魅力的だからといって女性にモテるとかイケメンになれるとかそんなオイシイ話でもなかった。無念
水をかけあうだけでなく、泳いでいる魚と戯れたり、小さなカニを見つけたり。流石は自然に近しい川は、観察するだけでもとても有意義で楽しいものだ。
特に啓太くんや恵ちゃんにとっては目に映るすべてが新鮮なようで、リューさんが捕まえた魚を恐る恐る触ったりして楽しそうに笑っている。
この辺に住んでたって基本、川でこの子達だけで遊ぶなんてことないらしいからね。夏子さんがしみじみとつぶやくのを聞く。
「あの子達、ここからバスに乗って小学校に通ってるんだけどね……友達は向こうにいてもこっちにいないから、帰ってきても誰とも外で遊ぶ相手がいなくて」
「そう、なんですか」
「もっぱら家の中でゲームか漫画読んでるかのどっちかよ。手がかからなくて良いと言えば良いんだけど、やっぱりちょっと可哀想でねー。だからこの時期はあんた達が来てくれてさ、助かってるのよ、ありがとね」
「いえいえ、そんなそんな」
啓太くん達の事情も込みで感謝をいただく。そっかそうだよな、この辺、地元の学校からも遠いもんな……
立地だけはさすがにどうにもできないけれど、あの子達の遊び相手になるくらいならお安い御用だ。お盆の間だけでも全然、一緒になってはしゃぎますとも。
そう言うと夏子さんはどこか安心したように頷き、そして次、からかうように俺に言ってくる。
「もー、すっかり大人びちゃって! ホント、人が変わったみたいに立派になったわねー、公平」
「そ、そうかな……?」
「ホントホント! その上で探査者だったりするんだもの、そりゃーモテるわよねこんなだったら。周りの美女美少女が放っとかないはずだわ」
「えっ!? い、いや別にそんなことないけど……」
唐突に反応に困ることを言ってこないでよ! ホントあの、最近デリケートなのよそこら辺!?
しんみりムードから打って変わってからかいモードに転換しちゃった夏子さん。ニカっと笑っておもむろに、リーベを指差す?
「あの子、もう完全に公平の嫁ですーって風格じゃない。それに話を聞くと御堂さんに? 望月さんに? なんかカンフー美少女とかにも手ぇだしてるんでしょ、あんた」
「人聞きの悪いこと言わないでもらえません!?」
「正直、今のあんた妙にカッコよく見えるしねー。周りの女の子だって放っとかないんじゃないかしら」
「えぇ……?」
どういうことなの……まず俺は誰ともそういう関係ではないし、カンフー美少女ってリンちゃんのことなんだろうけど、あの子とまで噂立ってるとかもう犯罪者じゃん俺、怖ぁ……
そして夏子さんまで妙に好感度高いのは、これはたぶんだけど称号効果の影響だろう。《生まれたての奇跡を温める人》の、魅力増幅効果だね。絆を結んだ人の数だけ、俺の魅力値が上がっていくというなんとも妙なスキルだ。
これはたしか春先、狼人間を倒した後らへんに手に入れたものなんだけど。実は最終決戦前に得た称号《禁・天地開闢結界》の効果、絆を結んだ数だけ戦闘力アップにつなげるための伏線称号だったりするんだよね。
絆を結んで魅力を上げて、そしたらその上がった魅力も込みでまた絆を結んで。そうして束ねた絆を、最後の最後にまとめてドカンと戦闘力につぎ込んだわけだな、ワールドプロセッサは。
ちなみに魅力値上昇って言っても別に、街を歩いてるだけでキャーキャー言われたり告白されたりメアド書いた紙渡されたり、あまつさえ芸能事務所のスカウトが来たりする関口くん状態になるわけではない。
つまりイケメンになれるわけじゃなく、行動に対しての補正値というか、ちょっと好感度高めに見てもらえるようになるってだけの話だ。
夏子さんが言うのも、別に俺の見た目が男前になったとかでなく、言動を以前より好意的に見てもらえているからってわけなんだね。
その辺勘違いするととんでもない大恥をかいて、しばらく引きこもりになりかねないから弁えないといけない。
関口くんイケメン伝説よろしくシャイニングイケメンになるんじゃないかと大いなる戦慄とちょっとした期待を持っていた当時の俺。
脳内に住み着いていたリーベに"そんなわけないじゃないですかー、洗脳や改変じゃあるまいしー"と即座にツッコまれてホッとしつつもちょっとガッカリしたのも今となっては懐かしい思い出だ。
「本当に落ち着いてさ、なんか私より大人っぽくなってない? って感じだし……探査者ってそんなに大変なんだってちょっと、反省しちゃうかも」
「いや、俺は別に……普通だよ。いろいろあったけど山形公平なのには変わりないし。っていうか反省って何が?」
「探査者が身内にできたし、お金関係で困ることはもうないなーとかさ……あんたが命張ってるって現実も忘れちゃって、そんなこと思っちゃったわけですよおばちゃんとしては」
「あー……」
生々しいお金の話。だけどそれは当たり前に思う話だし、夏子さん気にし過ぎな気もするなあ。
俺だって探査者になったらお金持ちでモテてウハウハだー! って最初、なってたもの。
だけど、実際に探査業を始めてすぐに、ダンジョンのせいで苦しむ人達を見て考えを改めたんだ。
この仕事は私欲のための生業にしてはいけない、ダンジョンやモンスターに生活を脅かされ、苦しめられている人達のために俺達探査者はあるんだって強く自覚したんだ。
とはいえ、たしかにそんな欲望がかつての俺にもあったのは事実。
だからそんな気にしなくたっていいんだ。啓太くんと恵ちゃんの学費とか、経済的な不安だってあるんだからなおさら。
俺は夏子さんに向け、静かに笑って言った。
「稼いでも俺じゃ大したことには使わないだろうし、頼ってよ夏子さん」
「公平……」
「俺は探査者として、ダンジョンから人々を守るために仕事をしてるんだ。お金はもちろん大事だし貯金だってしてるけど、困ってる身内を支えることに使うくらいさせてよ。困った時はお互い様なんだから」
「……ホント、大きくなっちゃって。もうちょっと子供でいたってバチは当たらないわよ? でも……ありがとう」
そう言って、夏子さんは目尻に浮かんだ涙を拭った。
そして心からの笑みを、浮かべてくれるのだった。
GWも終わりということで、明日から毎日0時更新に戻りますー
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