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頼れる仲間を忘れちゃいけない。自己犠牲ダメ、ゼッタイ!

「無茶ですよー!? いくらなんでも公平さん、その方法は無理がありますってー!?」

「どんな無茶難題でも全部サクッとまるっと一発クリアはどうしたお前」

 

 これである。ドン引きして否やを示すリーベに、舌の根の乾かぬうちに何言ってるんだとツッコむ。

 名案を思いついて、休憩時間はそのまま切り上げてみんなとの話し合いに戻ってきた俺。興味津々に耳を傾ける仲間達へとその案の詳細について語ったところ、いの一番にリーベが拒否してきたってのが今なわけだった。

 

「その方法だと、成否はともかく公平さんの肉体への負担が大きすぎますー! 寿命が縮まるどころの騒ぎじゃありません、一発即死までありえるほどの消耗を強いられるって分かるでしょー!?」

「そうならないように極限までダウンサイジングするんだよ、俺とお前で。特に一番詳しいんだから、俺が死ぬか死なないかは事実上お前にかかってると言ってもいい」

「そんな博打……!」

 

 顔を真っ青にして呻くリーベ。だが本当のことなんだよ、こればっかりは。

 俺の示した案はおそらく確実にやつの《玄武結界》を無効化できる。それだけ威力のあるスキルをこれから俺とリーベ、それとアルマで創り出すのだ。


 ……まあ、そのスキルってのがとにかく規格外の消費と負担が必要になるもんだから、マジ気合い入れてプログラム構築しないと普通に俺が死んじゃうという、特大のリスクがあったりするんだけどね。

 さすがに俺だって若い身空で死にたくないし、どうにかギリギリまで負担を削れるようにはしたいんだけど、そこで最重要なのがリーベのノウハウだった。


 なんならこの案の成否についても、ダイレクトに関わるのが他ならぬリーベなんだよね。

 一応アルマも協力してはくれるんだけど、邪悪なる思念の言うことなので鵜呑みにはしづらいし、何よりこいつは理屈より感情と感覚で生きているタイプだから理論に落とし込みにくいという難点がある。率直に参考にしづらいのだ。


 

『鵜呑みにしないほうがいいのは間違いないからそれはそれとして、感情と感覚で生きるタイプってのは失礼だね。僕は僕なりの理論や理屈で生きてるつもりだよ? それが誰にも、そう何一つにも理解されたことがないだけでね』

 


 とまあこういう感じで、理解できない理論や理屈は客観的にはセンスによるものでしかないだろって言いたくなるような発言をしているわけなので、こいつの意見は参考にこそすれど、なかなか全肯定しづらいのだ。

 そこで我らがかわいいかわいいリーベちゃんの出番である。彼女はかつての役割柄、今回の案についてこの世界の誰よりも詳しい立ち位置にいる。理論や理屈もばっちり研究解析して、応用策まで練り上げた実績のあるプロフェッショナルだ。

 

 だからこそ彼女にすべてを託すのだ。あの化物の《玄武結界》を、因果がないというイレギュラー極まる状態さえ貫通して無効化するには現状、これよりいい策が思いつかないから。

 俺がどうにか死なないようにするところまで含めて、彼女に舵取りを任せるのが一番だと判断したわけだね。

 そうしたことをアルマの件は抜きにしてつらつら述べると、ヴァールがふむと頷いて言った。

 

「理屈の上では行けそうな案だな」

『ああ、さすが父様だぜ。オレ達には、いやオレ達だからこそ絶対に思いつけないことを思いついてくださった』

『……であれば、私達にもできることはあるはずですね』

「そうだな、ヌツェン。これはワタシ達の戦いでもあるのだから」


 シャーリヒッタ、ヌツェンも続いて話す。何やら覚悟を決めたような、決意と不安、裏腹の喜びさえ垣間見える表情を3人ともが浮かべている。

 なんだ? 訝しむ俺をよそに、ヴァールはリーベへと提案した。


「後釜よ。要は山形公平への負担が少なくなればいいのだろう?」

「……ま、まあー。ダウンサイジングだけでは到底、耐えきれそうにないってのが問題なわけですしー」

「ならばこうしてくれ──お前にワタシ、シャーリヒッタ、ヌツェン。つまりこの場にいる精霊知能にも負担が分散されるように設定するのだ。山形公平含めた5人がかりでならば背負えるはずだ」

「! それなら我々にもお願いします。救世主様が死ぬかもしれないなどと聞いて、黙っていられる我々ではありません!」

「お、おいおい……! そんな馬鹿なこと言うなよ、ヴァール! 香苗さんまで!?」


 とんでもないことを言い始めたと、俺は慌てて彼女達を止めた。

 こんなことに彼女達まで付き合わせるつもりはない。俺の案なんだから俺がすべての責任を背負うし、その結果どうなろうと誰にも負担は与えない。そのつもりで話していたんだけど。


 だけどそんな俺にシャーリヒッタが、真剣な顔を向けた。

 どことなく泣きそうですらある面持ちで、俺を制する。


『父様……いやコマンドプロンプト。そうやって何もかも一人で背負うのはもうなしだぜ』

「シャーリヒッタ……?」

『ワールドプロセッサの秘密主義をとやかく言えねえよ、あんたはあんたですべてを一人で背負い込みすぎてる。誰にも任せず、全部一人でやり遂げちまおうとしているようにオレには見えちまう。いや、まあ無意識ってか、今までのあれこれでついた癖なんだろうし、そこはオレ達の不甲斐なさこそが原因だから本当に申しわけないんだけどよォ』

「…………!?」


 その指摘に、咄嗟にいや、そんなことはないと言えなかった。言われてみると思い当たる節は、結構あっちゃうからだ。

 特にシステム側の関わる案件では特に、俺も一人でやりきろうとしている気がする。他の人を巻き込むのは危険だし、何よりコマンドプロンプトとしての責任感と使命感もあるからって、思い込んでいるところはあるのかもしれない。


 だけど。それはワールドプロセッサの秘密主義となんら変わらない性質の行為だとシャーリヒッタは断言した。

 それに対して反論が思いつかずに、俺は俯く。香苗さん達の、心配そうな視線が余計に心に刺さった。

 

「背負いすぎ……そう、なんだろうか。言われてなんとなく、そうかもって思っちゃうけど」

『これまでがこれまでだから仕方ねえよ、父様がそれだけ頑張ってきてくださったってことなんだ。でもさ、オレ達もこれからは父様のことを手伝いてえ。もう、孤独に戦い続ける時代じゃないんだ。そうだろ?』

「……そうだな、その通りだ。一人でやろうとしたって、できることなんて高が知れてるんだから。あー、いつの間にか忘れちゃってたなあ……」

『思い出せたからオーライだぜ、父様! ……もう、あなた一人にすべて背負わせるなんてしたくないから。オレだけじゃなく、ここにいるみんなもきっと同じ気持ちさ』


 そうした俺の反省に、シャーリヒッタもみんなも微笑んでくれる。優しい、温かな笑みだ。

 そうか……俺はいつの間にか、コマンドプロンプトとしてもあろうとするあまりに大切なことを忘れてしまっていたのかもしれない。

 誰かに頼り、誰かを支え、ともに生きるということを。そんな、命あるものすべてに共通する当たり前のことを。

 

『これまでに背負ってるもの、背負ってきたもの。そして背負おうとしているもの……どうかこれからは一緒に背負わせてください、父様』

「公平くん、私達にもその負担を分け与えてください。あなたは一人じゃないんです、そのことをどうか、忘れないで」

「シャーリヒッタ、香苗さん…………みんな、ありがとう」


 大切なこと、教わったな。深い感謝とともに頭を下げる。

 俺もまた一つの命に過ぎないんだ。みんなと支え合わないと生きていけない、ごく普通の生き物なんだから。


 何でもかんでも自分一人でーなんて、できるわけがないんだ。

 変なほうに行きかけた俺を正してくれる人達が、こんなにもたくさんいてくれる。そのことに俺は、改めて自分が恵まれていることを自覚したのだった。

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[一言] もう特別指導員の佐山さんお呼びしようぜ
[一言] 実際死んでも魂がシステム領域に帰るだけとか少しは思ってそう
[一言] システムさん、今ですよw
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