普通に考えて文字通りの武器扱いとか嫌がられるよねって話
『おかし三人娘の強化案については我らも思うところがあるのだが、山形公平……面倒だな。公平よ、聞いてもらえるか?』
「うん? なんか良い案とかあるのか、ネムレス」
チョコさんの恋バナにすっかり話を持っていかれかけたその場の雰囲気だったところに、思いも寄らぬ方向から軌道修正の声がかけられた。
1mもの巨大な犬こと始原概念ネムレスが、アメさんにモフりつきながら前足を器用に挙げ、俺に提案してきたのだ。
黙ってさえいるならオモシロ動物のかわいい映像って感じなのだが、いかんせんバッチリ日本語を喋っているので違和感は据え置きだ。
やたら渋い声なのも影響してるなー、などと思いつつも促すと、ネムレスは続けてアメさんの強化案について提言してきた。
『うむ。結論から言えばアレを、《武装化顕現》を彼女に習得させてやりたいのだ。獲得条件は知らぬのだが、可能だろうか』
「……えっ、《武装化顕現》?」
「な、なんですかそれは救世主様!? 初めて聞くスキルですが!!」
「伝道師香苗様、メモはこちらでもいたします! 後ほど照らし合わせて考察いたしましょう!!」
「えぇ……?」
突拍子もないスキルを候補に挙げられて、思わず虚を突かれた俺だけど……
直後に即座に二人してメモを取り出した伝道師と使徒の姿に強制的にドン引きという名の沈静化を果たさせられてしまった。良いのか悪いのか反応に困るよ!
それはともかくネムレスを見る。かのモノのみならずノナメもムメも、ゴンベだって何やら頷いて期待の眼差しで俺を見てきている。
つまりは始原の4体の総意として、《武装化顕現》なるスキルをアメさんに習得させたいと思っているってわけか。なんともはや、意図がいまいち掴めない提案だな。
たしかにそういう名前のスキルは存在してるけど、しかしあれの効果ってば──
「召喚した概念存在を、武器の形に具現化して一時的に探査者の力として振るわせる効果。たしかに習得条件は知っていれば簡単だけど、使用条件が厳しすぎてまともに使えないもののはずだぞ。それを踏まえて言ってるのか?」
『無論だ。先日に我ら4体でどうにか、戦闘中でもアメに協力できないかを話し合ったことがあってな。結果、これこそ最適解であるという結論に辿り着けたのだ』
『まあ信じられないのは無理もないけど……こと我らとアメの関係性を考えた時、驚くべきことにあのスキルこそが相応しいという答えが出ちゃったのよ』
「おいおい……」
──呼び出した概念存在を、各種物質に具現化させて自らの武器として扱う。《武装化顕現》は、そんな効果を持っているスキルだ。
習得条件自体は今のアメさんなら獲得できるとは思うけど、効果が大分ピーキーというか、召喚系の中ではトップクラスに前準備が大変なスキルでもある。
そのせいでそもそも使用にさえ漕ぎ着けないケースが頻発したりして、今や使う者のほぼいないお蔵入りに近いスキルだったりもするね。
「……というのも、わざわざお呼ばれした先で武器扱い、道具扱いされることを良しとするような概念存在なんて、当たり前ですけど少なくて。だからか中々使用条件が満たせず、次第に忘れられていったスキルだったりするんですよ、香苗さん」
「スキルを使うためには、武器にされる側の了解を得なければならないわけですか。それはたしかに、協力を得られるかは怪しそうな感じですね」
「まあ、剣とか槍にされて好き放題に使い倒されるなんて、そんなの人間だって嫌ですしね。そう考えるとこう、マジで罰当たりなスキルなんですね、それって……」
周囲への説明がてら、香苗さんにこのスキルの裏話について軽く話したところ、概ね何が問題なのかが一同にもご理解いただけたようだった。
そう、《武装化顕現》の最大の問題点はズバリ、協力対象である概念存在が武器化を普通に拒否るところにあった。
ガムちゃんの言う通りなんだけど、誰が自分の体を武器に変えられて、しかも好き勝手に振るわれるにも関わらず協力的な姿勢でいられるだろうか。
概念存在の種類によっては話を持ちかけただけでもホントに罰当たりめがと怒られかねない。ましてアメさんの場合、称号《巫女》の効果で神々と繋がりやすくなってるんだしなおのことリスクは高まるんだよね。
それを押してなお、件のスキルを始原の4体は望んでいるのだから、そこには何かしらそれなりの理由があると見ていいだろう。
俺はもう単刀直入に尋ねた。
「ズバリ聞くけどお前ら、アメさんに《武装化顕現》をどう有効活用してもらうつもりなんだ? 使用条件を満たすだけでも大概キツいと思うけど、あてはあるのか」
『そこは簡単だよ山形公平……我ら始原の4体はね、すでに最初から最後までアメちゃんに協力する心構えなんだ。だから武器扱いでもなんでも問題ない、すべて覚悟済みだしむしろ望むところだ』
ぶっちゃけ使用するのも難しいってことで没に近い扱いを食らい、半ばお蔵入りスキルだったりする例の《武装化顕現》。
それを自分達に使わせることで、ダンジョン探査にておかし三人娘の力になるのだと語るムメに、その意図を見抜いたかリーベが叫んだ。
「もしかしてあなた達、自分達を武器類に変じさせて、彼女達の力になるつもりなんですかー!?」
『いかにも! というかあのスキルの仕様を考えれば、それ以外に使い道なぞあるまい!』
力強く答えるネムレス。高らかに謳う犬の姿は、仮初めの身なれどさすがは始原概念なだけのことはあり、どこか他者を圧倒するカリスマ性を帯びたりしている。
やはり、こいつら自身が武器になることでおかし三人娘の戦力になるつもりだったんだね。うまいこと考えたなー。
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