登場!始原の4体(現世でのすがた)
俺からの要請にアメさんは勢いよく頷き、そして立ち上がると室内は開けた場所に直立してスキル使用の体勢に入った。
静かに佇む姿がどこか浮世離れして見えるのはさすが巫女さんってところだろうか。巫女服もぴしっと着ているから、神秘的で厳かな雰囲気すら漂っている。
「巫女服……リーベちゃんも着たいですねー、なんかこう、脇とか丸出しのやつー」
「改造前提かよ。コスプレ用品店とかに行ったらありそうだけど」
「そんなお店あるんですか? 世界は広いですねー」
いや俺だってそんなには知らんけど、とリーベと小声でやり取りする。
巫女さんを前にして巫女さんのコスプレしたいですーなどとのたまうこいつの肝は大分練られているなと戦慄するが、リーベはリーベで見た目が最高の美少女だからな。何着たって絶対に似合うだろうという確信がある。
コスプレ用品店、なんて近くにあったかなー。あまり馴染みのない界隈だから考えたこともなかった。
あとで気が向いたら調べようかなって考えつつも本職の巫女さんを見る。厳粛な面持ちで彼女は、スキル《召喚》を発動しようとしていた。
「条件は1つ。その名、その存在を存知すること──お出でくださいませ。ありとあらゆるモノの根源、原初の概念。願わくば矮小たる我が身に寄り添い、何卒お力添え賜りますようお願い申し奉ります」
「ふむ……?」
「へえ……」
スキル発動に言葉を連ねるアメさんを、リーベともども興味深く見る。
条件を告げ、現れるよう希うまではともかくそれ以降の願わくば云々は、本来であれば必要のない文言だ。つまりアメさんのアドリブであり、人間として今から喚び出す概念存在に対して向ける感情、メッセージそのものであるとも言えるだろう。
力のない私にどうか寄り添い下さい、お力を貸してくださいという、信心深い彼女ならではの救いを求める無垢なる声だ。
なるほど。これは概念存在の、それも善性のモノであれば応えたくもなる。まして始原の概念存在達からすれば、庇護欲を擽られてもおかしくはない。
実際にほら、概念存在の気配を感じる。
アメさんの願いに嬉々として応じ、現世へと近づいてきたのだ──それも4体同時に。
彼女が腕を振るい、舞うように袖が揺れた。呼応するように気配は近づいてくる、来るぞ!
「どうか、どうか、お助けくださいませ──始原の御方々様!」
『────願い、聞き届けたり!』
アメさんの声に応じ、どこからともなく声が響くとともに、彼女の眼前にソレらが顕現した。
白い光が4つ、まばゆい輝きとともに現れる。ソレらはやがてそれぞれ動物の形を象って、概ね1m程度の大きさの姿に固定されていく。
本来ならば不定形の大きな光の玉、みたいなモノなんだがこの4体、どうやら現世に現れるに際して特定の姿を模しているみたいだな。
まあそうでもしないとどれがどれかの区別がつきにくいか。ただ、疑問なのはなんで動物の形なのかってところかな。リーベも首を傾げて、不思議そうに呟いている。
「犬、猫、インコ、ヒト……女の子? どういうチョイスかいまいち謎ですねー」
『そんなの、せっかくなら召喚主に気に入られそうな姿にするだろ普通。なあ、精霊知能』
独り言か、あるいは俺に向けての言葉に反応したのは現れた4体のうち、5歳くらいの女の子だ。幼い声ながら発音はしっかりしていて、内容と併せて見かけどおりの存在ではないと一発で分かる。
同時に犬や猫、インコに化けた連中も口々に話しかけてきた。
『久しぶりだ、リーベ。ことが終わってコマンドプロンプトと浮かれ気分でバカンスしてるそうだな、我らと同じだな』
『コマンドプロンプトも楽しそうな人生送ってるわねえ〜。ま、世界を救うのに転生までしたんだしそのくらいは許されるわね、たーぶーんー』
『むしろ我らは感謝しなくちゃだね! 鹿児島天乃という、素晴らしい召喚主を紹介してくれてありがとうコマンドプロンプト、いやさ山形公平!』
「あ、ああ……」
「なんかシュールですねー」
犬や猫、インコが口々に日本語を喋るのってテレビ番組とかで見なくはないかもなんだけど、リアルで見ると違和感すごいね。ましてやどいつもこいつも1mくらいのビッグサイズだしで、隣でリーベも微妙な顔をしているよ。
というかどれが誰だ? 魂は確実にそれぞれ違う形や色をしてるけど、そもそも名前と個体が紐づいてないから区別ができないや。
間違いなく始原の4体なのは確定しているので、あとはそれぞれどの動物に化けてるんだって話だな。
確認がてら、お互い一方通行で知っているだけだった私と彼ら同士、軽く挨拶するとしようか。
「えー、と……とりあえず初めましてかな? 山形公平であり、コマンドプロンプトだ。リーベはお前達のことを知ってるみたいだけど、一応自己紹介を頼むよ」
『うむ……犬の姿にて失礼する。我は始原概念ネムレスだ、初めてお目にかかるな、コマンドプロンプト。会えて光栄だ』
『猫だけど文句ある? 始原概念ノナメよ、よろしく創造主』
『インコっていいよね、僕も大好きさ! どうもコマンドプロンプト、始原概念ムメだよ! リーベもおひさ、楽しそうで何より!』
モフモフした毛並みの柴犬、ネムレス。渋い男性の声で、可愛らしい見た目とのギャップがある。
美しい毛並みの黒猫ノナメ。若い女性の声で、ちょっと気が強そうな口ぶりだな。
インコのムメ。この中では一等テンションが高く、声は爽やかな青年って感じだな。
そして最後に、一番最初に話しかけてきた女の子の姿の始原概念が名乗りをあげた。
『そして我が始原概念ゴンベだ。此度は召喚主、鹿児島天乃の無垢なる願いを聞きつけて降臨した。よろしく頼む、コマンドプロンプト』
5歳の女の子、何故か幼稚園服を着ているゴンベが、幼い顔立ちに似合わないニヤリとした不敵な笑みを浮かべた。
始原の4体──なんだか面白集団って姿で現れたなあ。
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