見て!山形が現実逃避しているよ。特にかわいくはないね
『当の公平ちゃんがそれを望んでるかってのは別口だが……ま、こういうのは本人の意向に関わらずこうなる時はこうなるんさね。ファファファ……ああ、望月の嬢ちゃんにそちらの、ええと巫女さん? もよろしくねえ』
『よろしくお願いします! ともに公平様を応援しましょう!』
『よろしくお願いします! 世界的に有名なお二人とも縁があるなんて、やっぱり先生は最高です!』
マリーさんもマリーさんで、宥さんやアメさんと話をしている。
使徒でありつつ若手探査者でもある二人からして、彼女はまさしく雲の上の人だ。緊張しながらも挨拶すると、彼女はファファファと笑っていた。
うーん、意味の分からん光景だ……
これ動画だからまだ良いけど、そのうちリアルタイム配信とかしだしたらどうなってたんだろうな。阿鼻叫喚に流れるコメント欄を想像しちゃって背筋が凍る心地だよ、なんだか。
あり得た可能性に怖ぁ……ってしてると、雑談めいた流れの中でリーベが大きな声で朗らかに、みんなに向かって話し始める。
『はいはいはーい! そろそろ良いですかー? リーベちゃん初お披露目ってことでー、今日はアイドルとして、歌って踊れる楽しい曲を用意してきましたー!』
『ふふ、そうですねリーベちゃん。作曲は不肖この伝道師が、作詞は他ならぬリーベちゃん御自身で仕上げました。ここは是非とも披露していただきましょう!』
『わっかりましたー! それでは皆様お聞きくださいご覧くださいー! 救世の光公認アイドルのリーベちゃんでー、"とっても素敵な救世主"ー!!』
「えぇ…………?」
リーベを残してみなさんがステージを降りてすぐ、なんか音が流れ始めた。それとともに歌い始めて踊り始めるリーベちゃん!?
軽快なノリとテンポで陽気にステップを踏みながらなんか、こう、JPOP的な感じで歌ってる!!
カメラワークとか照明、曲調もやたらそれっぽいし! 歌も踊りもうまいのはさすがリーベだけど、歌詞がどことなく狂信的なモノをちらつかせてくるし!
なんだコレー!?
「きゅ……きゅ、きゅう……」
『まあまあの歌と踊りだが、詰めは甘いね。あれではまだまだトップアイドルの座は遠いよ、そもそも実存する特定個人しかも男を崇める女アイドルって時点で世間受けは最悪に近いだろうけど』
「冷静に評価するのか……」
アイですら反応に困りながらと羽と尻尾は律儀に曲に合わせてパタパタフリフリと揺らしている中、アルマが異様に冷静にリーベのアイドルとしての実力や状況を語るのがどうにもシュールだ。
今のところ一番だけの披露らしくすぐに歌い終えたリーベが挨拶し、動画が終わるのを見ながらも俺は、手元のチョコ菓子を頬張ってコーラを呑み、一息ついて目を閉じて瞑想した。
あぁ、称号効果で感情がフラットになる……
「──よし。このことはなかったことにして、なんかこう楽しい動画を見ようか」
「きゅう……?」
『見事な現実逃避だねえ』
うるさいよ。脳内のアルマに反論して俺は、おすすめに上がってきた動画の中で面白そうなのを無心で見ていく。
なんならソシャゲだって並行してやっちゃうぞ。夏休みガチャももう後半戦なんだ、なけなしの石をぶちまけてさあ来てくれSSR!
…………外れた! 掠りもしなかった! 机に突っ伏して叫ぶ。
「終わった! 俺の夏は終わった!!」
「きゅう? きゅうきゅう」
『博打が外れて突っ伏して、挙げ句に赤子みたいなドラゴンにまで慰められて……困ったコマンドプロンプトもいたもんだ、やれやれ。あ、ところでお菓子食べてよ、チップス系とチョコ系を交互に食べてそれらを炭酸ジュースで流し込んでくれ』
見事に完全爆死して終了した俺の夏イベ。あーあー今年の夏はもう終わりです、あーあ!
ふてくされる俺の脳内に響くアルマの声、なんかおやつを催促してるし。ちょっとヤケっぽく言われるがまま、チップス食べてチョコを頬張り炭酸ジュースでそれらを洗い流す。
うーん、なかなか自堕落。でも、たまにはこうしてお菓子パーティーを開くのも悪くないよね。
アイもチップスをもそもそ食べてるし、チョコを差し出すと普通に齧って来る。さすが雑食なんでも食べるね。
──と、一人と一匹でお菓子を食べまくっていると不意にドアがノックされた。
どうぞというとすぐ、妹ちゃんが入ってくる。右手にはなんか、お菓子とジュースの入った袋を提げている。
あれ、まさかこの子も? アイと顔を見合わせて優子ちゃんを見る。麗しの妹はニッコリと笑った。
「兄ちゃーん。お菓子買ってきたしパーリーしよー」
「やっぱりー。お前もか優子ー」
『さすが兄妹、ぐーたら過ごすとなるとやりだすことが似通うものなんだな』
「きゅう! きゅうー」
一日暇で、特に外出する用事ももうないってなったらお互い同じことを考えるよね、そりゃあ。
そしてアイなりアルマなりと話す相手がいる俺と異なり優子ちゃんの場合、今日はリーベもいないから一人ぼっちだ。俺の部屋に遊びに来るのも当然、ありえる話だったな。
「ほーいお菓子の詰め合わせー。兄ちゃんどうせチップスとチョコばっかだろうなって、和菓子とかおつまみ系もあるよー」
「助かるー。動画でも見ながら食うかー」
「きゅー」
こうなると俺としても否やはない。レッツ、お菓子パーリーだ!
ノートパソコンをテーブルにベッドの上に乗せて、テーブルを俺と優子ちゃんとアイで囲むように座り直す。
そうして兄妹とアイ、あとアルマも加えて動画を見ながら、お菓子祭りを開催し始めたのだった。
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