バイキング形式のワクワク感は異常
『公平さーん、称号が更新されましたよー』
話し合いを終えて一人になってすぐ、リーベがそんなことを言ってきた。もはや日常と化した、新称号の獲得だ。
こうも頻繁だと驚きも少ない。昼食のバイキングまであと30分ほどあったし、ちょっとホテル内を彷徨くかな〜とか考えてたくらいの暇さだったので、むしろ暇潰しにはもってこいかも知れなかった。
確認してみるか。俺はステータスを開く。
名前 山形公平 レベル138
称号 天裂く者と絆する人
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
称号 天裂く者と絆する人
解説 魔天に一閃、光刃走り。三界機構が空を断つ。これぞ壱式・救世技法なり
効果 任意にて、決戦スキル保有者と思念による会話を行える
《称号『天裂く者と絆する人』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……残る三人、救世技法保持者と絆するのです。邪念の核心へと迫るには、あらゆる力を束ねなくてはなりません》
「……うん、まあ。だろうね」
こんな方向の称号が来るだろうなとは、薄々思っていた。決戦スキル──邪悪なる思念と戦うにあたり、アドミニストレータを補佐するために用意された4つの切札。
その一つを保持するマリーさんと接触したんだ、そりゃシステムさん的にも一言二言あるわな。
しかし……決戦スキル保有者との思念での会話かよ。いくら任意だからってこんなもん、どう使えと言うんだすぎる。
今現在の該当者ったらマリーさんだけ。S級探査者で、70年も探査者やってる超大御所で、WSOの理事までやってるお偉いさんだ。
その人相手に俺は、今直接あなたの脳内に語りかけてます、とかしないといけないの? 怖ぁ……
『結構気に入られてたみたいですし、事情を説明すれば普通にやり取りしてくれると思いますよー?』
気に入られたかもしれないけどさあ、それが脳みそ直通回線を繋いでいいことになるのかは別問題だと俺は思うよ? 何より普通にやり取りって、何を話すんだよあの人と。初対面に近いんだぞ。
リーベにそう答えて俺は、ひとまずこの効果については保留とすることにした。現時点で必要なさそうだし、少し考えてからどう扱うかを決めても良いだろう。
何なら他の決戦スキル持ちを集めてから繋いだって良いはずだしな。じゃないと本当、マリーさんとやり取りすることなんて特に思いつかないわ。
さて、言ってる間に昼が来た。バイキング形式というから楽しみに食堂へ向かう。一階の大ホールを丸ごと使って、色んな国の色んな料理を楽しめるって話だ。
ちなみに俺は何でも美味しく食べる。好き嫌いなんてないね、セロリだってパクチーだって食べちゃうぞ。優子ちゃんが割と偏食気味なもんだから、俺が食うことになったのも影響が大きいかもだけど。
「あっ、公平様ー!」
「望月さん?」
エレベーターで一階に降りた途端、標識で大ホールが示されているのでそちらに向かう。すると、横合いから声がかけられた。望月さんだ、何人かグループで纏まったところから、俺を呼んでいる。
えぇ……めっちゃ男の人たちが睨んでるぅ、怖ぁ……
無視したい衝動が思わず湧き立ったが、そこはぐっと堪え、彼女に手を振り応えて歩み寄る。
「どうも。皆さんでお食事ですか?」
「はい! 公平様もぜひ、ご一緒にいかがですか?」
「えっ……と、良いんですかね?」
「もちろんです! 叶うならば私はいつだって、公平様と一緒にいたいですもの!」
嬉しいこと言ってくれるけど、比例して男たちの目が厳しいことになってきている。ヤバぁ……
まあ、受けるんだけどね。悪いけど俺にとっては、嫉妬の視線よりも望月さんとの食事だ。
彼女が美人さんで嬉しいのもあるけど、何より、かつてリッチに乗っ取られていた彼女が今、幸せそうに笑ってくれていることが嬉しい。
そんな彼女が求めてくれたんなら、応えてあげたいものだしね。
「救世主ク〜ン、空気読めよ君ぃ〜」
「ガキはガキらしく引っ込んでなってぇ。宥ちゃんはオトナ同士で愉しむんだからよぉ」
「つうか様付けって何? お前何様?」
ついに耐えかねたか取り巻きの男たちが騒ぎ出した。いかにもな台詞を吐いて、こちらを威嚇してくる。最後の人、様付けに関しては俺もそう思う。何様になってるんだろうね俺、彼女の中で。
喧嘩にはならない──探査者同士の喧嘩なんて刑罰ものだ──から、向こうも口だけなのは分かっている。だから俺は構わず、望月さんに笑いかけた。
「行きましょうか望月さん。取り巻きの方々は、どうします? 俺と一緒が気に入らないみたいですけど」
「どうでも良いですね! 二人きりで行きましょう、公平様! ──そういうわけですのでここで失礼しますね? 私の恩人、救世主様を侮辱したあなた方に用はありません」
「えっ……宥ちゃん!?」
「気安く名前で呼ばないでください。ハラスメントで訴えますよ。探査者ハラスメントは厳罰ものだって、ご存知でしょう?」
俺への、向日葵のようなにこやかさとは裏腹に、男たちには凍てつく視線と言動だ。
こ、怖ぁ……でも俺を優先してくれるのは率直に嬉しい。
そんなわけで俺と望月さんは、二人連れ立って大ホールへと向かった。
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