ノーネーム─歩むことを決して止めない者のための槍─
初めてのスキル《武装化顕現》の使用は見事に成功した。
武器化ネムレスの威力はチョコさんを大幅に強化してくれたし、ネムレス自身にとっても初めての喜び──すなわち"現世に寄り添う"ことができたことによる歓喜を味わえたということで、満足仕切りの様子だった。
となればこの勢いに乗ってノナメ、ムメ、ゴンベの3体についても続々武器化させて使ってみたいとなるのは当然だろう。
ダンジョンを進んで一階2部屋目。今度はスライムが4体で出てくるのを、またチョコさんが迎え撃つことになっていた。
「よーし、行きましょうノナメさん!」
『ええ、行くわよー! アメ、スキルよろしく!』
「はい! スキル《武装化顕現》、発動!」
次に武器化するのはノナメだ。1mサイズの猫がチョコさんに寄り添いながら、アメさんにスキルの使用を促す。
これに応えて彼女が《武装化顕現》を使用した。二度目の発動、未だ慣れない口調でそれでも、しっかりと発動対象を定めて告げる。
「対象、始原概念ノナメ様! 我が願い、我が求めに応じ御身を武器と成されませ! お願いします、どうか力を貸してください!」
『もちろんよ! 我もまた、現世に寄り添う概念存在なれば!』
希うアメさんに強く答え、ノナメの姿が消えた。ネムレス同様に一旦己の領域に戻り、そこからさらに武器化して顕現するのだ──光とともにチョコさんの眼前、ソレは現れる!
身の丈の倍ほどもある柄、地面にしっかりと突き刺さる刃。裏腹に天を衝く石突とそれはまさしく槍の形状をしていた。
剣の次は槍と来たか。剣の姿を取っていたネムレス以上にリーチを意識した、中距離から頑張れば遠距離の相手にもどうにかできなくもなさそうなほどに射程の長そうな武器だな。
そしてその槍からノナメの声が発せられる。ネムレス同様に武器化しても意志は健在みたいだった。
『武器化ノナメ──槍にて顕現せり、ってね。チョコ!』
「槍……! 分かりました、ノナメさん!」
名を呼ぶノナメに鋭く答えて、チョコさんは槍となったノナメを掴み、地面から引き抜く。
両手でしっかりと握り、わずかに腰を落としつつ半身の体勢でモンスターと向き合う姿。とても新人とも思えないほどに堂に入った姿だね。
槍とともに闘志をもスライム達へと向ければ、敵も敏感にそれを察知していきり立った。
それまで様子を窺っていたモンスター達が、敵意も露に一斉に飛びかかってきたのだ──それらに対し、チョコさんは至って冷静に迎撃する。
「よーし行くぞぉー……! 槍技、ブレイブブレイバー・スプラッシュスピア!」
「ぴぎぎ!?」
「ぴぎぎゃぎゃっ!」
剣技同様、ブレイブブレイバーとカテゴライズしてるらしい槍技を放つ。槍を振り回しながら同時に敵に向けて突き込む技で、4体全員に向けて放つも2発は外し、2発は当てた。
威力はさておき、命中率にすこし難があるか。俺の隣で香苗さんが、ふむと顎に手をやり呟いた。
「ブレイブブレイバー……関口が元々使っていた技ですが、槍を用いる技などなかったはずです」
「そうなんですか? じゃあ、あれは」
「剣技を槍に転用したか、あるいは彼女自身のオリジナルですね。どちらにせよ先の剣技よりは幾分、練度が低いですが」
「振り回しながら突く動き、剣でもできそうですもんねー」
リーベも耳を傾けて言う。
なるほど、元が関口くんの剣技かはたまたチョコさん自身のオリジナルなのかはともかく、今のスプラッシュスピアとやらの動きはどちらかというと剣のほうがしっくりいきそうだ。
それでも槍でも技を繰り出せたのは率直にすごい。まして彼女、《槍術》だって持ってなかったはずだしね。
習熟度の高い剣を扱う要領である程度でも槍を振るっているならば、それはまさしく才覚の為せるものと言えるだろう。
「ぴぎぎ……」
「ぴぎー……」
『決めなさいチョコ、あんたならできる!』
「はいっ! 極まれ槍技、ブレイブブレイバー・バニシングスピア!!」
話している最中にも、続けて残る2体へと即座に追撃を放つ。ノナメの応援を受けての、また新しい槍技の披露だ。
スライム達の側面へと回り込んでから投擲じみた動作、すなわち足を大きく広げて腰を落とし、大きく振りかぶっての勢いをつけた刺突を行う。
チョコさんの身長の倍はあるリーチの長い武器を活かしての、敵の間合いの外からの攻撃。しかもこの一撃をもって2体同時に仕留めんとする、必殺の意志のよくこもった技だ。
「っ、うぉおおおおおあああああっ!!」
「ぴ──」
「ぎゃぎ──」
一体目に突き刺さった槍を、そのままに2体目へと突撃する! 《俊足》を活かしての踏み込み、深く落とした腰から鮮やかな体重移動で突撃の体勢へと移行した、マジかよ!?
とても新米の動きじゃない、この人突撃癖がないとここまで動けるのか! 予想以上の天禀の発露に、俺は香苗さん共々軽く目を見開く。
2体目をもぶち抜いて突撃したチョコさんが、停止して槍を雑把に振り回す。
千切れて飛ばされたスライム達が光に消えていくのを尻目に、彼女は残心を意識してか構えを再度取り、息を整えていた。
「はぁ、ふぅ。つ、疲れる……大剣以上にリーチが長いししなるから、姿勢制御が難しいですね……でも手応えはありました!」
『やったわね、チョコ! 我も最高の気分だわ! これが、始原概念として得ることのなかった寄り添う喜びなのね!』
「あ、ありがとうございますノナメさん……ふいー。さすがは始原さん達の武器化した姿、滅茶苦茶強いけど私が未熟だから振り回されちゃってるやー」
ノナメと互いに労いながら、自身の未熟さや今後の課題を考えるチョコさん。
身勝手な突撃を繰り返していた頃からは見違える姿に、俺は人間の成長速度に驚きながらもまた、近づいていくのだった。
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