空間転移は転移先の状況、状態、現地の方々の了承を得た上で合法的に使いましょう(戒め)
翌日朝。起床した俺とアイは揃って顔を洗い、縁側で陽の光を受けながら軽く柔軟体操なんてして身体をほぐし、それから親族揃っての朝食を食べた。
御堂本家と違ってうちの朝食ったらシンプルなもんで、ご飯に味噌汁にお漬物、あと卵焼きくらいなものだった。
『ふむ、まあ朝だしこんなもんか。欲を言えばウインナーくらいくれよって感じだけど、盆? だかの時期にはあまりよろしくないんだろ? ならいいさ、その土地の文化ってやつだ』
アルマがちょっと物足りなさそうにしてるけど、贅沢言うなよなあ。十分ご馳走だろうに。
盆を気にしてそこまで喚かないのは助かるけど、個人的には意外に思う。こいつそんなの関係ないだろって言いそうだと思ってたんだけどな。
まあ端末で動いてた時期も割と、揉め事を起こさないよう社会のルールには合わせてたみたいだし、そのくらいの分別はあるのか。
考えながら味噌汁を啜る。うん、いい塩梅。家で母ちゃんが作るのよりちょっと塩分控えめって感じでいいね、お漬物とよく漬かっていておいしい。白米に合う。
卵焼きもフワフワしていて美味しい。昨日の夕食は寿司だの刺身だの食べてたからね、そこからの今朝はむしろこういうのがありがたいんだ。
『ふむ……質素といえば質素だが悪くはない。素朴というべきかな。ゴージャスでボリューミーなものも素敵だけれど、こういうのもいいねえ、美味しい!』
なんだかんだ脳内のアルマにも好評のようで何より。こいつ案外、どんなものを食べてもポジティブに受け止めるなあ。
いいことだ。あれが足りないこれが足りないとぶつくさ言い続けるよりも、今あるものにひとまず満足して感謝するほうが健全だと思うからね。さすが美食家の端くれなら、その辺の意識はあるってことなんだろう。
朝食も無難に食べきって、俺は歯を磨く。
こうなるといよいよ帰省も終わり、家に帰る頃合いだ。俺は荷支度、ってほどじゃないけど準備を整え家の外、庭に出て車の中に荷物を詰めた。
他の親族のみなさん、洋介さん御一家や二宮さん御一家も同様にして、帰る段取りをテキパキと整えていた。
「今年の盆も短かったなあ……公平や優子とはまた一年、会わないわけかぁ」
「リューちゃんや春香ちゃんは近くに住んでますけど、公平ちゃん達は、ねえ……」
庭先で集まる親族、じいちゃんとばあちゃんが寂しそうに俺達を見る。
洋介さんの家と健吾さんの家はこの近辺だし、会おうと思えばいつでも会える。実際リューさんは頻繁に会いに行ってるみたいだし。
でも俺と優子ちゃんはそうもいかない。車でもそこそこ長い時間をかけなきゃ行けない、バスなんて一日に数本しか通ってないような田舎にそう足繁く通えるわけもないのだ。
……去年までならね。俺は笑って二人に教える。
「俺とリーベは、遠く離れた場所にも瞬時に行くことができるスキルを持ってるんだ。だから今年からは、もう少し頻度多めに顔を出したりできるかも」
「! 本当か!? そう言えば一昨日も、なんの前触れもなくゾロゾロと大人数でやってきてたが、あれも!?」
「はいー! かわいいかわいいリーベちゃんのスーパースキルでーっす!」
思わぬ申し出に驚くじいちゃん。ばあちゃんや他のみんなも目を剥いて驚いている。
まさかワープ機能搭載山形くんになっていたとは思いもしなかったろう。リーベなんかドヤ顔でピースしてるけど、みんな唖然としちゃって若干滑ってるし。怖ぁ……
と、リューさんが困惑しきりに尋ねてくる。
「お、お前じゃあなんでおじさん達と車で来たんだ……そんな便利パワーあるならサクッとワープして到着でいいだろうに」
「さすがにいきなりだと驚かせちゃうかなーって。電話で説明した上で転移しても、初めて見る人は腰抜かしかねないくらいには変な光景だろうし。ちゃんと会って説明して、許可を得てからしたかったんだ」
せっかく便利な力があるんだし、それ使ってぱぱっと移動しちゃえばいいじゃん、となるのは当然の話だ。
しかし何しろ転移先に人がいるパターンの転移になるため、しっかりと許可を得てからスキルなり権能なりを使いたい思いももちろんある。
下手すると不法侵入とかだし、そうでなくとも遠方にいるはずの孫達がいきなり顔を出したら何事かと思うだろうからね。
そんなわけでできる限り最初は、事前に事情を説明して許可を得たかったのだ。
加えて家族の事情もある。父ちゃんが続けて話した。
「あと、公平とリーベちゃんに頼りっぱなしになっちまうからな。この子達が個人で移動する分ならともかく、家族みんなでってのはちょっと危なっかしいと思ったんだ。二人がいないとここからバスと電車で帰らなくちゃいけなくなるしな」
「ああ……ここ車じゃないと時間もお金もかかり過ぎちゃうものね」
「万一がないとも限らないってわけかあ」
俺とリーベ、どちらかの力で移動するということは、俺とリーベがどちらもいなくなった場合、父ちゃん母ちゃん優子ちゃんにとってここは半分くらい陸の孤島と化す。
そのくらい交通の便が自家用車以外に存在してないんだよ、何しろ山間の田舎だからね。
その辺のリスクも合わせると、やはり家族みんなで訪れる時は車で行って、俺やリーベが個人で訪ねる時は転移にする、くらいの塩梅がいいだろうと判断したわけだった。
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