蹴りたくて蹴りたくて(殺意で)震える
動画内にて現れた謎の化物。俺が見たのと同じ姿で、宥さん達に向かってやって来ている。
戸惑いつつも応戦する宥さん達。パーティーメンバーの中でアタッカー役なのだろう、福島さんが剣を持って果敢に斬りつける、のだが。
『えっ……すり抜けた!?』
『あおえうおおいうえええおおいいいううう』
『っ! あぶない!!』
やつの持つ3つの性質とも言うべきバグスキルの一つ《次元転移》にて次元をズラシているのだろう、あらゆる攻撃を素通りして無効化してしまうやつに、彼女の剣はあえなく空振ってしまった。
となれば当然隙が生まれる。カウンターを合わされてしまう危険な距離とタイミングだ。やつが腕を振り上げ、下ろそうとする。ヒットの瞬間、打撃部分のみ《次元転移》を解除するつもりだろう。
『や、ば──』
『あおえういうえおいえええううういいおお』
『博子ォッ!?』
咄嗟に宥さんはじめ枚方さんや椎名さん、霧島さんが助けに入ろうとするも間に合わない。ブレる画面、焦る一同。
あわや直撃か、と思った次の瞬間!
『──しぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!!』
リンちゃんが爆発的な踏み込みで福島さんに接近し、その身体を押しのけた! そして立ち位置を入れ替わるようにステップし、迫りくる化物の腕を右脚の蹴りにて迎え撃ったのだ!
奇しくも実体化したタイミングがかち合い、ぶつかる腕と脚。となれば新人探査者程度の戦闘力しかない化物が、S級探査者にも迫ろうかという近接戦闘のプロフェッショナルにかなうわけもなく。
『!?』
『しぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!!』
あっけなく腕を弾かれることとなり、化物が一瞬、怯むのが見えた。ただしダメージを受けた様子もない。
あの蹴りをまともに受けて平然としているのは、やはり《玄武結界》による無敵状態だからだろう。攻撃力はまるでないものの、防御面においてはすり抜けも相まって無類の完全無敵状態を誇る。
それがあの化物だった。
『…………逃げて、みんな!!』
『えっ……』
『で、でも』
『こいつやばい! 宥さん、ダンジョンから出て公平さん呼んで! 普通のモンスターじゃない……普通の探査者じゃ、絶対に勝てない!!』
一撃当てた時点で、致命的なまでの違和感をリンちゃんも覚えたのだろう。即座に俺を呼ぶよう、宥さんに叫ぶ。
この辺は三界機構と戦った経験が活きたのだろう。まともなモンスターじゃない、つまりはシステム領域絡みのモノの可能性があるということを即座に理解して助けを求める判断力の速さと的確さがすさまじい。
けれどそれは本人としては悔しいもののようだけどね。現実の、下唇を噛んで悔しそうに俯くリンちゃんを俺は見る。
どんな敵でも蹴り抜き穿つ、それがモットーの星界拳正統継承者たる彼女にとって……いくら無敵でもすり抜け状態でも、自分では絶対に勝てないと断言してしまうのは屈辱の極みなんだろうな。
動画はそこで止まり、俺達はふうと息を吐いた。
最初は見応えのある素晴らしい動画だったが、化物が現れてからは恐ろしい、ホラーにも似た映像でしかない。せっかく大勢の人達を楽しませるためのものを、あんな形で台無しにされたことが俺には残念でならない。
リンちゃんが、映像の続きを口頭で話した。
「……そのあと、公平さんが来るまでの間に私、やつの足止めをしました。一瞬で移動してきて、こちらの攻撃は当たらない。でも向こうの攻撃は実体化してきて、しかも攻撃してくる部位だけ」
「そしてカウンターを合わせても一切ダメージを受けず、か。フェイリン……そのようなふざけた輩によくぞ持ちこたえてくれた。悔しがるどころか大いに誇っていいことだ、ワタシが保証する」
「回避や防御に専念して足止めならまだしも、実体化するタイミングを割り出してカウンターで積極的に仕留めにいくなんてなかなかできることじゃないよ、フェイリンさん。結果としてあの化物の性質をいくつも割り出せたんだし、君は君のでき得るすべての仕事をこなしたよ」
「…………謝、謝」
ヴァールとエリスさんが諸手を挙げて若き探査者を讃える。香苗さんやマリーさんもうんうんと頷いて賛同しているように、今回のリンちゃんの動きは間違いなくMVPと言えるものだ。
敵わずとも抗い、敵の持つ手札を暴いてみせた。そしてそれを俺に伝えてくれたことにより、俺はやつの正体にある程度の予想を立てることができたんだ。
勝ち負けで言えば間違いなく彼女の勝ちだ。倒せなかったからと言って恥じたり悔しがったりする必要なんてどこにもない。
ないんだけど……やっぱり武術家としては悔しいんだろうね。少しだけ笑みをこぼしつつ、目には悔しい、次遭ったら必ず仕留めるという執念じみた闘志が渦巻いている。
「やつの無敵、剥がれたら必ず蹴る。絶対に蹴る……! 星界拳、舐められっぱなしで終われない……!!」
『すげぇ殺る気だなー……あのインチキ野郎見てまだそう思えるってのはすげえや』
『き、聞いてはいましたが凄まじいですね……』
そら実際にそう言ってるし! 怖ぁ……殺る気マンマンじゃん。シャーリヒッタもヌツェンも若干引き気味だし。
同じ武術家として思うところがあるのかやたら頷くサウダーデさんも若干深く考えると怖いのでスルーして、俺は経緯を振り返っての話し合いを始めた。
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