ご案内いたします」
警察庁は能力者犯罪対策局の局長さんと、ダンジョン聖教は司教にして先々代聖女の二人に案内されるとは、なんとも豪華な話だね。
ヴァールが二人に続いて歩く。先導に近い形で後に続くよう促してきたので、それに倣って俺達も動き出す。お仕事……探査者の本分ではないけどまあお仕事開始だ。
二組に分かれてエレベーターに乗り込む。目指すは9階、能力者犯罪対策課のあるフロアだ。
この手のビルにありがちな、ガラス張りで外が見える、なんて構造のエレベーターじゃなくて助かる。
何しろ空は飛べるけどそもそも高所恐怖症なもんで、別に落ちようが死にはしないんだけど落ちた時のことを考えてしまって腰が抜けそうになるから怖いんだよ、外が見えたりするのって。
当然、問題なくエレベーターは9階に到着。俺や香苗さんやシャーリヒッタ、サウダーデさんにベナウィさんが郷田さんの案内を受けて通路に出る。
間を置かずして二手に分かれていたヴァール、リーベ、エリスさんに葵さん、マリーさんもエレベーターから降りてきた。合流してまた歩き出す。
こないだはしばらく歩いたところにあった部屋、能力者犯罪対策課の部屋が目的地だったけど今回はさらに奥へと進む。
何度か角を曲がると、突き当りの右側にドアがあった。そこが行き止まりなので目的地ってことになるね。
中にはすでにオペレータの気配がいくつかある。倶楽部幹部の3人と、あとは3人を警戒しての護衛探査者さんかな?
全員スキルは封印されてるだろうし、火野に至ってはシステム側の権限で永久凍結されていて齢通りの老人になってるだろうけど、用心しないわけにもいかないものな。
「こちらが取調室になります。実際に取調を行う部屋と、隣でそれを傍聴する部屋との二部屋に分かれています」
「偶にドラマであるやつですよー、公平さんー」
「あるよな、たしかに」
ドアが開き、中に促されるまま入るとそこにはいかにも刑事ドラマチックな室内。隣の取調室と繋がっていて、直接犯人達と見学者がやり取りできないようになっているね。
ただモニターとスピーカーは設置されていて、そこから取り調べの様子は見られる。用意された席に座りつつそれを見ると──
無言でパイプ椅子に座る、倶楽部幹部が一人。
火野源一がそこにいたのだ。最後に見た時と比べ、明らかに年相応に老け込んでいる。
まるきり齢90オーバーの老人の姿だ。
「……あれ? 火野老人だけなんだ?」
「3人揃ってまとめて聴取するわけにもいかんからな、残る二人は別室にて待機中だ。まずは火野、次いで翠川、青樹は最後になる」
「火野め、ずいぶんと年寄りらしくなったもんだね。こないだのしぶとさなんてダンゴムシのくせしてGみたいなもんだったのに!」
どうやら順繰りに三幹部を取り調べるみたいだな。まあそりゃそうか、3人まとめてなんて普通しないし、一人ずつ聞き取りするよなあ。
エリスさんが火野を見て鼻を鳴らした。ある意味宿敵というか、粘着ストーカーだった男の末路を冷たく見据えて厳しい言葉を連ねている。いろんな意味で迷惑を被った立場だから仕方はないよね。
火野、翠川ときて最後に青樹さんを取り調べる。そのすべてに俺達は立ち会うことになるみたいだ。
一人あたり大体1時間くらいかな? まあ終わる頃には昼になるかな。
……というか一人、足りてなくないか?
あえて言えば俺にこそ因縁があると言える、4人目の幹部について俺はつぶやいた。
「……鬼島は? あいつこそいろいろ知ってるんだろうし、この場にいないといけないような」
「ああ、やつは3人の取り調べを終えて後、関係者だけで取り調べを行うことになっている。一人だけ明確に立ち位置が異なるからな、一緒くたに扱うわけにはいかんと判断した」
「なるほど。まあ、あいつだけはたしかに別口にすべきか」
本来ならば4人いた倶楽部の幹部。
その最後の一人にして概念存在・赤鬼が現世で活動するための端末でもあった鬼島はどうやら、三幹部とは別枠で俺たちが直接、取り調べることになっているようだった。
まあ確実に概念存在とかシステム領域の話になっちゃうからね。いくらおまわりさん達でも聞かせられないから当然の処置だろう。
郷田さんもすでに了承済みのようで後でお話は伺いますが、基本的には一任しますとだけつぶやいていた。鬼島に何かあるのは分かってるけど、触れないほうがいい部分だと判断してるんだろうね。さすがのご判断だよ。
彼は吹き出ている汗をハンカチで拭いながらも、俺たちへと手短に説明してくれる。
「取り調べは主にこれまでの来歴や動機、他の裏組織のつながりについてを中心に詰めていきます。それでは……そろそろ始まりますよ」
つまりは大体のことを調べ上げるということだ。
容赦ない詰問が予想される中、郷田さんの声を皮切りに取り調べは開始された。
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