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アンサー・イン・ザ・ダーク

 どうにかこうにか2日、時間を稼いだ俺はその場にて座り込み息を整えた。度重なる因果改変と極限倍率によって消耗した体力を、回復させることにしばらく努めたのだ。

 とはいえその間も、敵の観察と考察は止めない。

 

「おおおおあおおおおうおおおえええええ」

「知能はない……ように思えるけど、リンちゃんを追って《座標変動》を使おうとしていた。あれは考えてのことなのか本能的なものなのか」

『魂がないし肉体の反射的反応によるものだろ、さすがに』

「だよなあ、やっぱり。魂もなければ因果もないなんて、存在してないのも同然なんだが……」

『さりとてそいつは目の前にたしかにいて、あまつさえ攻撃までしかけてくると。僕にも理解しかねるとは、なかなか興味深い輩だねえ』

 

 アルマが感心した風に言うのを、冗談じゃないんだがと苦い思いで返す。

 コマンドプロンプトたる俺と、別世界とはいえワールドプロセッサだったアルマ。二人揃ってなお正体不明の化物ってのはあまりにも不穏だ。

 この調子だとこの世界のワールドプロセッサにもこのモノの正体は掴めていないだろうな。

 

「システム側はどう捉えているのか、聞いてみるか……《風よ、遥かなる大地に吼えよ/PROTO CALLING》」

『ん……精霊知能を呼ぶのか』

「俺は現場側だしお前はそもそも盤外にいる。ここは一つ、俯瞰から見ている彼女らの意見を聞きたい」

 

 知らない分からない者同士でうんうん唸っていても仕方ない。システム側のほうで何か掴んでることはないかと、俺はスキルを使用した。

 精霊知能ヌツェン、シャーリヒッタを呼び出す──事態はすでに把握していたのだろう、即座に二人ともが霊体化して顕現してくれた。

 

『精霊知能ヌツェン、ただいま参上いたしました! こ、この度は大変な事態が起きてしまい、こちらとしてはどうお答えしたものかと!』

『精霊知能シャーリヒッタ、求めに応じただいま参上! ……大丈夫ですか父様! 御身体に異常は!?』

「二人とも来てくれてありがとう。ああ、大丈夫だよシャーリヒッタ。ちょっと消耗しただけで命に別条はない、ありがとうな」

 

 顔を青ざめさせているヌツェンと、すかさず俺の体調を気にしてくれているシャーリヒッタ。

 ちょっと休んだらまあまあ回復したと答えて、ひとまず二人を安心させる。


 バグフィックス担当とワールドプロセッサの補佐役担当の精霊知能がそれぞれやってきてくれた。言うまでもなく両人とも有識者だ、俺やアルマにない見識を持っている可能性は十分にある。

 それを期待して俺は、二人に話しかけた。

 

「さて、どう見る? ……正直、俺にはよくわからない。倶楽部幹部のバグスキルをなぜ、やつは性質や体質の形で備えているのか。そもそもアレはなんなのか」

『考えられるのはやっぱ、倶楽部がバグモンスターを精製する前後で創り出した存在ってところか。モンスターの気配やオペレータの気配はするのか、父様?』

「いや……どちらもしない。火野や青樹さんのようなバグモンスターでないし、そもそもモンスターと言えるかすらも怪しい」

 

 化物からはオペレータはおろか、モンスターの気配さえしない。厳密にはモンスターですらない生物ということになるのだが、それにしてはあまりに不自然な存在だ。

 因果がない時点でおかしいからね。それになんらかの動物なり生物なりが変異を遂げたものだとしても、幹部のバグスキルを三点セットで備えているチートぶりの説明がつけられない。

 ヌツェンが、おどおどした様子で言った。

 

『さ、先程の山形様とアレの戦闘解析を行いましたが……間違いなく《座標変動》《次元転移》《玄武結界》と同質の事象が起きていました。ただしスキルとしてでなく、アレの存在そのものに組み込まれています』

『組み込まれてるってのか……!? ただでさえ特例措置のバグスキルを解析して、しかも存在を定義する構成要因そのものの一つとして混ぜ込んだのか! 現世じゃ絶対にできねえだろそんなこと!』

『はい! で、ですのでその、概念存在が目下のところ怪しいかと思われます』

「だろうなあ……」 

 

 スレイブコアやバグモンスターと同じで、こんなことは現世のものだけでは絶対にできることじゃない。となればやはりこれも、概念存在が絡んでいるのだろう。

 元々、倶楽部は妖怪達と繋がっていたしな。倶楽部幹部のバグスキルが組み込まれている以上、彼らを解析してそれをあの化物の製造に利用したと考えるのが自然か。

 

「しかし、スキルを存在そのものに組み込むとは荒行というか、よくできたなそんなこと。あの化物の存在を確立するのに、ちょうどいい要件だったのかもしれないが」

『隙間だらけでそのままじゃ成立しない概念に、後付でスキルによる補填をして存在可能条件を満たした形になります。そんなこと、少なくとも現世においては前例がありません……』

「まあ、存在に必要な枠組みに対してそこまでスカスカな概念がないからなあ。そんなの破棄されたデータか、そもそも規格にない────」

 

 そこまで言って、俺は不意に硬直した。ふと気づくこと、思い出すことがあり、一気に考えが溢れてきたのだ。


 枠組みに満たない規格外の存在。

 バグスキル。

 倶楽部。

 委員会。

 サークル。

 ダンジョン聖教過激派──因果を持たない、そもそもこの世に本来あり得ないモノ。



 その前例、ステラと聖剣。


 

 点と点が繋がっていく感覚。

 割と結構な範囲のことに連続性が見いだせてしまう、辻褄が合ってくる感触に思わず身震いする俺に、シャーリヒッタが怪訝に尋ねてきた。

 

『……父様?』

「分かっちゃったぁ、この化物の正体」

『ほ、本当ですか山形様!?』

 

 ヌツェンの問いかけにも頷き、俺は立ち上がった。体力はもう、それなりに回復している。

 おそらく俺は正答を得た。だがそれだけではこの化物をどうにかすることはできない。その解決策は、この2日の間に考えつくしかないのだ。

 

 だがまずは、俺の至った答えをみんなに伝えなければならない。

 化物は封印したまま、俺は地上へのワームホールを開いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] はっ、分かってしまったぞシャイニング! まさかここまで引っ張っておいてこれとは。 一体誰に想像が出来ただろうか。 皆の度肝を抜く圧倒的なモノ。 これはそう。まさに…………夏休みの自由研究…
[一言] ガワだけ作ってこれに神なりを降ろそうとした…?
[一言] そうやって神(概念存在)を造ろうとした?
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