心霊現象の真贋が一目で分かる程度の救世主くん
「大ダンジョン時代以降、神々からの御託宣というものは各地の神社仏閣、あるいは教会寺院にて耳にする神職者が増えたと聞きます」
そう言ってアメさんパパはお茶で喉を潤した。よくよく見るとわずかながら緊張や畏怖が入り混じる目で俺を見ているのは、昨日の夜にあったとかいう神からの託宣を受けてのことだろうなと考える。
俺へと礼を尽くせ、北欧の絡みがあるので自分達の直接介入は控える……なんて、ずいぶん気を遣ってもらってしまって申しわけない話だ。
こうした神からの言葉、神託や託宣、お告げについてはこの大ダンジョン時代、ありふれているとまではもちろん言わないけど神職さんの中では共通認識として捉えられる程度には多いそうな。
そういえば心霊番組とかでたまにやるものな、神からのお告げ〜とかなんとか。こないだテレビでそういうコーナーを見た時には、出演していた自称霊能力者の方々のうち大半は演技だったけど、ちょっぴりだけマジでお告げを受け取ってる人がいたりしたなあ。
それ以前まではあんまりそういう話はなかったそうだから、そう考えると大ダンジョン時代の到来後、神々がいかに現世に対していろんな形で介入を試みてきたかが窺い知れるよね。
まあ現在では日和見決め込んでるあたり、それらが失敗というかうまくいかなくて撤退することになったんだろうけど……そうした活動の名残のような形で今なお、時折神々が介入してくる場合もチラホラあるみたいだった。
「かくいう私もこれまで、神事や祭事に際して何度かは神様からお言葉を賜ったことはありましたが……今回ほどはっきりと、かつ異例なることを言われたのは初めてでしたよ」
「名指しで、しかも礼を尽くせと。まして何がどうなっているのか北欧などと言われてしまい、夫もずいぶん悩んでいました。あの、もしかしてヨーロッパ生まれとかですか?」
「生まれも育ちも日本は関西です……」
ヨーロッパどころか海外に行ったこともありません、もちろんパスポートだって未発行です。
日本神話勢に手を回したのだろう織田……北欧の大神オーディンに気を遣った物言いなんだろうけど、それと一介の高校生探査者山形公平との接点なんて普通に見てあるわけないんだから、そりゃー何がなんだか悩むよね。
事情を知るリーベは苦笑いしているし、俺の素性を知るアメさんなんて瞳をキラキラと輝かせて頬を紅潮させ、まるで"さすがです救世主様!! "などと言いたげな様子でさえある。
うーん、これは信仰キメてますね。宥さん、ヴァール、あとリーベに続いての、彼女で4人目の使徒かな? どうなっちゃうんだ俺の周り、気付いたら伝道師と使徒に囲まれて回り込まれちゃうとかないよね? 怖ぁ……
「え、ええと。北欧というのはたぶんですね……えーと、実は北欧神話の神様とちょっとだけ、探査業の中で縁を持たせてもらえまして」
「……神様と縁を! それはすごい!」
「い、いやあ、ははは。それでその、神様が気を利かせてそちらの神様方に伝えてくださったのかなー、と! いやーへへへ、ありがたい話です、うぇへへへ」
微かに走る戦慄には目を逸らしつつ、アメさんのご両親に適当にでっちあげた説明を行う。完全に即興のアドリブなもんで、しどろもどろ感がすさまじいけどどうか分かっていただきたい。
実際嘘は何一つ言ってないしね。探査業の中で北欧神話の神様と縁を持つことになって、そしたらその神様が気を利かせてくれたってのは一言一句正しい流れだ。
単にその神様ってのが北欧神話の最高神であることと、縁どころか明確に協力体制にあるってだけだね、付け加えるなら。
その辺は話したら余計に変な混乱を招きそうなので止めておく。単に神と縁を結んだだけでもアメパパさんの目の色が変わったし、なんか怖いし。
あ、そうだ。
これならアメさんとの関係についても補足的にフォローできるんじゃないかな。御両親へと続けて伝える。
「アメさん……げふげふ。天乃さんにはその辺もありまして、彼女のスキルについて多少、お伝えできることがあるという話でして」
「なるほど、それで師匠や先生と」
「そんな風に呼ばれるような大層なことをしているわけでもないんですけどね……」
遠い目になる。マジで、師匠だの先生だのと扱われるほどのことはまったくしてないしするつもりもないんだよ、俺。
こと概念存在にまつわるスキルを持ってるからそこに関して多少のアドバイスをしただけで、何かしらの技術や技法をおしえる気はないのだ。
そもそも教えられないしね、召喚系スキルについては特殊なものしか持ってないし。
だけど隣ではアメさんが相変わらず信仰キメた目をしてらっしゃる。なんだよこの状況、やばいよー。
「先生は先生としてとても立派で素敵です! 尊敬すべき救世主様として、私は心からお慕いしております!」
「あ、ありが……救世主はまずいですよ!」
「ああ、御堂さんのチャンネルですね。なんだか最近、巷で密やかながら耳にする機会が多くなりましたね」
「娘に探査者としての道を示してくださる、山形さんは私達にとっても救世主かもしれませんねえ。うふふふ」
「はははは」
「えぇ……?」
あれっ? 思ったより救世の光への反応が穏当だぞ?
下手すると宗教的反発を食らって塩撒かれて追い出されるものかとさえ最悪、予想していたもののこれは意外だ。
まあ八百万っていうくらいだしな、日本神話は。懐が広いというか、手広くやるからこそのこの反応なのかもしれないね。
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