この動物達……チョロすぎる!!
犬、猫、インコ、そして幼女とバリエーション豊かな姿で現れた始原の4体──ネムレス、ノナメ、ムメ、ゴンベ。
始原概念とも呼ばれるべきそのモノ達は、しかして威厳を放っていたのはほんの少しだけだった。何しろあっという間にアメさんに群がっては抱きつき、甘えるように擦り寄っていたのだから。
『アメ! 元気しとったか、なんぞやることあるか!?』
『我のこと撫でてもいいわよアメ! なんなら抱っこしてお昼寝もいいわ!』
『コマンドプロンプトとリーベがいるあたり、なんか込み入った話みたいだね、アメ? それはそれとして一発芸しまーす!』
『ええいどけお前ら、アメには我が膝枕してもらうんだ!!』
「えぇ……めっちゃ懐いてる……」
「ビックリするくらいデレデレですねー。孫を可愛がるおじーちゃんおばーちゃんってくらいデレデレですよー」
「あわわわわわ……始原様方、何卒落ち着きくださいませあわあわあわあわ」
完全にペット同然、飼い主に甘え倒す動物達のごとく犬と猫とインコが突撃している姿は異様だ。こいつらそれぞれ1mくらいの大きさだから余計に違和感がすごい。
なんか現実味が薄すぎて、巨大ぬいぐるみが自立しているようにも見える。唯一女の子の姿を取っているゴンベだけは妹か親戚の子って感じだけど、逆に言えばこいつが一番貪欲にアメさんの膝枕を求めて暴れているね。
これは意外だと、率直にそう思う。
アメさんが概念存在、特に神々に好かれやすそうだとは思っていたけどまさか始原の4体がこうまで心を開くとは。隣でリーベがへえーっ! て感じで感心しているくらいにはすごい才覚だよ。
向こう側のモノに愛される、というのは召喚系スキルを持つ者にとり極めて重要な素質だ。その点で言えばアメさんは紛れもなく天才ということなのだろうね。
「せ、先生〜……およ、お呼びしました〜……」
「モフモフされてて気持ちよさそうですけど、助けたほうが良いかもですねー公平さんー」
「そうだなー」
でかい犬にでかい猫、でかいインコに女の子。
ゴンベ以外はきっちり毛並みまで動物を模してるからモフモフ感がすごい。囲まれてモフられているアメさんが可愛いけれど、見た目ものすごく暑苦しい。今ってば夏よ? クーラー効いてるんだけどさ。
さておきリーベにも言われたし、話もしたいので柏手を一つ打つ。
軽くパチンと叩いただけだが、始原の4体はすぐに動きをピタリと止め、こちらを見た。さすがにワールドプロセッサに並ぶコマンドプロンプトは無碍にしないか、まあ創造主も同然だしな。
解放されたアメさんが一息つくのを見計らって俺は、彼らへと語りかけた。
「悪いけど、今日は俺が彼女に頼んでお前達を呼んだんだ。いろいろ話を聞きたくってな」
『…………勝手にあんたやシステム領域の話をアメにしたことか』
「平たく言うとそうなる。あと、アメさんや彼女の仲間達をより強くするための話し合いとかもな」
バツが悪そうに並んで座る始原達。自分達でも世界の理について真実を話したのはやらかしたと思っているのか。何が悪いと開き直るよりかはずっとまともな態度で助かるよ。
まあ正直、今しがたの光景で概ねの事情は把握したけどな。要するにこいつら、アメさんのことが本気で気に入っちゃったんだろう。
まさかと思っていた可能性がまさかのドンピシャとは、事実って小説より奇だよね。
確認すると、ものの見事に4体全員が首を縦に振った。
『いや聞いてくれコマンドプロンプト、あんたが紹介してくれたこの鹿児島天乃は最高なんだ。無垢で純粋で美しく、清らかで楚々としている』
『そして何より我々を敬い奉ってくれるんだもの! こんなかわいい子いないわ!』
『活動圏内だと、存在の格的に我らに尊崇を寄せるモノなど皆無だからね。仲良しな精霊知能はたくさんいても、敬ってくれるモノなんて一体もいなかったんだ』
『そこにきてこんなにも我らを立ててくれる召喚主が現れたんだ! 少しくらい甘やかしたくもなるだろ!』
「お、おう……」
力説する始原達の熱意に圧倒される。
ものの見事にアメさんの人間的魅力に堕ちているなあ。嫌ったり憎んだりするよりは間違いなく良いんだけれど、見た目もあってかあまりにチョロい動物達すぎてなんだか微笑ましさすらある。
リーベも苦笑いしつつ理解を示している。ムメが言うようにこいつらの活動範囲は主にシステム領域、もしくは直下層にあるこいつらだけの専用次元だ。
そして立場上、現世における知名度は無論のこと皆無なわけで……精霊知能はいわば同僚だし、信仰や尊崇を捧げてくれる存在なんてこれまでいなかったのは間違いない。
そんな中で初めて出会ったアメさんという、概念存在サークルの姫みたいな蠱惑的な魅力を持つ純粋無垢な人間。
そう考えるとこいつらがこうまで入れ込むのも当然なのか。自分達について語るにあたり、システム領域のことまでついベラベラと喋るのも無理からぬことではあるんだろうな。
大体を察して、俺は頷いた。
「事情は理解するし、もう済んだことでアメさんも情報の秘匿に協力してくださるから問題にはしないさ、始原の4体」
『あ、ありがたい……』
「ただし! 次からは《システム領域に関係することを誰かに説明する際には俺かワールドプロセッサの確認を取ってからやってくれ》──悪いが誓いを立ててほしい。できるか?」
今回はアメさんが信頼できる方だから良しとするけど、同じ調子で繰り返しカミングアウトされても堪らない。
というわけで次誰かに説明する際には俺なりワールドプロセッサなりの許可を得てからやってくれ、と誓いまで持ち出して提案する。
概念存在の始祖として、誓いの意味を重々承知している4体は呻きながらも渋々、それを受け入れてくれた。
もっともこいつらは権能なんてほとんど持ち合わせていないから、破却したところで大したペナルティもないのだけれど……ワールドプロセッサからの粛清は確実にあるからな。それが事実上のペナルティと言ってもいいかもしれない。
『んー、誓いかあ……』
『まあ、良いけど……ワールドプロセッサからの粛清は怖いし、迂闊なことはしないわよ、コマンドプロンプト』
ほら、こんな感じで怖がってくれる。これでひとまずこの件についてはある程度収束するだろう。
始原達も自分達がいらないことを言った自覚があったみたいで本当に良かったよ。今のうちに釘を差しといたのは正解だったなあ。
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