おまえのようなサンドバッグがいるか(ガチギレ)
翠川の《座標変動》、青樹さんの《次元転移》。
眼の前の敵は今、かつての難敵が持っていたバグスキルに相当する能力を二つも使用した。空間転移したリンちゃんを同じ要領で追撃しようとし、あまつさえ俺のフルパワーによる一撃をも、こともなげにすり抜けたのだ。
攻撃を放ち終えた直後の俺に、蠢くグロテスクな右腕を振るう化物。カウンターのつもりか、舐めるな!
俺はすぐさま因果を操作する。このモノ自体に因果はないし、そもそもオペレータじゃないからバグスキルですらない能力だ、一括りに封印ができない。
だが、それならそれで周辺の因果を変えればいいだけだ。俺はつぶやいた。
「《このダンジョン内にいる存在すべての次元座標は固定されているから、次元の上昇および下降はできない》──お前のすり抜けも、これで、無効だ……!」
「ええええええあああああああ」
「くっ……!」
このダンジョン内限定で、座標改竄と次元転移の無効を行う。極限倍率のところにニ種類の因果改変で内臓が軋みをあげるのを感じるけど無視だ、今それどころじゃない。
次いで飛んできた腕を掴む。次元転移ができない今、こいつの存在はたしかに目の前にある。ならば攻撃できる。
攻撃できるが、しかし……
「……《玄武結界》。無敵状態まで付与されてるのか」
「あおあおあおああおあおおいおあおあおうおうお」
触った瞬間に分かってしまった。
こいつ、無敵だ。
結局火野自身がまともに使うことはなかったが、やつのバグスキル《玄武結界》──範囲内に無敵状態を付与する結界スキルが、どうしたことかこいつに展開されている。
それもこれ、リンちゃんとのやり取りから察するにずっと展開しているんじゃないのか? あまりに異常な感覚に、思わず顔を顰める。
アルマが引き続き、脳内で考察を始めた。
『スキルとしてのオンオフはさすがにあると思うけど、信じられないほどの長時間、無敵状態を維持できていると見るね……座標変動と次元転移も似たようなものだろう。つまりこいつは能力としてでなく、性質に近い形でこないだの連中のバグスキルを備えてるってわけだ。どうする?』
「……くっ!」
どうするもこうするも、現状どうにもならない。俺はやつの胴体に数発ビームを入れて吹き飛ばした。ダンジョンごとぶち抜く威力だが、それでも有効打にはならず、またすぐこちらへ向かってくる。
因果操作が効かないやつの、無敵状態を剥ぎ取る方策──この世に完璧なんて存在しないから必ず何か手段はあると思うけど、今すぐにポンと思いつくものじゃない。
幸いにして敵の戦闘力自体は低い──極限倍率を解き、常と変わらぬ状態にまで出力を戻す。それでも問題なく向かってくる敵に合わせ、カウンターで顔を殴りぬくくらいは余裕でできた。
「ぬぅん!!」
「おえいあああああううううううううう」
『絶対に倒せない無敵の雑魚か……大層だけど要は壊れないサンドバッグと思えばいい、のかな?』
「サンドバッグ自身が危害を加えに来る点を除けばな。雑魚でも探査者の最低限度くらいには殺傷力を持ってるのが嫌な話だ」
再び殴り飛ばされる化物。この調子なら仮に3人分のバグスキルを封印しきってしまえば、リンちゃんはもちろんのこと宥さんだって普通に勝てる程度の戦闘力しかないな、こいつ。
基準としては最初期のおかし三人娘くらいか。知性もないというか本能的な感じだし、持ち備えた性質のインチキさに比べていやに本体性能の弱さによるチグハグさが目立つ。
確実に倶楽部が関係しているのは言うまでもないものの、一体なんのつもりでこんなものを作ったんだ?
バグモンスターの試作か、あるいはスレイブモンスターの成れの果てとかか。あるいは……?
いずれにせよろくなものではない、眼前のおぞましいモノを見据えて俺はさしあたっての対策を講じた。
「《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》──あらゆる存在の出入りを許さない、封印結界を展開する」
昨日の夜にも使った、俺の俺による俺のためだけの専用結界構築スキル《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》。
これを今度は座標改竄を封印し、あらゆるものの出入りをも閉ざした完全封印結界と定義して化物の周囲に張った。
身動ぎするのがやっと程度の範囲を見えない壁で閉ざされたやつは即座に、動けない自分に気づいたらしい。
《座標変動》も《次元転移》も試しているんだろうが無駄だ。出入りの指定にはそれら二つのバグスキル対策をも練り込んである。
「あおあおあおあおあおあおあおあおあおあ」
「ふう……これでしばらくは隔離できたか。神魔終焉結界込みで、この規模なら2日は展開し続けられる」
『つまりその間にこの化物の正体と対策を見つけ出さなきゃいけないわけだね。その辺をクリアさえできれば、殺すのは容易だろうし』
「それも正体によるけど、な……ぐ、う」
アルマに応えつつ、俺はふらつく身体を咄嗟に堪えた。
極限倍率にニ種類のバグスキルへの対応。トドメに特殊な封印空間の形成と3連チャンでの因果操作をして、これがまたキツイのなんのって。
ちょっと休めば元通りになる程度だけれど、それでもしんどいものはしんどいわ。
息を切らしながらも、俺はしばらくその場にて座り込む。
このまま戻ったらまたみんなにいらぬ心配をかけちゃうからね、休憩休憩。
体へのダメージを意識して、息を整えつつも体力の回復に努める俺だ。
「っ、はー。はあ、はあ、ふう……ふう。あー、しんど。何考えてこんなの造ったんだ、倶楽部……」
『人間と概念存在のコラボレーションによる産物なのは間違いないけど、よくまあ複数のバグスキルの性質を付与させられたもんだ。僕が健在だったら間違いなくその技術力、喰らいにいってたね』
「だろうな……そう考えるとお前がこうなってから動き出してくれたのは、むしろ僥幸だったんだろう、な」
邪悪なる思念がこんなのを引っ提げて来るなんて笑い事にもならない。
その辺を併せて倶楽部や概念存在に対し、お前らそろそろ本当にいい加減にしろよって言いたくなってくるよ。いやぁホント、マジでふざけんなよって感じだわ。
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