シャーリヒッタ、受肉していたの!?
湖岸沿いにデデン! と立つ巨大なガラス張りのビル。ここ、県警本部に来るのは二度目だけどやっぱり威圧感がすごいね。
法と秩序、国民と国家を護る砦なのだから当たり前なんだけれど、威厳と迫力が建物そのものから出ているように感じられる。
うーん、敷地内に入りにくい。なんかこう、疚しいところなんて一つだって無いんだけども、ねえ?
「なんで門の前で立ち止まってるんですかー? 行きましょうよ公平さんー」
「あ、ああ……そうだね、うん」
「もしかしてビビってますー? たしかにいかにも厳しい雰囲気してますけどー、別に犯罪者としてやってきたわけじゃないんですから平気、平気!」
励ましてくるリーベに後押しされつつ施設に入る。エントランスのロビーにてみんな待ってるって話だけど、こうなると早く合流したいね。
何人かスーツ姿の人達とすれ違うんだけど、みんなして怪訝な顔して俺とリーベを見てくる。怖ぁ……おもむろに手錠とか取り出されないだろうか。僕何も悪いことしてないよ、いやマジで。
ていうかやっぱりみなさん肩幅広いなあーとか、背丈大きいなーとか感心しながらもエントランスに入る。
ロビーのほうを見れば、見知った顔が勢揃い。知り合いがいるとやっぱり一気にホッとするよねー。緊張から解放された心地で面々の座る席のほうに行き、俺は手を振って挨拶した。
「みなさんこんにちは〜、お疲れさまで〜す」
「お待たせしました〜」
「ああ、来たか山形公平、それに後釜……何やら、なんだ。その、笑顔が緩いな?」
「ふにゃふにゃだねえ、ファファファ! 公平ちゃんにリーベ嬢ちゃん、お疲れさん」
オアシスを見つけた旅人のような心地で笑いかけると、まずはヴァールとマリーさんにふにゃふにゃしてるねって言われた。
たしかに自覚はある程度には今、ゆるゆるな笑顔を浮かべていたしね。
リーベも緩みきった笑顔を浮かべているし、なんだこいつらってなものなんだろう。
こちらとしてはどことなくアウェイ感漂う場所で出会えた仲間達相手なわけなので、多少は許してほしいところではある。
「ハッハッハー、葵も最初はこんな感じだったね? というかもっとひどかったよ、警官がいるなり身構えて。アレなんだったの?」
「はっはっはー! いや別に特に意味はなかったんですけどね? おじいちゃんがよく警察は怖い、警察は恐ろしいと言っていたものでその影響でした」
「光太郎くん……若い頃は品行方正だったけど、年食ってからやんちゃになってたみたいだものなあ……」
ヴァール達の向かいに座るエリスさんと葵さんも、こちらに手を振りつつ何やら昔話に花を咲かせていた。
葵さんのおじいさん、早瀬光太郎さんもお巡りさんに苦手意識があるタイプの人みたいだね。
たしか、エリスさんが活躍した第二次モンスターハザードの次、第三次モンスターハザードが起きた際に活躍された方なんだったか。
今はもうお亡くなりになられたみたいだけれど、お孫さんが見事に第八次で活躍したことを知れば、さぞかし喜んでらっしゃるだろうね。
彼女達の隣の席ではサウダーデさんにベナウィさんが座っている。
スーツ姿のベナウィさんはともかくサウダーデさんはいつものように修行僧スタイルなので、まあ目立つこと目立つこと。
それでも不思議と場の空気に馴染んでいるように見えるのは、彼が正義と信念を携えたトップクラスの探査者だからだろう。
とはいえ、今日はどこかリラックスされている様子だけれど。
「今日はいよいよ宴ですよ、師匠。実はミスター・公平と飲みに行くなんて初めてでして、楽しみです」
「彼は法律上は未成年だ、呑みはしないがな。ベナウィ……誰相手にせよ無理に酒を飲ませるような真似はするなよ? まあ、これはマリアベール先生にも言えることだが」
「ハハハハ! 肝臓を壊す前のマリアベール様じゃないんですから、そんな頭のおかしなことをするわけがないでしょう!」
「うっさいよ孫弟子! サウダーデ、私はヴァールさんとリーベの嬢ちゃんに睨まれとるから無茶はできんよ。自分の弟子だけ気をつけときな」
怖ぁ……師弟揃って取り調べとか話し合いとかうっちゃってひたすら飲み会、というか酒の話ばっかしてる。
相変わらず酒が絡むと大師匠相手でも平然と煽りに行くベナウィさんに、若き日の行状とやらに自覚はあるのか、顔を背けながらも叱咤するマリーさん。
間に挟まれたサウダーデさんは苦笑いしながら肩をすくめている。なんていうか、過去ずっとこんな関係だったんだろうなと推察できるやり取りだ。
いろいろぶっ飛んでる師匠と弟子に挟まれて、さぞかし苦労されたんだろうなーって。昔はマリーさん、滅茶苦茶だったみたいだし。
……っていうか、一人足りてないな? いつもなら絶対にいるはずの人がいない。まだ来てないのかな。
もはやいない方に強く違和感を覚える、そんなレベルで行動をともにしてきた彼女の名を俺は呼んだ。
「香苗さん、まだ来てないのか? それとも忙しくて来れないとか」
「いや、呼んではいるから来るはずだ。認定式周りの段取りも卒なくこなしたようだから、余裕はある」
「えっ、早いな仕事。さすが──っと。どうやら来たみたいだ」
もうすでに、S級探査者認定式についての準備を終わらせているらしい彼女の仕事ぶりに戦慄しつつも、言ってる間にこちらに向かってくるオペレータの気配を感知して俺はエントランスの出入り口のほうを見た。
いつもの、真紅のスポーツカーが敷地内の駐車場に停止する。車でやってきたのか、香苗さん。
ドアが開いて中から出てくる──二人。運転席だけじゃなく助手席からも人が降りてきた。あれ、あの子って。
「か、香苗さんはともかく……リーベ、ヴァール。あれって」
「…………シャーリヒッタ!? 受肉してますよー!?」
「申請が通ったのか? ずいぶん早いが、どういうことだ……?」
ワイルドに伸ばした燃えるような真紅の髪。野性味が溢れつつもどこか人懐こい笑みを浮かべて、さっそくこちらを見て手を振る、香苗さんとともに歩くパンクファッションな服装の少女。
精霊知能シャーリヒッタ。まさかの霊体ではなく肉体を伴っての参上だった。
明日から平常通り毎日一回、0時更新に戻りますー
ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いしますー
【お知らせ】
「攻略! 大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」のコミカライズが配信されております!
pash-up!様
(https://pash-up.jp/content/00001924)
はじめ、pixivコミック様、ニコニコ漫画様にて閲覧いただけますー
能勢ナツキ先生の美しく、可愛らしく、そしてカッコよくて素敵な絵柄で彩られるコミカライズ版「スキルがポエミー」!
漫画媒体ならではの表現や人物達の活き活きとした動き、表情! 特にコミカライズ版山形くん略してコミ形くんとコミカライズ版御堂さん略してコミ堂さんのやり取りは必見です!
加えて書籍版1巻、2巻も好評発売中です!
( https://pashbooks.jp/tax_series/poemy/ )
よろしくお願いしますー!