自由研究?……それはそれとして倶楽部案件の後始末と宴会だ!!
一介の高校生探査者の個人用スマホに電話をかけてくる国連最大規模の組織の統括理事。社会的な立場だけで考えるとこれ、割ととんでもないことな気がする。
ていうかこんな朝からかけてくるのってなんか、事件の予感がしないだろうか。いやまあ世間話がしたくてって線もあるだろうし、どっちかというとそっちのほうが俺としてもありがたいんだけどもさ。
「とにかく出てみないことにはな、と──もしもしー、山形ですー」
『──もしもし。朝から済まないな、山形公平。先日は世話になった、ヴァールだ』
とりあえず部屋に入って電話に出る。室内ではアイがやっと起きるか起きないかってくらいの感じで、俺のベッドの上で短い前足で目のあたりを擦ったりしてるね。
スマホから聞こえる女性の声。ソフィアさんとまったく同じだけど声色や抑揚が均一に近い、クールで冷淡な印象を受けるそれは……彼女と肉体を共有している精霊知能、ヴァールのものだった。
ああ、これはお仕事の話ですねと瞬時に悟る。ソフィアさんならワンチャン暇だからーとか友達ですしーとかで世間話をしに電話をかけてくることもあるかもだけど、ヴァールとなるとさすがにそれはない。
誰より真面目だしなー、この子。そこが信頼できるし素敵なんだけど、意外とお茶目なところもあったりするからリーベとは別方向に人間チックになってるよなーとも思う。
そんな彼女がこんな朝から何用だろう? ベッドに腰掛けながら尋ねると、ヴァールの声がスマホ越しに俺の耳たぶを打つのだった。
『倶楽部関係の調査も進んでいるのだが、その中で幹部4人の取り調べを行うつもりでいる。よければそれにあなたも立ち会わないか、という提案をしに今回連絡させてもらった』
「取り調べ、立ち会い? ……え、良いのか俺がそんなの参加して」
『構わん、ワタシの権限でどうとでもなる。というかむしろあなたの知恵もお借りしたいのだ。コマンドプロンプトからの見解は、あなた自身はどう思っているのか知らないがシステム絡みの話においては相当に重いものだからな』
ついに壊滅した犯罪組織、倶楽部。その運営に関わっていた4人の幹部の取り調べに立ち合うよう要請してきた彼女は、さらりと自分の権限でゴリ押ししますよと宣言している。
怖ぁ……ま、まあそれで良いなら行ってみたいけどさあ。翠川や火野はともかく青樹さんと鬼島については、それぞれ別ベクトルで気になっていたところもあるし。
「そう言うなら俺は構わないけど……いつだ? 首都圏に行くまでの間だろ?」
『ああ、急な話で悪いが明日の午前中に済ませたい。午後からは取り調べやそれまでの捜査の過程で明るみになった新事実を踏まえて会議を行い、夕方は──』
「……夕方は?」
なぜかそこで一拍置いた、ヴァールに問いかける。
明日ってのもまた急な話だけど、まあそこは夏休みを暇してる高校生の身の上だ、いくらでも参加させてもらおう。午後から会議ってのもあるし夕方もなんかあるって言うなら一日仕事だなーって、ちょっぴり心が萎えそうになるのは秘密だけれど。
ただ、夕方からは何があるんだろう? 朝は取り調べ、昼は話し合い、となると夜はなんだろう、どっかの拠点に殴り込みでもかけるのか?
少しの間を開けてヴァールはふふ、と軽く笑った吐息を放つ。スマホ越しだけどちょっとくすぐったい。
どこかいたずらっぽい調子で彼女は、そして俺へと言うのだった。
『夕方は食事会を行いたいと思う。ささやかながら倶楽部との戦いにおいて、私やあなたとともに立ち向かった者を集めてのいわば祝勝会だ。先月と比べて規模は小さいが、な』
「祝勝会……やるって言ってたもんな。隣県でか?」
『ああ、そのつもりだ。我々とともに倶楽部に立ち向かった者達を労い、また次なる戦いへの英気を養う会としたい。どうだろう、参加してもらっていいか?』
「良いよ、喜んで参加する。よろしくな、ヴァール」
全然知らない人達が主役のパーティーとかに放り込まれるならまだしも、ともに戦った仲間達と互いに労をねぎらい合うって宴なら喜んで参加するよ。
そもそもお疲れ様会をしようって話は元からあったしね。ヴァールが幹事をしてくれるんからこっちも安心して乗れるよ。
擦り寄ってくるアイの背中を優しく撫でつつも参加を表明する。明日は一日大忙しだな、事実上は倶楽部事件の後始末か。
首都圏に行く前に完全に決着させとかなきゃいけない話なんだろうから、そこに対して俺も駆り出されるのは吝かでもない。
この分だと認定式までの間もいろいろありそうだ。さっさと自由研究をしないと地獄になりそうだなあ。
明日やるからへーきへーき! などとこの期に及んでどこかそんなことを考えていた俺ちゃんだったけど、実はそんなに余裕がなさそうな気がしてきて不安が押し寄せてきた。怖ぁ……
『ではそのつもりで、急な話だが明日はよろしく頼むぞ、山形公平』
「ああ、よろしくな。それじゃ」
「きゅう〜、きゅうきゅう〜」
あっという間に明日の予定が一日埋まってしまったことを受けての、自由研究への焦りとかはおくびにもださずヴァールとやり取りを終える。
アイが甘えて背中にしがみついてくるのをなされるがままにしながらもスマホをしまって、急遽ってほどじゃないけど俺は夏休みの自由研究に取り掛かることにしたのだった。
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