お盆最後の夜、近づいてくる秋を想って
食事を終えて、お風呂に入って身を清めて。ポカポカの身体を解しつつ自室に戻る。
今日はアイも一緒に寝る感じだ。昼間に一緒に寝て遊んだりしたけど、まだまだ足りないみたいだ。赤ん坊ドラゴンだからね、しょうがないよね。
鼻先を擦りつかせて甘えてくるアイを抱きしめて布団の中に潜りながら、明日に想いを馳せる。
明日は起きて朝ごはんを食べたら、帰り支度を整えて家に戻ることになる。そしたらそこから10日ほどを過ごして、8月25日のS級探査者認定式めがけて首都圏へと旅立つのだ。
式に参加するためでもあるし、アンジェさんやランレイさんと合流して対サークル戦線に加勢するためでもあるね。
空間転移で関西と首都圏を行ったり来たりすることになるだろうから、認定式のあたりではヴァールにどこか、転移先に都合のいい場所を見繕ってもらわないとなあ。
「言ってる間に二学期も始まるし、なんだかドタバタしながら秋を迎えることになりそうだなあ」
「きゅうー?」
「倶楽部で半月かかったけれど、サークルに過激派か……まとめて拠点が割れて、認定式の日までにアンジェさん達で片付けてくれないかなあ」
「きゅうきゅう」
夏休みもそんなことしてるとあっという間に終わるんだろう。秋が来て、二学期が始まる……サークルやら過激派、異世界の神のあれこれと向き合う季節になっちゃいそうだ。
高校生活のほうはそっちはそっちで、そろそろ文化祭だ体育祭だって話も出てくるだろうし、嫌とまではいかないけど憂鬱だ。
何しろそういう青春的催事についてはこれまで一貫して、身を潜めて陰さながらに気配を殺して接してきたモブの中のモブ形くんだからね、俺ってば。
ああ、何するんだろうな文化祭。展示? 出店? それとも演劇とか? いずれにしても俺が浮くことになりそうな気がしてならない。
そうでなくとも夏休み中のあれこれで俺の悪目立ち度も跳ね上がってる予感がしてならないのに。それもこれも倶楽部が悪いよ倶楽部が、何を怪獣になっとるんだ君らはー。
ぶつくさつぶやくと慰めるようにアイが、前足で胸元をポンポン叩いてくれる。優しさが沁みるなあ。
『あからさまに面倒がってるけどどっちも手を抜かないでくれよ? コマンドプロンプト』
と、アルマが脳内から語りかけてくる。なんだ?
珍しい、手抜きするなと来たか……この手の相手や行事については基本、億劫がってさっさと終わらせろと発言するほうだろうに、なんか悪いものでも食ったのか?
『それならまず君がおかしくなってるだろ。僕が言いたいのは、僕の食い残しを掠めようっていうふざけたカスどもは到底許せないからきっちり仕留めろってこと。あと認定式とやらの飯はしっかり食えよ』
「食い残し……って、異世界の神のことか。ふざけてるのはその物言いだろ」
『うるさいよ! あと文化祭とか体育祭とかのほうも、祭っていうからには美味しそうなものにありつけそうだから頑張れ。僕の味覚的満足のために君にはキリキリ働いてもらわなきゃ困るんだよ。出てきたご飯はきっちり食えよ!』
「全部お前の食欲絡みじゃねーか! さっきから食え食えうるさいよ!」
「きゅう?」
食うことしか考えてない上、ナチュラルに異世界の神のことを食べ残し程度にしか見ていないこいつホントさぁ……
百歩譲って文化祭とか体育祭については分かるけど、犯罪組織については本当にしょうもないことしか言ってこないアルマ。はあ、と深いため息を吐きながらも、俺は俺の見解から答える。
「手なんか抜くかよ、どっちも。サークルと過激派、異界の神については笑い事じゃないし学校のほうも、みんな真面目に取り組むことなんだ。俺一人だけ不真面目な姿勢でなんていられるかよ」
『動機のいい子ちゃんぶりには吐き気さえするけどまあ良いや、君のそういうところは好きだからね。精々僕の味覚を喜ばせるべく頑張りたまえよ、異なる世界のコマンドプロンプト』
「言われるまでもないんだよ、異なる世界のワールドプロセッサ」
軽口の叩き合い。どっちも遠慮ゼロだけど、むしろ俺達はこうでなければならない関係なんだろう、きっと。
お互い抱える遺恨は永遠につきまとうけど、それでも俺はこいつにつきあうことを決めたし、こいつは俺につきあわされることを決めた。
だったら運命共同体として、言いたいことを言い合いつつもそれでもともに行くだけなんだ。こいつがいつか、自身の所業に答えを見つけ出せる日が来るまでは、ね。
「…………寝るかぁ」
「きゅう……」
『仲のよろしいことで。ま、今日はおつかれさんだったよ、公平』
ああ、お前もありがとな。なんだかんだと新スキルの作成に、手を貸してくれてさ。
アイを柔らかく抱いて、脳内にてアルマに応える。なんとも奇妙な、それでいてどこか滑稽な関係だけど、これはこれで悪くないのかもな。
瞼を閉じて力を抜く。昼寝で疲れは取れたものの、それでも眠いものは眠いからね。
アイも目を閉じ、眠りに落ちていくのを感じながらも──
俺も意識を手放して、深い眠りに落ちていくのだった。
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