いつかの巣立ちを、心から待ち侘びるモノ達として
召喚系スキルの中でも一際、概念存在を物扱いするがゆえに滅多なことでは使用条件を満たせないという致命的な弱点を背負ってしまっている派生スキル《武装化顕現》。
もうほとんど没スキル扱いっていうか、完全に日の目を見ない存在と成り果てていたそれに目をつけた始原の4体。驚くべきことに彼らは、アメさん相手にならば自らを武具へと窶してもいいとまで言ってのけていた。
『我らとて普通に考えて、武器になって物理的な意味で人間の戦いの道具にされるなどというのは冗談ではない』
ネムレスが慎重に言葉を紡ぐ。
今しがた、《武装化顕現》によって自らを武器と成すことでアメさんの力になると、そう宣言したかのモノの言葉に他の始原達もまた頷き、そして人間達は息を呑んでいる。
概念存在達が通常、物扱いされることを疎んでスキル使用への協力を拒むというのは俺の説明から理解したばかりだからね。
その矢先に概念存在の始祖たる始原達が、その通常をひっくり返して協力態勢を示してきたのだ。それが異例の事態であることは、思わず叫んだリーベの様子からも伺えたみたいだった。
おかし三人娘と香苗さんが真剣な眼差しで4体を見据える。ノナメにムメ、ゴンベも続けて俺達へと答えた。
『普通なら、ね……でも我らは初めての召喚主であるアメの力になりたいと願ったから』
『他の概念存在と異なり権能を何一つ持たない我らが、それでも現世に対して影響力を持つにはこの魂の規格を利用する他ないんだよ、公平』
『《武装化顕現》により形成される武器の強度は、元となった概念存在の魂の格の高さによって決定される──だろう?』
「よく知ってたな……その通りだ。あのスキルで形成される武器の強さは、元となる概念存在の魂の強度に依存する」
しっかり仕様まで把握してるあたり、その場の勢いやノリでない、本気での提案だと分かるな。
今しがたゴンベが言ったように、《武装化顕現》の特徴は概念存在の魂の格によって威力が左右されるところにある。元にしたモノが上位の存在であればあるほどに、それを変化させて生み出した武器もまた強くなるのだ。
この特性を考えれば、おそらくだけど始原の4体を武器にするのは最適解に近い。
システム領域の存在を除けば最上級に位置する始原達の魂を変化させた武器ならば、理論上は《武装化顕現》の最高威力に近いところまで力を引き出せるかもしれないからね。
その辺を踏まえてのこの提言。話し合ったというだけあって考えてきてるんだな、4体とも。
『我らは魂だけはそこらの創造神をも超える。ゆえにこのスキルを選択するメリットが生じたのだ』
「理には適ってるな……もちろん力をすべて引き出すにはスキル使用者側、アメさんの実力も相当に高くないと難しいけど」
『そこは追々ってことよ、公平! まずはこちらからアメに対し、おかし三人娘に対してできる限りをしてあげる。それを受けてどうするかはこの子達次第だわ、我らはそこまで口を挟む権利を持たないもの』
『概念存在とはすなわち現世のモノ達に寄り添い、力を貸し、時に相対してやがては追い抜かれて巣立たれて行くモノ。であるならば決定権は常に現世側にあるべきさ。だろう?』
ノナメとムメ、猫とインコがそれぞれニャーだかピーだか鳴きながら言う。概念存在の、それは本質にまつわる話だ。
始原の4体も、そこから続くあらゆる概念存在もすべては現世の知的生命体のために存在している。彼らに寄り添い、時に手を貸し時に敵対し、そしてやがては独り立ちした彼らを手を振って見送る……自覚的にしろそうでないにしろ、そんな役割こそが常に根底にあるのだ。
始原の4体はもちろんその辺をよくよく分かっている。何しろ半分くらいシステム側の存在だからな。
だから提案まではするし力にもなるけど、実際にどう考えてどう動くか、力をどう使うかの決定権は人間側のアメさんに委ねるのだ。やがて自分達さえ超えていくための、これも一つの試練なのかもしれないね。
おかし三人娘を見る。俺と始原達だけで行われているやり取りだけど、この3人も粗方話の流れは理解してるらしくひどく、神妙な面持ちで4体を見ていた。
新人探査者の3人。理想や夢だけ掲げて未だ、道を見出し始めたばかりの可能性の塊達。あるいはこの俺自身もまた、どこか期待を寄せているかもしれない子達でもある。
アメさんが3人を代表して応えた。俺達を誠実な眼差しで見据え、緊張した様子でそれでも凛とした姿勢で口を開く。
まあ動物達にモフられてる絵面はそのままなので、どことなく力の抜ける光景ではあるけど。
「始原様方。先生と皆様のお話、不勉強ゆえ理解しかねるところもありましたが……畏れ多くも私達のために矜持を曲げ、その偉大なる力をお貸しくださること。その点だけは強く、真摯に受け止めております。本当に、なんとお礼を申し上げればいいのか」
『いやいや気にするな、ふふふふ! アメには立派な探査者になってもらいたいからな!』
『そうよー我らの矜持なんてどーでもいーのよ、えへへへ! そんなしゃっちょこばらずに、ね!?』
『いやー真面目で健気! これが我らの召喚主なんだよねえ、はははは!』
「ちゃんと聞いてあげてくださいよあなた達ー……」
真面目な子にマジトーンで賞賛される、なんて経験もろくにないからか始原達ったらまあデレデレとしちゃって。
ここまで気に入ってくれたのはぶっちゃけ誤算なんだけど、結果的にお互い畏怖と理解、慈愛と寛容をもって接しあえているからいい感じの関係ではあるよね。
リーベが思わず嗜めるのも構わず、前足やら片翼やらで頭をかく犬、猫、鳥。隣でゴンベもニヤニヤと照れ笑いしている。
そんな始原の4体達へ、畏敬の念を揺るがせることなく……鹿児島天乃は力を提示された者として、さらに答えた。
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