ゴンベエ─いつかどこかで巣立ちを迎える、アナタのための私達─
『剣たるネムレス、槍たるノナメ。そしてガントレットのムメ──それぞれがそれぞれにアメの意気を汲み、いかにしてチョコの力となるか考えた末に編み出した形態である』
『だからこそ最後、ゴンベに取らせるべき姿は元より決まっていた』
『我らは揃ってこその我らだものね。いくらスキルによるからって、現世で4体揃う機会が少ないのも考えものだわ』
『ってことでちょっぴりだけ小ワザをつかったのさ! バグではない仕様の範疇であるものの、正規の使用法とも言えないいわゆる"裏技"をね!』
ゴンベが語り、ネムレスが応える。ノナメが笑い、ムメが叫んだ。
チョコさんの眼前にて光る4つの光、《武装化顕現》にて呼び出したゴンベが、他の3体をも引き連れて現世に現出している。
指定された概念存在が、別の概念存在を連れて顕現するなんて……本来ならばスキルの領域だ。《連鎖顕現》、召喚スキルにおけるまた、別の派生形が行えるものだな。
本来ならば《武装化顕現》で起こる事象ではないはずだ。だけど今、こうして始原の4体は光だけで現出している。これは……
リーベが、唖然としつつも呟いた。
「これ、ゴンベの武器化に必要な要素を他3体にも条件づけてますねー……《武装化顕現》でゴンベが指定された時点で、始原の4体全員を巻き込んで武器化するようにあの子達が調節してますよー!」
「やっぱりか。裏技とは言い得て妙だな、始原達……」
「う、裏技? な、なんなんです先輩、あれって一体?」
俺とリーベのやり取りに不安を覚えたのだろう、ガムちゃんが緊張の面持ちで俺に尋ねてくる。チョコさんも同様だ、始原達を前にして展開についていけずに立ち竦んでいるね。
まあ、例によって伝道師と使徒はメモ帳にびっしりメモを書き込んでいるけど……逆に安定感さえあるからこれはこれでいいよね、うん。たぶんいい。
ともあれ、タネはすでに割れているから心配がる話ではない。システム側としていくらかはゴンベというか、始原の4体に言いたいこともなくはないけどそれはそれ、おかし三人娘のために自分達で考えたことであるなら止めはしない。
ゴンベ達を見据えつつ、俺はみんなに分かるように説明した。裏技、とまで言えてしまう《武装化顕現》の隠された仕様についてを、な。
「《武装化顕現》は本来、一体の概念存在につき一つの武器を顕現させるスキルなんだ。さっきネムレスやノナメ、ムメがそれぞれに考案した姿を象ったようにね」
「は、はい。剣に槍、ガントレットでしたね」
「武器化は概念存在側で設定、定義付けを行う。剣になりたいなら剣になることを設定し、そのために必要な要素、いわば素材を定義して武器化プロセスへと至る。大概の場合、定義される素材ってのはその概念存在自身の魂の格なんだけど」
「ゴンベは、そこの定義部分に手間を加えたんですねー……」
リーベの言葉に頷く。聴衆のみんなは未だ、理解が追いついていない様子ながらも必死に耳を傾けたりメモを取ったりしている。
そうだなあ、アメさんはこの辺の話は覚えておいてもいいかもしれない。何しろ、召喚系スキルそのものの仕様にも関わる話だからね。
《武装化顕現》に限らず召喚系スキルってのはほぼすべて、スキルを使う探査者側と同時に使われる側、概念存在側の都合を参照する。
召喚条件とかその最たる例だな。概念存在側が指定した条件を満たさなければ、そもそも《召喚》が発動しない。呼ばれる側の都合に沿わなければ呼ぶことすら叶わないのだ。
こうした、単なる主従ではない現世と概念領域との関係は当然、今回問題になっている概念存在の武器化スキルにも大きく関わる。
どんな武器になるか、そのために何を用いるかまでを概念存在のほうで指定できるのだ。
そしてこの"何を用いるか"の部分を利用して、ゴンベは仕様でありつつも想定外の事象を引き起こした。
己を武器にするにあたり、他の3体をも含めた始原の4体すべてを素材と定義したのだ。
「ゴンベを武器化するためにはネムレス、ノナメ、ムメを必要とする、と。自分で武器化する際に必要な条件を定めて、そこに始原の4体全員をまきこむように設定したんだよ」
「それで……始原様方全員がこのようにご降臨された、と!?」
『その通りだアメ、チョコ。そして山形公平』
ゴンベが言い放ち、淡い光を強く輝かせた。同時にネムレスもノナメもムメも、同じく輝いていく。
眼前のチョコさんが目を手で覆って眩しさに耐えているのを一切考慮しないまま光量を強くしていきながらも、続けて力強く宣言する。
『我らは始原の4体、揃ってこその我らである。ならば我ら4体の結晶たる武器とならねばなんのための我らであろうか』
『今ここに見よ、これぞはじまりの概念存在たる我らが集結!』
『神にして神にあらず、悪魔にして悪魔にあらず』
『妖魔にして妖魔にあらず、精霊にして精霊にあらず──我らはどこまでも原始の混沌。はるかなかつてに使命を終えた、忘れ去られたマイルストーン』
光が、やがてチョコさんの右腕に集結していく。4体が覆いかぶさり、一つの武具とも、防具ともつかないナニカを形成する。
先程の武器化したムメを、肩口までスケールアップしたような白銀の腕甲冑がまず、はっきりとその姿を示した。
異質と化した己の腕を見、チョコさんが目を見開いて驚愕する。
「な、ななな!?」
『しかして今。なんの因果か我らは現世に寄り添う機会を得た』
『見守るに足る知性体、愛するに足る召喚主! 挙句の果てはヒトとコトワリのハザマを歩くエンピレオと来た! 現世とはまったく、なんと美しきものだろうか!!』
少女の戸惑いさえも置いて歓喜に詠う。
紛れもなく始原の4体は今、喜びに魂を震わせて詠うように叫んでいた。
はるかな昔、数十億年ものかつてにその存在の役割を終えたかのモノ達が、永遠の時の中で辿り着いた今。はじめて概念存在としての役割を、果たせる時が来たんだ。
叫ぶだろう、詠うだろう。笑うだろう、泣くだろう。そうしてその果てに、彼らの力となるのだろう。
だって、概念存在は。
『全霊を尽くすことに何らの否やがあろうものか。なぜなら我らもまた概念存在』
『──いつだって現世に寄り添い、いつかの巣立ちを心待つためのモノなのだから!』
いつの日か、どこかで行われるだろう巣立ちを望み続ける。そんな、厳しくも優しい北風であり太陽なのだから。
光が集まり剣の形を形成されていく。チョコさんの背丈にちょうど見合ったロングソード、その周りにはいくつもの小さな槍が浮かび、彼女の周りを護るように飛び交っている。
武器化──そう、武器化ゴンベ。
もはやゴンベのみならず、武器化始原の4体とも言うべき統合武装が今、チョコさんの手に握られていた。
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