子供の妄想、あるいは世界の理の化身による真実の断片
さてさて、とデスクにノートを広げる。昨日、空いた時間で購入した新品のノートだ。
今日のところは自由研究、この内容をまとめようって意味での下書きを行おう。方針が定まればあとは、それを方眼紙にでもまとめれば終わりだ。やってやるぜ!
鉛筆を取り出して俺は、なけなしのやる気を振り絞った。アイがその隣、デスクにちょこんと座ってきゅうと鳴いた。
応援してくれているみたいだ。その頭を撫で、俺はつらつらと書き出した──進化・派生、統合スキルについての見解。
「そもそもスキルとは、オペレータに付与される特殊な技能だ。実のところその人の適正値と思想、行動指針を参照してもっとも適しているものをオートプログラムで付与したりしてるんだけど……このへんは当然世に出回ってはないよな」
「きゅう〜」
「たしか世間一般で定義されてるスキルは……"ステータスの構成要素の一つであり、それを持つことで能力者として扱われる特殊技能。ファーストスキルの獲得条件は不明"って感じだったか。つまり仕方ないとはいえ、何がきっかけで与えられるかも分からない力ってわけだね」
『不確定極まりないなあ……根本からして不健全な話だね』
ミニチュア・ドラゴンの合いの手を挟みながらノートにつらつら書き込む。そもそもスキルとはなんぞや。
そこに関してシステム側の定義するものと現世での定義は当然異なる。システム側としてはしっかりした基準をもってオペレータにスキルを付与しているわけだけど、現世の者達にはそんな基準知ったこっちゃないからね。
なんかよく分かんないけど自分達を超人に仕立ててくる超能力、くらいの認識ですっかり定着しちゃってるのが現世でのスキルの実情だ。
そのアバウトさ、ファジーさに脳内のアルマさんがぼやきの声をあげた。
『ある日突然与えられた謎の力を、謎のまま自分達の生活基盤に置く。これがどんなに歪んだことなのか分からないのかねえ、知的生命体を標榜するくせに』
「お前が言うな。謎にしてしまっているのはシステム側だし、そうせざるを得なくしたのはそもそもお前のせいなんだ」
本来ならばステータスも称号もスキルもモンスターも、なんならシステム領域の現状だってあるはずがないものなんだ。
邪悪なる思念が数多の世界を喰らった挙げ句、この世界にも牙を剝いてきた結果として得ることとなった概念に過ぎない。
つまりはワールドプロセッサにとっても想定外の事態と要素がまさしく大ダンジョン時代と言えるわけだね。
なのでその元凶たるこいつにだけは、現状の歪さについて何を言おうと説得力などないのだ。
「それに、スキルはじめ大ダンジョン時代特有の現象については今なお、現世の学者さん達が研究を進めている。分からないものを、分かろうとして日々研鑽しているんだよ彼らは」
『…………ふん。歪みを正そうとはしてるってんなら、そこは訂正しておくよ』
「そうしてくれ。さて、スキルについて現世の定義にまず触れた……そこから進化・派生・統合スキルの存在について触れるか」
さすがにお前のせいだぞと直球で言われれば多少は黙るか。つまらなさそうにつぶやくアルマを軽く流して、俺は次、本題となる進化スキル、派生スキル、統合スキルについて書き始めた。
これらは一言で言えば、特定のスキルを獲得した状態で条件を満たすことで獲得できるスキル群のことを指す。
獲得するためには前提となるスキルを修得していないといけないため、現世においては存在こそ知られているがそこまでメジャーじゃない概念のようだね。
以前竜虎大学で購入したスキル学の文献だと、ギリギリ進化スキル──特定のスキルを持ったまま一定のレベルに到達することで進化するスキルだ。ガムちゃんの《忍術》がレベル100になったら《忍法》に進化するけど、ずばりそれだね──について触れられていただけなので、派生スキルと統合スキルについてはそもそも存在さえ把握されていないのかもしれない。
脳内でアルマが疑問を呈した。
『じゃあ君、派生と統合については書かないのかい? いくらなんでもそんなところまで触れてしまえば、なんで君がそんなこと知ってるんだって騒ぎになりかねないし』
「いや、書くよ。実のところネットで調べてみたら、一点ものの超レアスキル扱いでいくつかそのあたりのスキルが取り沙汰されてるのを見た。たぶん条件不明のまま修得したもんだから、単なるレアスキルとして十把一絡げにされてるんだな」
「きゅー、きゅうきゅうきゅー」
これはまあ、そうもなるよねって話なんだけど……条件が非公開にされている以上、明確に獲得済みのスキル名が変化する進化スキルについてはともかく、いきなり条件を満たしたってだけで付与される派生スキル、統合スキルはただのレアスキル扱いされちゃって当然なんだよね。
ネットで見るにサウダーデさんもお持ちの《格闘術マスタリー》とか、召喚系スキルの派生スキル全般とかも《防御結界》や極限魔法シリーズなどのレアスキルと同じ扱いだ。
召喚系については条件的なギミックがあることに気づいても良いんじゃ? とはなるけどそれは知識あるがゆえの思い込みなんだろう。コマンドプロンプトの記憶が蘇るまでの俺だったらたぶん、それはそういうものとだけ認識して流していたろうし。
ともかくそんな感じで、実はすでに発見されてるんだけどレアスキル扱いされているだけ、みたいなスキルもあるのだ。
俺は今回、そのへんを考察していく形で記載しようと思う。
「できれば空いてる時間に図書館とか行って、スキル一覧の本とかも目を通して──そこに派生や統合系スキルがあったら考察の形でまとめていくよ。断定はできないけどもしかしたらこうかもしれない、みたいな形にして多少の嘘も交えて書いとけば、その分野の研究者が見たところで子供の妄想で片付けられそうだし」
『その子供ってのが実は、この世のすべてを司る造物主そのものでしたってのは……はは、それこそ出来の悪いジョークみたいなものだね。誰も信憑性など持たないか』
アルマの苦笑いに俺も笑う。
サクッと終わらせてかつ、それなりにそれっぽい感じで仕上げようと思ったらこのくらいが妥当かなと思えたのだ。
ま、誰かの目に触れたこれがきっかけで、派生スキルや統合スキルの存在の可能性に思い至るならそれはそれで構わないんだけどね。
子供の空想が真実の一端に触れていた、なんて結構ロマンのある話じゃないかな、うん。
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