ターニング・ポイントは誰にでも訪れるもの。今でなくともいつかどこかで
川で遊び始めてそろそろ二時間くらいにはなる。もうそろそろみんなそれなりに遊び疲れて、心地よくも気怠げな雰囲気が流れ始めていた。
そうなればもう潮時だろう。俺達はじゃあスーパー行ってなんか買って帰るかと、川から上がってタオルで水を拭き取り始めたわけである。
「やー涼しかった! やっぱここに帰ってきたら川だよなー!」
「そこからスーパーで適当にお買い物して帰る、これも毎年だよねリューさん」
「ルーチンになってるんですねー」
リューさん、優子ちゃん、リーベがタオルで水気を拭いつつ話す。まったくリーベの言うとおりで、盆2日目は丸一日自由時間ってこともあり、午前中には川遊びしてスーパーで買い物してから家に帰るってのがもはやお約束だ。
そうしてお昼を食べてから、午後は親戚みんなでテレビを見たり将棋やすごろくをしたりして過ごす。夏子さんや啓太くん、恵ちゃん以外の親族は、じいちゃんばあちゃんとは毎年このタイミングでしかふれあえないからね。
毎年大きくなった姿を喜んでもらえる、祖父母と孫世代の交流の時間を過ごすわけだ。
そして3日目は引き続き一日中、楽に過ごして4日目。朝ごはん食べてぼちぼち、みんな帰っていく流れになる。来年までみんなお元気でーって、互いの健康無事を願いながらの解散になるのだ。
毎年決まり決まった一連の流れだね。今年もたぶん、そんな感じになるんだろうなあ。
さて粗方、片付き終わったし今度はみんなでスーパーに向かう。国道沿いを10分くらい歩いたところにあるそれは、大型とは言えないけれどそれなりに品揃えも豊かなお店だ。
この辺、山間ながら人はそこそこ住んでるからね。そんな人達の唯一の生活インフラ拠点ということもあり、結構繁盛してるスーパーだったりする。
「はー、この辺は緑ばっかで風も涼しいよな、都会に比べて」
「いや都会って……うちらも湖西住まいじゃん、リュー兄」
「まだ公平達の住んでるところのほうが、隣県とも近いし都会って言えるかしら」
「どうだろ? まあ、俺達の家の周りはここに比べても暑い感じはするね」
歩きがてらの雑談。リューさんや春香は比較的この辺に近い場所に住んでるけど、山に挟まれて風の通り道みたいになっているこの辺よりは格段に暑いみたいだ。
まあそれでも俺達の住んでるあたりのほうがもっと気温的には高いんだけどね。連日とんでもない猛暑の続く時期だし、だからこそこういう自然の涼に恵まれた土地に帰省できるのはありがたいよ。
スーパーに辿り着き、さっそく中に入る。冷房のしっかり効いた涼しい空間が外に比べてやはり天国だ、啓太くんと恵ちゃんがふぃ~って感じに息を吐いて蕩けそうになっている。
俺はふと思い立ち、近くにあった自販機でジュースを買って二人に渡した。
「大丈夫? 暑いね、これ飲んで水分取ろっか」
「ジュース!」
「ありがとうシャイニング兄ちゃん!」
「公平、何もそんなことまでしなくたって、私が買うのに……」
「かわいい盛りのいとこへのプレゼントってことで。それに熱中症とかになるのは大変だしね」
夏子さんに笑いかけながらも、さっそく蓋を開けてジュースにありつく子供達を眺めて微笑む。
本当は因果改変してでもこの子達を暑さから護ってあげたい気持ちはあるけれど……どうしたって今日明日だけになるわけだし、この子達のためにもならないだろう。
慣れるのが一番だなんて言うつもりはまったく無いけど、ある程度自分達で取れる対策を身につけて、それでやりくりしていくしかないんだ。
暑さも寒さも自然の賜物だからね。どうかうまいことつきあう方法を身に着けていってもらって、すくすくと育ってくれればいいと思う。
「夏子さんもみんなも、もちろん俺もだけど。熱中症は本当に怖いからね。水分と塩分はしっかり補給して、帽子や日傘で直射日光を受けないように気をつけようか」
「公平、なんか保育園の先生みたい……っていうか本当に何があったの? 去年までと変わりすぎでしょ、あのド陰キャがこんなになっちゃって」
「ド陰キャ!? お前俺のことそんな風に思ってたの春香!?」
「いやだってずーっとゲームしてるし……話には乗っかってくるけど、それはそれとしてずーっとゲームしてたし……」
「う……」
あんまりな物言いに思わず抗議したけど、普通に返り討ちに遭ってしまった。かなしい。
去年の話だけど、帰省しても例のゲームずーっとしてたのは事実だ。さすがに親族と語らう場やじいちゃんばあちゃんとのふれあいを蔑ろにまではしてなかったものの、それ以外のタイミングだと大体ゲームしてた気がする。
ド陰キャ言われるのも納得ですね。
自分でもそう思えてしまって言葉に詰まる。そんな俺に、夏子さんが笑って庇ってくれた。
「まあまあ、それだけ公平にとってこの一年、特に春からこっちが濃密だったってことよ」
「いやでも……」
「隆太郎や春香、優子にもそのうち訪れると思うわよ、そういう時期。人生がガラッと景色を変えて、新しい自分になるような体験をするの。楽しかったり辛かったりするけど、まあ大体がそれなりなところに落ち着くのよ、いつだってね。私にもあったわー」
からから笑って昔を懐かしむように目を細める夏子さん。
この人にもいろいろあったんだろうことがうかがえる笑みと言葉には、含蓄のある重みがあった。
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