救世主神話伝説・連理編
空に浮かぶ俺を中心に、無数の魔法陣が展開されていく。新たなるスキルを発動するために必要なプロセスであり、断じて伊達や酔狂による中2チックな演出ではない。
この魔法陣一つ一つに途方もない量のスクリプトが込められている。互いに互いを補い合い、高め合い、そして新スキルに期待されるだけの出力を確保していくのだ──いわばそう、システム管理者による手製のスキルブーストジェネレータプログラムと言えよう。
「な、なんだかド派手ねー。アレが前に言ってた、邪悪なる思念? とかってのが使ってたスキルなの、お婆ちゃん?」
「そうみたいだねえ……私ゃ実際には見とらんというか、常時発動型の無敵結界だから破られるところしか見てないんさね。とはいえ……」
「す、すごい威圧感……!! あ、あれ普通のスキルじゃないよ……こ、怖い……!!」
アンジェさん、ランレイさん、マリーさんが初見のこのスキルにどこか、慄いている様子なのを確認する。見回せば大多数の探査者達が同様だ、あまりに異様な光景とスキルそのものが放つ威容に、すっかり気圧されているらしい。
無理もない。まさしくこれぞ権能の行き着く果て、異なる世界のワールドプロセッサがその演算能力と全能のすべてを一つに注ぎ込んで生まれた、究極結界なのだから。
──天地開闢結界。
かつて邪悪なる思念と呼ばれていたモノが辿り着き、それをもって4つの異世界を滅ぼすこととなった決定的な権能。
その絶対能力を極限までダウンサイジングしたのがこのスキル《神魔終焉結界─天地開闢ノ陣─》だった。
名前 山形公平 レベル925
称号 人の罪、神魔の驕り。今こそ断罪の時来たれり
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
名称 清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師
名称 あまねく命の明日のために
名称 風よ、遥かなる大地に吼えよ/PROTO CALLING
名称 神魔終焉結界─天地開闢ノ陣─
スキル
名称 神魔終焉結界─天地開闢ノ陣─
解説 アメツチヒラキテシンマハサリテ、イマコソココニカイビャクトナス
効果 対象一体に極小規模の天地開闢結界を展開する
効果自体は至って簡単、対象の存在に天地開闢結界を付与するだけだ。因果のすべてを《なかったこと》にして強制的に無効化するという、究極結界をな。
今回の鍵こそはこの、因果をなかったことにするという部分だ。あの化物のデフォルトの状態、すなわち因果がないというバグモンスター特有の状態を上書きして天地開闢結界以外のあらゆる事象を《なかったこと》にし、逆説的に因果を強制付与したのだ。
元々ないものをなかったことにする、というと意味不明だけど、要するに因果を持たないことを否定して因果を持った状態に無理矢理持っていった形になる。
ほぼ言葉遊びの発想、しかして効果は覿面だ。見下ろす先、化物を見れば因果が成立している。同時に3種のバグスキル体質もすべてが《なかったこと》にされ、代わりに天地開闢結界による別種の無敵状態が付与されているな。
「うお、なんか気怠い!?」
「これが言ってた負担ってやつか……だがこれなら耐えられる! 頑張れよ山形くん! 何やってるんだかよく分からんけど!」
「この程度のダルさっ……なんてたいしたことないぜ! 熱血の前には微熱程度にもならないぜシャイニンッ、俺達のことは気にするなッ!!」
「あっ、はい……」
懸念されていたスキルによる負担は、総勢50名もの面々に等しく分散されたことでほとんど無害にまで収まっている。
周りを見回して一応、確認してると奈良さんの叫びが聞こえた。怖ぁ……相変わらずの熱血さんじゃーん。
でも元気そうで良かった。他の人達も、問題はなさそうだな。
「どういうスキルなんだろう、あれ……なんか、物々しいけど」
「あれが……先生の真のお力? 始原の御方々が仰られていたことは、本当に……」
「あの演出覇王感あるね……今後の参考にさせてもらおっと。あと私も空飛びたいなあ、《忍術》でそういうのできないかなぁ」
メンツの中でおそらくもっともレベルが低く、相対的に負担がのしかかっているだろうおかし三人娘も至って平然としているし、これなら大丈夫だな。
というかアメさん、気になることを言ってるな……始原の4体を呼び出したんだろうけど、何か吹き込まれてないか? これが終わったらちょっと確認してみようか、なんかいやーな予感がする。
さておき、これならいける。発動したが最後、バタバタ味方が倒れていくようなら仕方なし、作戦は中止にしようと思ってたけど問題はまるでない。
ならば! ここからは作戦第二段階だ。キーパーソンとなる人に目を向け、俺は叫んだ!
「第一段階成功しました! 第二段階よろしくです──香苗さんっ!!」
「承知しました、我が救世主様!!」
打てば響く鐘のように、呼びかけに即座に応じるその人。
我らが伝道師、我らが御堂香苗さんが闘志も露に高らかに叫び、おもむろに右手を化け物に掲げていく。
いつの間にやら彩雲三稜鏡のマントを纏い風に靡かせ、まさしくなんらかの宗教的指導者って感じの佇まいである。
──バグスキル体質、および因果のない状態を天地開闢結界を付与することで無効化し上書きする。そしてそこから上書きした結界を取り除けば、偽りの神の器からすべての権能を剥奪できるはずだ。
リューさんと健吾さんのやり取りから思いついたこの作戦は、第一段階にて天地開闢結界を付与し、第二段階にてそれを打ち破り、そして直接止めを刺す第三段階へと移行する。
現状、第一段階はものの見事に成功した。であれば、第二段階も確実に成功するだろう。
何しろ天地開闢結界を封印するための最終決戦スキルはすでに、人類の手に渡っているのだから!
「生涯に、2度もこのスキルを使う時が来るとは思っていませんでしたが──」
「あおいええうあうおえうあおあいいいおぁあああう」
「──だからこそ今ここに再び示しましょう! 我が曽祖父・御堂将太より継承した魂の力を! 救世主神話伝説に新たなページを刻み込む、尊い使命を胸に秘めて!!」
それは御堂将太さんが授かり、曾孫を護るために継承させた愛のスキル。香苗さんの無事を願い、いつか救ってくれる人に出会えることを祈りながら受け継がれた力。
役割を果たし終えたあとも彼女に残り続けたそれが、今もまた、俺達の力となってくれるのだ。
「発動せよ──《究極結界封印術》!!」
香苗さんの宣言とともに発動する、最終決戦スキル《究極結界封印術》。
かつて邪悪なる思念の天地開闢結界を完全に封印してみせたそのスキルは、瞬く間に俺の《神魔終焉結界─天地開闢ノ陣─》をも封印してみせた。
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