人気者な概念存在はつらいよ
ついにその正体を表した概念存在、織田──オーディン。
ゲームとか漫画でめちゃくちゃよく見かけるから、神話にそんなに詳しくない俺でも知っているビッグネームだ。
いやまあ、それでも神話の内容については全然知らないんだけど。
香苗さんあたり詳しいかなあ? と思いつつも普通に老爺と化した彼の姿に面食らっていると、すぐにその姿は織田に戻った。
姿だけを引っ張ってきてなお、備えた権能が強すぎて消耗が激しいみたいだ。さすがは大物だけはあるな。
ふう、と息を吐き、穏やかな笑みを浮かべて俺へと話しかける。
「……まあ、そういうことでしてね。この地よりはるか離れし北欧の地にて伝承されし神話に由来する、概念存在は北欧神話カテゴリーに属する最高神なのですよ、私は」
「本体に比べてずいぶん、お若い端末で来たんだな……」
「せっかくの観光がてらの現世訪問を、わざわざ行動を著しく制限される老人の姿で赴く必要もありませんからね」
何はともあれまずは、端末たる織田の姿が本体に比べてずいぶん若々しいのを尋ねると、どこか遠い目をして織田は語った。
老人姿だと行動しづらいってのは分かる。さっきの本体はパッと見、火野よりもなお年嵩に見えかねない姿だった──というか火野があの年で若々しすぎたんだけど。100歳近かったのに見た目80歳いってるかどうかってくらいだったの妖怪か何かだろうか? ──ため、今の30代後半から40代前半くらいの姿のほうが何かとやりやすそうだものな。
でも遠い目をして妙に黄昏チックなのはなんでだろう?
訝しんでいると、彼は苦笑いを浮かべて語り始めた。
「こと日本では、"オーディン"あるいはそれに準ずる"北欧神話の大神"という概念存在はずいぶんと多岐に解釈されています。漫画やアニメ、ゲームといったサブカルチャーで北欧神話が多く扱われていることで、イメージが幅広くなったのですね」
「……そ、そうだね。よく見るしね、創作キャラとしてのオーディン……」
「少年から老人まで幅広い姿を取ったり、原典にはない要素を備えていたり。果ては美少女にまでなったりしましてね──そのおかげでこの国だといろいろ、幅広い姿で受肉できるのです。クククッ、良いのか悪いのか」
「怖ぁ……」
なんてこった、これが現世の恐ろしさ!
ある種ミーム化して人々の間に伝播した結果、原典へのイメージすら改変してしまうほどにその存在の解釈が多岐に進んじゃったわけか。
そしてそれを受けて、織田自身の在り方も多様性を孕んだんだね、本人の意図するしないを別として。
結局、概念存在ってこういうモノなんだよ。
現世のイメージに著しく左右され、所属もカテゴリーも果ては姿や設定、人格さえも変わっていく。眼の前のモノのようにね。
なんなら今、織田が言う"原典"だってマジで原典かどうかも怪しい。
人々に伝わる最古の、あるいはそれに準じた文献をそう扱っているだけで、もっと遡れば失われた伝承があり、そこではまた別の扱われ方をしていた可能性だってあるほどだ。
そこは織田も理解しているためか、ただ苦笑いを浮かべるばかりだ。
「そもそもオーディンだのヴォーデンだの、"北欧神話の大神"を指す名前ですらも現世の認識が移ろう中で付与されたものですからね。他にも近隣地域ごとの伝承によってはまた異なる呼び方がありますし、まったくなんと移ろいやすい存在であることか……よろしければ、なぜこのようにされたのですかとお聞きしても?」
「あ、うん……まあほら、言っちゃ悪いけど世界のメインステージって結局現世、すなわち物質世界だから。概念に由来しない世界こそがメインプレイヤーたるべしとワールドプロセッサが定めたわけで、概念存在はあくまでもその補助的存在なんだよ、言っちゃうと」
ことここに至っては、踏み込んだことを聞かれても普通に答える。織田はすでにこちらの協力者、あるいは共犯者だからね。
創造神に何やら捧げて叡智を得たって話から、なるほど知りたがりはそれでかって納得したところもあるし、だったら報酬の一環として答えることもやぶさかではないところはあるよ。
このあたりについてはどうせ、創造神クラスなら知ってるやつもいる話だし。
改めてシステム領域という、本当の意味での創造主側から見た現世と概念領域のありようについて一つ、俺は織田に語ることにした。
「現世の知的生命体に寄り添い、共存し、反発し、味方し、敵し、やがては乗り越えられていくものでもある……それが概念存在に定められた役割なんだよ。それゆえにあなた達には、総じて権能という特別な力が与えられた。現世におけるイメージによって在り方を左右されるという、重い代償とともにね」
「すべては現世のために、ですか。概念存在の中でも智慧に長けたモノ達はすでに、そうした可能性さえ哲学して議論して考察していましたが……なるほど、これは創造神クラスまでで留めておきたい話のはずだ。下手をすると概念領域が2つに割れかねない」
「現世を支配したがるモノもいるだろうからなあ」
始原の4体にあたる存在までも考察し始めていたあたり、概念存在達もまったく止まったままではない。知恵のあるモノ達が集まって意見を交わして議論して、考察して、この世の真実について考えていくこともあるんだろう。
概念存在とて知的存在なのだ、それは大いに結構なことだろう……権能がある以上、妄りに真実に触れられるわけにはいかないけどな。
「ああちなみに、別にそういう欲望を否定する気はこちらにはないよ。それさえ現世の者達が前に進むためのステップアップと言える。率先してやれってわけじゃもちろんないけど、やりたいならやればいいって程度だ」
「ふむ? ……なるほど。こと今回に限ってあなた方システム側が目に見えて介入してきたのは、今回裏で糸を引いているモノどもがシステムを悪用しているからですか。そうでない場合、つまりは概念存在が自身が持つ権能のみで仕掛けた場合は」
「少なくとも積極的に止める理由はないかなあ。ただ、俺個人に関しては周りでやらかすようなら人間として対処するけど。何せ俺だけはコマンドプロンプトでもありつつ、人間でもあるからね」
俺の言葉に、織田はふむと考え込んでやがて納得したように頷いた。
さすがは最高神オーディン、理性的にこちらへと踏み込みつつ、そして理解が早い。
なんで北欧の最高神がこんなとこまで来てるのかって思いはあるけど、これほどのモノが協力してくれるのは正直、非常に助かるよ。
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