天地開きて神魔は去りて、今こそここに開闢と成せ!
時は来た。場所も、人も、これを逃せば二度と同じものを用意できないと思えるくらいに絶好の状況だ。
スキルのアップロード、ステータスの更新も済んでいる──今こそ作戦決行の時。集まってくださった人達が注目する中、拓けた野原に歩を進め、俺はヴァールに確認した。
「よし……やるか。一応聞くけど何か問題は?」
「一切ない。あとはあなたがやつをここに連れ出し、段取り通りにことを進めるだけだ……御堂香苗、フェイリン。準備は?」
「問題ありません」
「いつでもいけます……!」
ことここに至り、あとは作戦を実行に移すのみだとヴァールも力強く答える。本件に際して俺と並び鍵となる香苗さん、リンちゃんも凛とした面持ちで準備万端の旨を伝えてくれた。
であれば、さっそく始めようか……俺はワームホールを開いた。繋げた先は例の化け物のいる、件のダンジョンの部屋内だ。
多くの人にとっては初めて見る空間転移系スキル。どよめきが起きるのを意に介さず、そのまま俺だけ入りやつの眼前までたどり着く。
「あおええうおいおえうういうえいおおえおいうう」
「待たせたな……お前を、消滅させる手立てを講じてやってきたよ」
昨日同様、化物は呻きですらないなにか声をあげて、身動きも取れないままに立ち尽くしている。俺の封印結界は問題なく、やつを封じていてくれたな。
魂も因果もない、このモノには命もなければ意志も思考も何も存在しない。完全にただの器に過ぎず、今あげている声らしきものも、実際は身体が反射的に発している信号に過ぎないのが実際のところだ。
それでも……それでも、俺はたしかにこのモノに、ひいてはこれに宿らされようとしていた異界の神に憐憫を抱いた。
この世界の一部の連中に利用され、勝手にこんな器まで用意されて。危うく取り返しのつかない過ちを犯させられる寸前だったんだ。コマンドプロンプトとして山形公平として、そのことを申しわけなく思う。
「…………だからこそ、ここで奴らの野望を挫く。少なくとも異世界の神の受肉は絶対に許さない」
「いええおえういいうええいおおおううううああああ」
「さあ、いくぞ────封印結界解除。そして!」
《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》を解除して、即座に俺は再びワームホールを開いた。
一瞬で距離を詰め、やつに接近する!
「《この空間内では次元座標を動かすことができないから、次元移動はできない》」
「あおあおあおあおういおえあおおあいいあ」
「ワームホール! 今こそ偽りの神の器を、人々の眼前へと暴き立てるがいい!! でやぁぁぁあっ!!」
《次元転移》を封じて触れることのできる体勢を整えつつ、作り出したワームホールに向けて化物を殴り飛ばす。
極限倍率でないものの威力は十分だ、ワームホールをくぐり抜けた先、先程の野原に化物は吹き飛ばされていった。
俺も続いて追撃する!
「来たぞ! なんだありゃ、モンスターか!?」
「化物……!?」
「山形も来た! これもう始まってるけど、俺ら何もしなくていいんか?」
「何もできることないだろ」
ざわめくみなさんの声をバックに、やつに密接してインファイトをしかける。効果はないにしろ多少殴りつけて、相手を怯ませてから新スキルは使いたいからね。
鳩尾と思しい部分に右拳を突き立て、《あまねく命の明日のために》によるビームを放つ。衝撃はすべて内部にて反響させる、吹き飛ばしさえさせることはない!
10発ほど叩き込んでから次、両腕を固めてダブルアームスープレックス! それも連続して5回、最後には天高く飛んで大地に叩きつけるようにぶん投げる!!
『父様行けー! そこだ、やっちまえー!!』
『しかし本当に無敵状態ですね……ああ、私が《玄武結界》など創ってしまったばかりに多大なるご迷惑を、ううう!』
『こんな状況誰にも想定できねーって、気にすんなよヌツェン! それに父様がどうにかしてくださる、お前は信じて待てばいいんだよ!』
先程呼び出しておいたシャーリヒッタとヌツェンが、ヴァールはじめ精霊知能について知識のある仲間達に囲まれて周囲からは見えづらい形になりながらもやんややんやと騒ぐ。
シャーリヒッタなんて完全に格闘技の試合を見る一ファンみたいなノリだね。ヌツェンもなんか落ち込んでるってか罪悪感抱えてそうだけど、言う通り俺がどうにかするからちょっとだけ信じて待っていてほしい。
空中にて止まり、地表に叩きつけた化け物を見る。《玄武結界》の無敵状態は未だ健在らしく、傷ひとつないままに立ち上がろうとしているな。
やはり……新スキルを使うしかないか。
「おいうおおええいおあいうえああああああ」
「みんな、これからスキルを使います!! 少しだけ気怠さが襲うと思うけど命に別条はありません! 信じて、ほんの少しだけ堪えてください!!」
声を張り上げてみんなに告げれば、一瞬にして空気が引き締まった。いよいよ作戦が決行されるのだと、全員が探査者としての顔つきになったのだ。
香苗さんを見る。彼女もまたプロの顔を浮かべて頷いている。
リーベを見る。翼を生やした彼女は先程から《医療光粉》を放って、少しでもかかる負担を軽減させようとしてくれている。
リンちゃんを見る。来る決着に向け、明らかに己の内にて力を溜め込んでいる。
いずれにしても準備は万端。スキルを放つ絶好の機会だ。さあ、やろうか!
俺は大きく腕を広げた。
空中に制止して、眩いばかりに光り輝く。そして眼下の神の器をまっすぐに見据え、厳かに告げる。
「我が存在、我が魂の根幹たる権能をもってここに命ずる! 有り得べからざるすべてを無とし、あるべき因果、真なる姿を現し世にて晒せ!」
『偽りの神の器よ! 数多の世界を喰らいし我の、これぞ究極なりし絶対権能の断片である! 身をもって味わうがいい──いけ、公平!』
アルマの言葉に強く頷く。
緊張の一瞬を、それでも勇気と使命感と責任感、そして慈悲と慈愛の心をもって──
俺はかつての宿敵の力を継承した、究極権能を発動した!!
「《神魔終焉結界─天地開闢ノ陣─》!!」
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