さあ、ちからみなぎる、やまがたがあいてだ!
例の宗教チャンネル周りが、予想以上に成長している気がして俺は、すっかり気疲れしちゃったもんで彼女や逢坂さんはじめ友人さん方と別れて、残る半日を養生して過ごした。
肉体的にではなく、精神的に疲れた……ものの見事に袖にされた関口くんの、俺をどこか恐ろしいものとして見る目が忘れられない。
あれか、俺が香苗さんや望月さんを洗脳でもしたと勘違いしたか。
今やすっかり狂信者な二人を見るに、自分でも知らない内に何かしちゃったのかなって疑わしくすらなってくる。
念の為リーベに、システムさんが何かしら変な細工してないよね? と確認を取ったが、
『そんなわけないじゃないですかー。強いて言えば称号効果の一つ、魅力値補正くらいはちょっとは関係あるかもですけど。それにしたって公平さんの元々の言動あればこそですよー? もっと自信持ってください。素敵、素敵!』
などと妙な方向に励まされるに終始しており、つまりはあの二人、ほとんど完全に自前でああなっちゃったのだと、俺に思い知らせてくれた。
にしても信徒ってか。あの口ぶりだと少なからずいるな……いよいよ何か、教団めいてきた感じすらしてくる。香苗さんが教祖で、望月さんが何だろう、幹部的な何かだろうか。
ともかくそんなわけでその日は半日、ホテルの部屋でのんびり過ごして温泉に入って寝た。途中、探査者の何人かに誘われてホテル巡りをしたのは楽しかった。
他の人たちは結構な数、外に出て観光なんかに精を出していたみたいだ。俺は正直、隣県で日常的にも行ける距離なんだから、今度プライベートにでも来れば良いかなーって思う。
「さぁーて、気分爽快! 絶好の探査日和だな!」
と、一夜明けて翌日。ツアー二日目の朝。
隣県の組合本部内はレクリエーションルームにて、ツアーの関係者は集い、いよいよ始まるダンジョン探査に向けて準備を進めていた。
今日と明日は午前、午後に分かれてグループを変え、様々な人とのパーティを組んで探査する。俺の場合で言えば今日の午前は香苗さん、鈴山さん、マリーさんの三人とパーティを組むのだが、午後からはまた、別の人とパーティを組む必要があった。
「S級探査者とパーティを組めるなんて、滅多にないことだよ山形くん。大いに学ぶと良い」
「そうですね……学ばせてもらいます」
鈴山さんがそう言ってくる。黒髪に黒縁の眼鏡で中肉中背の彼は、穏やかな見た目に反してA級探査者だ。香苗さんの同期だけあり経験は豊富らしく、ネットでも御堂香苗の同期という枠組みの中では結構、人気が高い。
というか、香苗さんの世代は特別扱いされてるみたいで、何人も知名度の高い人がいる。それら引っくるめて御堂世代と呼ばれているんだそうだ。その世代の人たち、今の、カルト教団の教祖と化しつつある彼女に何を思うんだろうね。
「鈴山、あなたこそ学ぶべきでは? マリーさんは元より公平くんの戦う姿には、探査者とは何たるか、救世主とはどれ程のものかが示されています」
「ファファファ。老いぼれから学ぶことなんて、年食ってから何をすると若いのから嫌われるか、くらいしかないさね。公平ちゃん、気楽においきよ。ファファファ」
当の香苗さんは平常運転、鈴山さんにも俺を推している。いつもながら過剰なんだよね、物言いが。
マリーさんもマリーさんで飄々と笑ってるし。気楽に行けと言ってくれるのは助かるけど、いや、普通に勉強させてもらいますし。悲しいこと言わんでくださいよ。
「私たちが向かうダンジョンは、ここから徒歩30分程のところにある神社にできたダンジョンですね。難度はB級ですか」
「えっ……高くないですか? そんな難しいところは探査しない、交流会みたいなもんだって説明で」
「さすがに私たちの級の高さを踏まえたのでしょうね。A級二人にS級一人。DだのEだのをさせるには豪華すぎます」
「E級が一人混じってますけど」
「実力は既に私と同等でしょう、公平くんは」
そうかも知れないけどさあ! たとえそうでも書類の上ではさあ!
と、盛大に抗議したい気持ちはあるが、たしかに香苗さんの仰る通りでもある。S級探査者一人にA級探査者二人、いかに新人が紛れていようが総合力では間違いなく、このツアーで組むパーティの中ではダントツ最強だ。
いくらなんでも下級ダンジョンでは務まらないだろうと、ツアー主催の人たちが思うのも無理からぬ話ではあった。
「まずは公平くん、私たちが一人ずつ戦いますから、ぜひ参考にしてみてください。思えば私が戦うところ、ご覧に入れるのは初めてですね」
「そうなのかい? 御堂ちゃん」
「はい。彼はソロ専門の特大バフスキルがありますから、私はもっぱら動画撮影ともしもの時の後詰め役ですよ、いつも」
嬉しそうに香苗さんが言うのを、鈴山さんは苦い顔で見据える。
そしてすぐさま、今度は俺の方に静かに視線を寄越し、言うのだった。
「天下に名高い御堂香苗が、そこまで尽くすか……同世代の星が子ども相手にそんな姿ってのは、率直に複雑だ。山形くん。君にはせめて、納得できるだけの実力を見せてほしいもんだね、そうなると」
「は? 何様ですか鈴山。あなたの予想も想像も遥かに超えた姿を彼は見せ付けますよ。精々腰を抜かさないようにコルセットでもしておくことですね」
「ハードル高ぁ……」
売り言葉に買い言葉。苦言に近いイントネーションで煽る鈴山さんに、俺よりヒートアップして反応する香苗さん。
えらいことなった……
でもまあ、香苗さんの顔に泥は塗れないし。ここは一丁、やってみましょうかね!
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