もう止めてください!体育会系が絶望的に馴染まない山形だっているんですよ!!
「え? え? 嘘、何、ゆ、夢……?」
「ち、チェーホワ統括理事に、フランソワ特別理事……いきなり現れた!?」
「名だたるS級探査者に、あの御堂香苗さん……はまあ、山形くんがいるから分かるけど」
分からないで? どうか分からないで?
突如空間の裂け目から現れた頼れる仲間たちの姿に呆然としつつ、しかしなぜか香苗さんに対してだけはあーまあうんわかるわかるみたいに謎の納得を見せる、宥さんのお仲間さん達に俺は内心でツッコミを入れた。
俺いるところ伝道師あり、みたいになってんじゃん。完全に一般の認識がそうなっちゃってんじゃん怖ぁ……
いやまあ宥さんからしてああなので、ある程度そういう認識を持つのも致し方ないところではあるのかもしれない。
山形公平を見かけたら御堂香苗もいると思え、などと今後噂されるようになったらどうしよう、などと不安でいっぱいになりつつもしかし、今はそれを押し殺して俺は告げた。
「みなさん、お忙しい中お呼び立てしてすみません。ヴァール、すぐにこのメンバーを集めるの大変だったろ、ごめんな」
「何を言う山形公平、フェイリンとあなたの連名での召集なのだ。何に代えても優先するとも……それにこちらのほうからも、新たに判明した事実を伝える機会が欲しかったからな」
「やっぱり取り調べでいろいろ分かったんだな、連中のこと」
ヴァールは無表情のまま頷く。どちらにせよ近々、俺達は再度集結する因果にあったらしい。
おそらくだが彼女が掴んだ新事実には、今回のあの化物についても含まれているだろう。そしてそれは俺の推測するところと、そう大差ないはずだという確信が俺にはある。
と、マリーさんが穏やかな表情で仲間内で集まる宥さんパーティーに話しかけに行った。
いきなりの事態、集まったメンツに慄く彼女らを安心させるべく、にこやかに笑いかけている。
「どうも、おつかれさん。私のことは知ってくれてるみたいだね、光栄だよ」
「は、はい!」
「WSO特別理事、S級……あ、元S級の、マリアベール・フランソワ先生! お、お会いできて光栄です!」
「ファファファ! そう固くならず。もう私ゃ隠居してるただの婆さね、これからを生きる若い子に、そう下手に出られるのは申しわけなくてかなわないよ」
眉と目尻を下げて微笑むマリーさんは、どこからどう見ても人のいいお婆さんなんだけど……これでこの人つい先月まで現役で居合刀振り回して、あまつさえ三界機構の魔天すなわちワールドプロセッサ殺しという偉業を成し遂げたお人だからなあ。
全然今でも余裕で最強クラスだし、そもそもそれまでに積み重ねてきた功績があまりに大きい。宥さん達もそりゃ緊張するよね。
エリスさんが微笑み、葵さん達にこっそり語る。
「……昔、マリーが若かった頃ってね、葵。いわゆる先輩後輩って関係性はどこでも今よりずっと厳しくて先輩は絶対で、でもあの子はそういう空気にまるで馴染めなかったんだよ」
「聞いたことありますね……いわゆる年功序列の体育会系だったって。半世紀前くらいにはそういうのなくなったって聞きますけど」
「ステータスを授かる人間のすべてが、そうした空気に適応しているなどとそんなわけがないからな。得手不得手は絶対にあるのに、まとめてそうした現場に叩き込むのは貴重な人材を潰すのと何ら変わらない。WSOも早期にその点は問題視しており、地道に環境改善に努めてきたのだ……それでも半世紀かかってしまったがな」
「界隈の歴史ですね……」
唐突に始まった界隈の昔話。俺も小耳には挟んだことあるんだよね、大昔はガチガチの体育会系だったって。
正直、そんな風潮じゃない現代に探査者になれて本当に良かったと心から思う。体育会系そのものは悪いわけじゃないにせよ、適合性みたいなのは絶対にあるからね。
俺じゃ馴染めなくて早晩、内勤に鞍替えしていたまであり得る。
WSOグッジョブ。ついヴァールの肩を叩いて神妙な顔で何度となくうんうんと頷いてみる。無表情ながら照れたのか、彼女は少しばかり俯きがちに。ありがとうとつぶやくのだった。
さておきエリスさんの話は続く。
「ま、そんなわけで苦労してきたマリーは、だからこそ自分は後進に対しては絶対にそんな偉ぶらないぞとカッコつけてるわけだねー。ま、一番荒れてた時には先輩となると目に入ったら殴り飛ばしてた狂犬の志すことかな? とは若干思うけど、今となってはご愛嬌だしね」
「怖ぁ……」
「気にいるいらないとかですらなく目に入ったらですか……」
殺伐としすぎじゃない? 昔の一番ヤバかった頃のマリーさん、ほぼ通り魔みたいなもんじゃんそれ。
一体何があったの当時のマリーさん……思わず今現在のマリーさんを見ると、ちょっと顔を赤くしている。まあ聞こえてるよね。
誤魔化すように、彼女は一気に喋った。
「あーなんだ。あんた達が今回遭遇してしまったヤツなんだが、ちいとワケアリで表に出せないやつでね。動画撮影してたみたいだが、悪いけどWSOが回収する形にしたいんさね」
「はい! 喜んでご協力します!」
「あの得体の知れないモンスターの姿も少しだけですが映っています。少しはお役に立つと思います」
「もちろん配信や、そうでなくともプライベートの場で今回のことは決して他言いたしません。我が救世主山形公平様に誓わせていただきます」
「ああ、そりゃー効き目の有りそうな誓いさねえ、ファファファ! ……本当に悪いね。あんたらの無念、きっちり私らで落とし前つけさせてもらうよ」
今回の件を見なかったことにしろ。誰にも話すな、動画も没収する。
仕方のないことだけど理不尽な要請に、けれど彼女達は揃って快く応じてくれた。一切躊躇なく、探査者としての義務と使命を優先してくださったのだ。
なんて立派な人達だろうね。最後の、俺への誓いが云々はともかくそこを除けば本当に素敵で尊敬に値する探査者達だ。
俺だけでなくヴァールやサウダーデさん達S級探査者も、深い感謝をもって彼女達を見る。実力なんて関係ない、真の探査者に対する敬意がそこにはあった。
「無論、WSOから後日あなた達に謝礼の品と感謝状をお送りさせてもらいます。ご協力、本当にありがとうございます……大ダンジョン時代は、あなた方のような勇気と正義、そして知恵のある探査者によって支えられているのです」
「チェ、チェーホワ統括理事様……!」
「あわわわ、もったいないお言葉!」
世界的にも有名なソフィアさん……の、フリをするヴァールに、宥さんのお仲間さん達は慌てて顔を赤くし、けれど嬉しそうに笑い、頭を下げる。
その姿もまた好意に値するもので、俺達は揃って笑みを浮かべた。
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