とある日本神話の大神様「え、現世ヤッバ……関わらんとこ……」
「さて、今日のところはほんの挨拶程度ですがこの辺にさせていただきましょうかね」
「ん、ああ……別に取り立てて急ぎの用もないならそうしてもらえると。なんだかんだと今休暇中なんだ。倶楽部もやっと片付いたし、ちょっとの間はのんびりしたい」
はるか上空1km、吹きすさぶ風をもろともせずに宙に浮いて向き合う俺と織田。
システム・コマンドプロンプトと北欧大神・オーディンがなんの因果か極東の上空にて語らうなんて、妙な成り行きもあったもんだと改めて思うよ。
とりあえず10日ほど得た安息の夏休みを満喫したいから、急ぎでもなければそろそろお開きにしてよとお願いしてみる。高所恐怖症的にも結構つらいんだよ、こんな高いところで足場も何もなく話すのってさ。
織田も自身が話した通り、あくまで自身の立ち位置を理解した上で挨拶しに来ただけみたいだ。薄く笑って、否やはなしと頷いた。
「倶楽部壊滅、お疲れ様でしたね。我々としましても現世でいらぬことをしている組織の一角が壊滅したことは素直に喜ばしい。ちなみに、残る二組織についてもあなたが自らが動くおつもりで?」
「うん、まあ要請されてるしな、ヴァール……WSO統括理事、システム領域の精霊知能だったモノに。どうも奴らが呼び出そうとしているモノってのが、モロにシステム案件に絡んできてるみたいだからな」
「ふむ? ……ダンジョン聖教過激派の目的が何やら"神"を呼び出すというところにあるのは理解していましたが、あなたはより深いところをご存知の様子だ。ぜひとも知りたいところですが──」
倶楽部、サークル、そして過激派の目的とするところ。異世界の神を召喚し、あまつさえ用意した肉体に押し込んで受肉させるという計画については、織田もまだ把握していないらしい。
例によって知的好奇心を露にしてこちらを見てきている。この辺についてはむしろ、この大神にも知っておいてもらったほうが良いのかなーとは思うので別段、聞かれたら話すつもりではいる。
ただ、今ここではちょっとしたくないよねー。昨日からこっちずっと忙しかったもんで、やっと得た午睡なんだよ。
ちょっと面倒だなってぶっちゃけ考えてる俺の様子を読み取ってか、織田はしかし、鷹揚に笑って告げてくる。
「──まあ、込み入った話であることは間違いない以上、このようなところで風に煽られながらすることでもないのでしょう」
「上空1kmだしなあ。悪いけどまた後日、落ち着いた場所と日時で話そうか」
「構いませんよ。私も今回、長期滞在を見越していますので一旦、概念領域は我が居城へと戻り諸々手続きなど済ませなければなりませんので」
「長期滞在するのか……」
やたら気合い入れてきてるなー。北欧神話の大神が単身赴任とは。それだけ悪魔や妖怪、果てはシステム領域の絡む現世での一連の騒動が大事だということでもあるんだけれど。
……ていうかこれ、日本を縄張りにしてる神々はどう思うんだろうな?
「ちなみにこの国の神々からは何か言われたりしないの? ウチのシマで何してくれとるんじゃい的な」
「日本神話勢ですか、特にはありませんね……かの勢力は大ダンジョン時代に突入した現世に対して、完全に距離を置いて静観を決め込んでいますから」
「静観? ……そうなんだ、神々の中のグループごとでもスタンスは違うか」
「それはそうでしょう、我々も知的生命体なのですから。カテゴリーが同じでも所属、地域、成り立ちや由来が異なれば当然まとまりも異なるというものです」
薄く笑って織田が語る。
神々や神話と一口に言っても、多種多様な勢力で分かれているからね。それぞれにスタンスや在り方、考え方が違うのは当然か。
さらにその勢力の中でも派閥とかあるんだろう。
そう考えると人間社会と大差ないよなーと感じながらも、俺はさらに説明する織田の話に耳を傾ける。
「日本神話のトップはいわゆる日和見主義でしてね。人間がいきなり謎の力を手にし、神々さえ超えはじめた事態を受けてものの見事に守勢に回りました」
「まあ、不気味な話ではあるしなあ」
「そんなですから、わざわざ首を突っ込むよその神話などどうでもいいと思っているでしょう。先だってのあなたとのファースト・コンタクトに際して挨拶しに行った際にも言われましたからね。"遠く害の及ばない平和で安穏としたところから対岸の火事を眺めるがごとく応援している"などと」
「えぇ……?」
ものすごいことなかれ主義だ、さすがと言うべきなんだろうか? 反応に困る。
とはいえ大ダンジョン時代の到来に際して即座に事態が自分達の手には余ると判断し、内輪で護りを固めたのは慧眼だ。下手すると即座に現世介入までありえたものを、相当に警戒心が強いと見るべきだな。
しかして一応は自分とこの土地に、よその最高神がやってきているのを野放しにするってのも中々豪胆だ。言って織田は理性的、かつ良心的な神だと思うし、その辺の信頼はあるんだろうけど。
通りで過去、何度か神社に行った時にそこにお住まいの神々から遠巻きに見られていたわけだよ。神話勢力レベルでそうやって遠くからこっちを伺ってるわけなんだもんなあ。
「……まあ、下手に横槍を入れられなかっただけありがたい話ではあったか。下手するとアドミニストレータ計画の真っ最中に介入されていたかもしれない」
「仮にそうなっていた場合、話がややこしくなっていたことには間違いありませんね。ふむ……私ももう少し赴く判断が早ければ、最も危険なタイミングであなたに接近してしまっていたわけですか。我ながらずいぶん、ギリギリのラインを攻めたものです」
肩をすくめて織田が苦笑い。まさしく言う通りで、仮に一ヶ月二ヶ月彼が来るのが早かった場合、話はもっと変な方向に転がっていた可能性だってある。
邪悪なる思念が見逃すわけないしな、現世に受肉してきている概念存在の大神なんて。
『あー、神々が出張って事態をわやくちゃにしてくれていたら逆転なんてありえなかったかもね? そう考えると、先にコイツラから喰っといたほうが良かったかあ。手っ取り早くコイツラの土台となる現世から食っちゃおうとしたのが間違いだったよ』
ほら見ろ、これだよ。
ズレた反省の仕方をしているアルマへと冷静に、どのみち俺がアドミニストレータになった時点でお前は詰みだよと返す俺ちゃんなのでした。
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