使徒、再会(功夫少女もいるよ!)
「────うん?」
「よいしょーって、え? どうしたの公平」
「あ、いや……こんなところ目がけて珍しいな。探査かな?」
川でみんなと遊んでいると、不意に感知する気配があって俺は動きを止めた。
水のかけあいっこをしていた春香が、急に制止した俺にキョトンとして尋ねてくる。俺はその声に軽く答えつつ、気配のする方向を見た。
道路、川に沿ってうねる国道の遥か向こうから複数名、オペレータの気配がやってきているのを感知したのだ。ちょうど俺達一家がここに来るのに使ったのと同じルートだ……湖南から来ている。
まとまっている上、それなりのスピードを一定に保ちつつ向かってきているあたり車だろう。あるいはバスかもしれない。数にして6人、探査者がこっちに来ているわけだね。
「ちょっと公平? 何よ急に、本当にどうしたの?」
「ん……ああ、ごめん。ちょっと気になることがあって。少しだけ離脱するわ」
「え、あ、そう? いってらっしゃーい……気になること?」
こんなところまで探査しに来るのかー。珍しいって言ったら変だけど、なんとなく気になる。
ちょっとどんな感じか見てみようかなーと思い、春香に断りを入れてからみんなから離れて川から上がると、タオルで足下を拭いてサンダルを履き俺は歩き出した。
リーベが何かあったのかと見てくるのを、大丈夫大丈夫と手振りで示して一人、国道に出る階段にまで登る。
気配は相変わらず一定のスピードで確実にこちらに向かってきている。じきに見えてくるだろう。
「どんな感じの人達かなー、っていうかどこの辺のダンジョンを探査するのかな? たしかに1km圏内、チラホラとあるっぽいけど」
完全に物見というか見学というか、興味本位で出待ちしているミーハーな俺ちゃん。わざわざこんな山間にまで探査しに来る人達が気になるといえば正直、気になっちゃうんだよねー。
一応感知できる範囲内にもいくつかダンジョンはあるし、そのどれかの探査だろうか。6人パーティーってのはなかなか大人数だけど、二手に分かれたりとかするのかな?
完全に野次馬に来た地元のおじちゃんって気分で近づいてくる気配を待つ。ちょっとワクワク。
もうちょい、あとちょっと、たぶんそこのカーブを曲がって……ああ見えてきた! バスじゃなくて乗用車、多人数乗りの白いワゴン車だ!
自家用車かレンタカーかは知らないけれど、とにかく自分達の車でやってきたわけだ。遠くから来たんだろうなー。
ワゴン車が迫ってくるのを、持ち前の強化された視力で見てみる。いつもお疲れ様でーす、お仕事頑張ってくださーい! なんて、心の中でつぶやきながらも。
と、近づいてくる車の運転手さんをちらっと見た、その時だ。
────あれ? 助手席になんか見覚えのある顔がいるぞ?
「え……宥さん!?」
『…………? ────っ!?』
すれ違いざまたしかに目と目が合った。なんなら同じタイミングで目を見開いて、同じタイミングで何かしらお互い、びっくりしたように思う。
宥さん……望月宥さんがそのワゴンの助手席に乗ってたぞ? ってことは今のパーティーってば、宥さんのパーティー!?
振り返ってワゴンの行先を見れば、車は車道の脇、ちょっとした空き地があるのでそこに逸れて停車する。
参ったな……まさか知り合いがいるとは思わなかった。思わぬ足止めをさせてしまったな。
バツが悪い思いで謝ろうと思って車に近づくと、車から案の定というかなあ、宥さんが降りてきて驚いたような、でもそれ以上にめちゃくちゃ嬉しそうな顔をして俺のほうにまで駆け寄ってきた。
「公平様! まさかここでお会いできるなんて!!」
「あー、こんにちは宥さん。ごめんなさい、結果的に呼び止めるみたいになっちゃいましたね」
「とんでもない! 夢みたいです、信じられません!」
初手謝罪から入ったんだけど、お構いなしとばかりに宥さんは俺の両手を握り、大はしゃぎで小刻みに飛び跳ねて喜びを示す。
相変わらずゆるふわ系美女でお美しい、彼女の喜色満面の姿に俺もつい見惚れてしまう。ボーっとしていると、宥さんのほうから俺に、興奮冷めやらぬままといった感じで尋ねてきた。
「ですが公平様がどうしていらっしゃるのですか? 帰省中とお伺いしてますが……あっ、もしかして!?」
「そ、そうなんです実は……祖父母の家がこの近くにありまして。お盆の帰省中なんです、これでも」
「そ、それって……この地が救世主様の聖地ということですか!?」
「聖地て」
そうきたかー……伝道師がいなくても使徒だもんなあこの人も。しかし聖地って、山間のど田舎が大変な扱いを受けてしまったよ。
そのうち、それこそどこかの伝道師さんが聖地巡礼とか言ってはしゃぎだす姿を幻視しつつも、俺は顔を引くつかせながら話を変えようと話を振った。
「え、えーっと。それはともかく宥さんはダンジョン探査ですか?」
「あっ……はい! 実は私、パーティーのみんなと特別ゲストの方でこれから、この辺の山にあるダンジョンを探査するんです」
俺の事情はともかく、宥さんはやっぱり探査に来ているみたいだ。パーティーの人達っていうと、宥さんのチャンネルでいつも一緒の女性探査者達が来てるのかな?
もしかしたら配信用に動画撮影も行うのかもしれないね。
そしていかにも思わせぶりな、特別ゲストなる探査者もいるとかいないとか。
誰だろう、特別っていうからには大物探査者さんだったりするのかな。俺は首を傾げて彼女に質問してみた。
「……特別ゲスト?」
「はい。ふふ、公平様もよくご存知の方ですよ」
えっ、俺も知ってる人?
まさか伝道師!? ちょっと待ってコラボするとか言ってたけどこのタイミングでやるとかありなの!? もうじき正式にS級探査者になるんですけどあの人!?
絶妙に有り得そうで怖ぁ……な想像。
もうなんか、当たり前のように車から香苗さんが出てきても不思議じゃないのがすごいよあの人、伝道のためならどこにでも出没しそうだもの。
──不意にワゴンの後部座席が開き、そこから一人降りてくる。
よもやハープを備えた某虹の架け橋さんですか!? と固唾を呑んでそちらを見ると、そこにいたのは。
「…………リンちゃん!?」
「公平さん!! ニーハオ、こんにちは! 星界拳"天覇"のシェン・フェイリン、ただいま参上!! なんちゃって、えへへへ!」
チャイナ服にお団子頭がトレードマークのカンフー少女。
星界拳正統継承者にして決戦スキル《アルファオメガ・アーマゲドン》保持者でもある戦友、シェン・フェイリンさんが拱手とともに、俺に向け笑いかけてきていた。
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