人は過去から学ぶことのできる生き物なのですby伝道師
アンジェさんとランレイさんが首都圏に戻り、次いでベナウィさん率いる二次会組が、彼の家族が滞在するホテルの部屋に帰っていった。
コーデリア一家のみなさんも連れての二次会をするのかな……すごいね昼間から、下手すると深夜まで夜通し呑むとか平気でするのかもしれないよ、あの様子だと。
やれやれ、とため息を吐きつつヴァールが首を左右に振った。
すぐ近くにいる俺を横目にして、苦笑いしながら話しかけてくる。
「まったく酒飲みどもは、羽目を外すとすぐに盛り上がるから質が悪い……山形公平、ないとは思うが成人したとてああはならないでくれ。酒との付き合いは、適切な距離感を保つことが肝要なのだから」
「わ、分かってるよさすがに。実際、酒の味にどういう反応になっちゃうかは未知数だけど」
ベナウィさんやマリーさんみたいな例を見て、さすがにあそこまでのことになるのはちょっとなあ、ってなるので俺は大丈夫だと思うけど。いやどうだろうなあ。
お酒って魔的な魅力があると聞くし、実際それに取り憑かれてるような人達が今しがた、昼間からの宴会に赴いたし。
俺も酒を覚えたら下手すると、ベナウィさんさながらの呑兵衛になっちゃったりする可能性は今のところ肯定も否定もできないよなあ。
「何にせよ節度を持ちたいとは思うけど、俺も人間としてそれなりに欲望に弱いからなあ」
「公平くんなら大丈夫だと思いますが……まあ、仮に多種多様な誘惑があったとしてもご安心ください、我々救世の光がおりますので」
「…………な、なんでそこで救世の光が?」
お酒怖ぁ、でもちょっと興味あるかもぉ……程度の話にいきなりぶっこまれちゃったよカルト宗教。
近くにいた香苗さんがすかさずやってきて俺に救世の光をアピールしてくる。さっきまでツアークランの人達に伝道し、見事彼らとの協力関係を構築しちゃった鮮やかな手腕がここでも発揮されるというのか?
ヴァールやリーベ、神谷さんやウィリアムズさん、サン・スーンさんと残る面々が彼女に視線を向ける中、香苗さんは例によって句読点をどっかに旅立たせてしまわれた。
「もちろん救世主様の生活がより健やかでより幸福でより楽しくより素晴らしくより素敵なものであるべく私こと伝道師はじめ使徒達が総出で寄り添わさせていただくからです世界の救い主たるあなたはそれゆえすぐに一人で無理をしてしまうことが今回改めて浮き彫りになったのですそれを防ぐためにもあなたを今後決して一人にしないことこそが我々救世の光が果たすべき使命の一つであると強く認識しましたあなたは一人ではないのです何度でも言いますあなたは一人ではありません伝道師私に使徒宥使徒リーベちゃん使徒ヴァール使徒シャーリヒッタ使徒ヌツェンそしてさきほど新たに覚醒した使徒天乃と現時点でもこれだけいるのですまだまだ増えていくでしょう私としては逢坂さんもマリーさんもソフィアさんもフェイリンさんもアンジェリーナもランレイさんも新潟さんもエリスさんも葵さんもあとは探査者ではありませんが佐山さんも候補に挙げることができましょうさらにはまだ見ぬ逸材達をどんどん使徒にして救世主様を公私共に支える役割を果たすことができればそれこそが世界の平和と安寧すなわち救済へとつながると確信しているのです!」
「えぇ……?」
力強く握り拳を見せ、蒼天を見上げて捲し立てる伝道師さん。その瞳はなんの憂いも迷いもなく、己の進むべき道をまっすぐに見据えているのが伺える。強い信念の光。
怖ぁ……今回の件で俺が、いろいろ抱え込みがちなのをシャーリヒッタに指摘されたことで一層気合い入れちゃってるじゃん。
なんか使徒候補を一気に挙げてるけど冗談みたいな名前がずらりと並んでるし。アメさんホントに使徒になりに行っちゃったんだなあ。
「ソフィアを巻き込むのは止めてくれるか、御堂香苗……」
「あの、初代聖女様を改宗されてしまうのはさすがに少し問題が……」
「ダンジョン聖教は司教様と騎士の前でこうも堂々と異教を喧伝するとは、さすがは噂に名高い伝道師。聞きしに勝る狂信ぶりですね……」
「WSOの要職からS級、A級の有名所まで揃えて何をされるおつもりなのですかな、山形殿……」
「誤解です!!」
それぞれ心の拠り所であるソフィアさん、エリスさんを巻き込まれそうになっちゃってヴァールと神谷さんがドン引きしつつも慌てている。ウィリアムズさんも唖然としてるし。
サン・スーンさんに至っては名のある人材を片っ端から総浚いにしようとしていく様に、何かの陰謀でも感じ取ったのか若干警戒気味な始末だ。少なくとも俺はノータッチだよ!!
いろいろな人にあらぬ疑いを抱かせた張本人が、それでもいい笑顔で俺の肩に手を置く。
リーベも後ろでニコニコ笑顔だがお前それでいいのか本当に。すっかり使徒が板についてる姿に俺だってドン引きだよ。
「と、言うわけで公平くんが道を誤ることはありません。なぜならそれだけの数の使徒が揃ってあなたを支えるからです」
「いえあの、何もそこまでしなくともいいと思いますよ俺は……」
「いいえ、青樹さんとの件を経て私は悟りました──ともに道を行き、時には互いに是正し合いながらも歩んでいくことこそが真の愛なのだと。道を違えたからと言って安易に見限ることなど、もう二度としません。これはその決意の証と言えましょう」
「そ、そこで青樹さんとの一件を交えるのはズルい……!」
「大人のやり口ですねー」
過去の苦い後悔とか挫折をこんなところで引き合いに出すなよ! 普通に気まずくって反論し難いだろ!!
青樹さんとの過去、一方的に切り捨てた自身のことで酷く懊悩していた姿を知っているからこそ否定しづらい。リーベが感心しきりにつぶやくように、これな大人のやり口ってやつか……
絶対に違うと思うけど、俺は天を仰いだ。
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