炎天下よりお熱い2人
それからというもの、結局その日は一日優子ちゃんとアイと、あと昼前くらいに帰ってきたリーベも合わせて山形家チルドレンみんなでゴロゴロして過ごした。
お菓子を食べてジュースを呑んで、昼になったらお弁当を食べたりなんかして。リーベもファストフードでバーガーセット買って来てたなあ。
そんな風にしながらもゲームしたりネット動画を見たりして、それはもう楽しく貴重な夏休みの一日を費やしたのである。
例のアイドル動画についても改めてみんなで見たけど、当のリーベ本人が微妙に恥ずかしそうにしてたのが意外だった。なんでも客観視すると照れくささが湧いてくるんだとか。
結局コメントだけ確認して、その日は別の動画とか映画を見まくったりしたわけだね。
「うー……これは思わぬ盲点でしたー。まさかこのリーベちゃんが意外と自分の動画を見れないタイプのアイドルだったなんてー」
「いるよねたまに、そういうタイプの人。まあ概ね評判は良かったし、とりあえずは良かったんじゃないか?」
「コメント欄は盛況でしたねー。案の定リーベちゃんってば、救世主山形公平様の愛人の一人って認識されてますよー? うふふー! 幼妻、幼妻!」
ニタニタ笑うリーベと歩く、炎天下のコンクリート。日付変わって翌日の朝、さっそく俺達は県警本部に向かって歩いていた。
ヴァールとも約束した、倶楽部幹部への取り調べに立ち会うのとその後の話し合い。果ては第八次モンスターハザードを完全に解決せしめたことを受けての、仲間達との打ち上げに参加するべく向かっているのだ。
つい一ヶ月前に邪悪なる思念との決着をつけた後始末、説明会に祝勝会を行ってからのこれだ。短い期間にいろいろありすぎる。
首都圏で暴れてるダンジョン聖教過激派とかサークルとかを打倒したらまた、それはそれで祝勝会を開くんだろうなあ。
短いスパンで宴会が開かれるのは畢竟、それだけ揉め事が起きているとも言える。
はてさて、良いことなのか悪いことなのか。そこはなんとも言い難いけど……とにかく俺達は俺達にできる最善を尽くすだけだ。
駅について切符を買って電車に乗る。よく冷房の効いた車内にて、空き気味の椅子に並んで座りつつ小声で話しあう。
「さすがにソフィアさんとマリーさんにはその手の風評は飛んでなかったな。さすが大御所、アンタッチャブル感がある」
「ソフィアはともかくマリーおばあちゃんまで巻き込むと、公平さんがもはやハーレム救世主っていうか単なる見境ゼロな色欲モンスターに成り果てそうですしねー。ある程度統制されたノリでハーレムネタを展開しているあたり、ネット民も侮れませんねー」
「そもそもそんなネタで遊ばないでくれと当人的には言いたいけどなー」
「そこはほら、有名税ですよー! 今だって見てください、乗客さん達もチラチラこっち見てますし、えーい!」
「うおっ!?」
急に抱きついてくるリーベ。なんだどうしたいい匂いがするかわいい!
っていうか普通に嫌な予感がしてそっとあたりを伺う。まばらな乗客の結構な数が俺達のことをチラ見していた。なんだろう、絡まれたくないけど気にはなるって感じの遠巻き具合だ。同年代くらいの女の子達なんかあからさまにキャーキャー言ってるし。なんぞこれ?
救世主チャンネルのことをご存知の方々なんだろうね、たぶん。もしくは春先とこないだの2回、全国ニュースで話題になっちゃった俺を知っているかのどちらかか。
すっかり顔と名前が売れちゃったなあ、しかもあんまり想定してない形で。
探査者になったところでどうせ俺はドがつくレベルの陰キャなんだし、ひっそり探査して生きていって、ひっそり孤独に死んでいくんだろう。金には困らないし、まあそれで十分かな?
なーんてことを考えていた春先頃の俺に教えてやりたいくらいだ。夏頃のお前はハーレム救世主とか言われてネットのおもちゃになってるし全国デビューとかもしてるし、なんならそもそも3割くらい人間やめてるぞってね。
どう考えても帰ってくる反応が一つしか思い浮かばない。
そうだね、怖ぁ……だね。
「えぇ……? っていうか離れろよお前、どうしたんだ急に」
「えへへー! ハーレム救世主の噂をちょっとでも真実に近づけたいなーって思いましてー。なんなら抱きしめ返してくれていいんですよー? 愛情の籠もったハグ、ハグ!」
「実際にそれしたらお前、照れまくり顔赤くしまくりでパニックになるだろ!」
やるのはともかくやられると途端によわよわな生き物になるのがリーベだからね。探査者としてのステータスは完全に防御、支援、回復とサポーターなのに、性格はとにかくイケイケなのはなんだか不思議だよ。
乗客のみなさんがスマホで写真を撮り出さないうちにリーベの頭を優しく撫でつつ、離れた離れたと促す。元よりからかいのための密着だもんで、彼女もすんなり離れてくれた。
顔が赤いぞリーベくん、ほら見ろ言わんこっちゃない。
やけに積極的に来たけど、根本的なところで恥じらいはしっかりあるんだから無理はしちゃいけない。
「あ、あははー……結構恥ずかしいんですね、こういうの。公平さんの腕、逞しくて格好良くて、変に意識しちゃって余計に顔が赤いですー……」
「そ、そう……」
変に正直なところを言うなよ、こっちまで顔が熱くなるだろ!
並んで二人、顔を赤らめる。乗客のみなさんが何やらニヤニヤしだしている。やめて、見ないで!!
ちょうど目的地の駅についたので、俺達はそそくさと電車を降りる。
炎天下の熱さえ涼しく思える、そんな一時だった。
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