さらば親元、また逢う日まで
そんなこんなで帰る時間だ。家の距離の関係上、俺達家族が一番初めに親元を発つことに毎年、慣例的に決まっている。
さっきも言ったけど今年からは転移があるし、行こうと思えばいつでもどこからでも瞬時に移動できるけどそれはそれ、ひとまずの別れということで俺達は最後の挨拶を交わしていた。
「そんなに簡単に来れるんならさ、休みの日とか呼ぶから来いよ公平、リーベちゃん! ゲームしようぜーゲーム!」
「えぇ……? いやまあそれはいいんだけどさ」
「リューさんはそろそろ本当に受験勉強しなきゃいけないと思いますよー……?」
爽やかな笑みで俺達とまた、遊びたいって誘ってくれるリューさん。
相変わらずゲーム好きな人だし、こと今回に限ってはそれが事態の打破に繋がったわけなので俺としては感謝しきりだ。また遊びに行くのも当然楽しみだと頷くわけなんだけど……
真理子おばさんがすっごい目で睨んでるよ?
たしか盆はゲームしていいけど、それが終わったら受験勉強しなくちゃいけないんだよこの人。
まるでその辺気にした様子じゃないけど、これこの後めちゃくちゃ怒られるやつだと察しちゃう。
さしものリーベも苦笑いしてやんわり指摘するに留める程度だ。いや怖いわ、思考回路がまんま去年の夏ごろの俺すぎてゾッとするよ。
もうちょっとだけ、あとほんのもうちょっとだけなら良いだろ、なーんて考えちゃう結果、見事に母上様のお怒りを買うんだよなあ。
「公平……」
「怖ぁ……お、春香」
「…………今度、一緒にどっか行くわよ」
じきにおばさんに締められちゃいそうないとこの兄ちゃんの末路に南無ーってしてると、今度はその兄ちゃんの妹、春香が話しかけてくる。
なんか静かっていうか神妙な感じだ。どことなく緊張した様子で、何やらこちらはこちらでお誘いをかけてきた。
一緒にどっか行くって、珍しいなこんなこと言い出すの。
「ああ、それは全然構わないけど……なんかあったの? 手伝えることとかある? できる限り力になるけど」
「いや別にそんなシリアスな話は一切ないって。ていうかあんた……本当に去年までとは別人みたいになったわね。まるでヒーローみたいじゃん。あ、救世主だっけ?」
「茶化すなってー。急に言い出してくるから、そりゃちょっとくらい心配するだろー」
「するんだ、心配……ふふ、ありがと」
何やら含み笑いを溢す春香。なんかいつもと様子が違うなあ。素直に礼まで言ってくるし、ちょっと調子の狂う姿だ。
隣ではリーベがちょっとニヤニヤしながら俺を見てるし。こいつこそなんなんだよさっきから、優子ちゃんまでちょっと微笑んでるし、どういうんだか。
とにかく困ったことがあるなら助けになるよと、念押すように言うと春香は嬉しそうな、困ったような顔で笑い、頷いた。
「勇気がいるのよ、小さくても一歩踏み出すのは。それでちょっと怖じけてただけ」
「一歩……? まあ大事なけりゃいいけど」
「絶対誘うからね、絶対来なさいよ! あんたは探査者とか救世主とかの前に、私の! 私のいとこ! なの。そこ理解しとくよーに!」
「なんだ急に、言うまでもないだろそんなこと」
「いいから! …………またね、公平」
やたらいとこなの推してくるじゃん。強気に誘ってくるのを了解すると、柔らかく微笑む春香に俺は頷く。
リューさんや春香とも、これからは年1と言わず遊ぶ機会もあるだろう。空間転移能力様々だな、こればっかりは。
俺のほうから訪ねるわけだし、どっちかというと湖西方面で遊ぶ形になりそうだなあーと考えていると、今度は夏子さんが、啓太くんと恵ちゃんを伴って俺の前に立った。
何やらもじもじしてる幼子二人に、俺はしゃがんで目線を合わせた。
「啓太くん、恵ちゃん。また来年……とも限らないか。またたまに顔を見せるよ。お母さんやおじいちゃん、おばあちゃんの言うことをよく聞いていい子で過ごすんだよ」
「う、うん。シャイ兄ちゃん……」
「シャイ兄……元気でね……」
「シャイニング兄ちゃんをさらに縮めたかぁ……」
苦笑いする。なんか俺がシャイみたいじゃん。いや実際、割とシャイだと思うけど。
去年まで公平兄ちゃんだったのに、完全にシャイニングだかシャイだかに置き換わっちゃったなあ。これもシャイニング全国デビューの二次被害か……優しく二人に笑いかけつつも、内心で呻く俺である。
そして夏子さんとも挨拶を交わして、二宮さんご夫妻ともかるく言葉を交わす。
生まれたばかりの美穂ちゃんはおネムのようで、ベビーカーの中ですやすや寝ているのが愛らしい。神々じゃないからなんの利益もないけど、コマンドプロンプトとしてこの子がすくすく育つのを祈りたいと思うよ。
「よし、それじゃあそろそろ帰るわ親父、お袋。おーい公平達、乗れよー」
「おう! 着いたら連絡しろよ……公平! 優子! それにリーベちゃんにアイ! またいつでも遊びに来いよ!!」
「探査者のお仕事、無理しない程度にね公平ちゃん。いつだって、命があってこそなんだからね」
いよいよ出立だ。車を動かした父ちゃんが、あとは俺達が乗れば終わりとばかりに声をかける。
それに伴いじいちゃんとばあちゃんが最後、俺や妹ちゃん、リーベやアイにも声をかけてくれた。
たとえコマンドプロンプトになろうとも変わらない、この人達は俺の大切な親族だ。
盆にこうして山形家で集って、数日間一緒に過ごして……改めて自分がシステム・コマンドプロンプトだけでなく、人間・山形公平でもあるんだって再認識できたよ。
山形公平としての自分、そして繋いだ縁を、これからも大事にしていきたいね。
「ありがとう、じいちゃん、ばあちゃん。二人とも元気でいてね。また顔を出すから、その時はよろしく!」
「兄ちゃんがそっち行く時に私もついていくかもだし、よろしくね!」
「ありがとうございました、みなさんー!」
「きゅうー! きゅきゅきゅうー!」
最後に別れと感謝を告げて、俺達は車に乗り込む。
長くもあり短くもあったお盆を過ぎて、さあ、日常へと帰ろうか!
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