身内の子供からもシャイニング扱いされるヤーツ
二日目の朝、手早くご飯を済ませての自由時間。俺はリーベや優子ちゃん、リューさんに春香も連れて家の外に出た。
いくら休みで久しぶりの親元だからって、日がな一日部屋に籠もって寝てるのもなんだしね。昨日は最高気分でぐっすり寝られたから精神的にも溌溂してるし、ちょっと午前中は出かけようかという気になったのだ。
「川が近くにあるし、ちょっと水遊びとかするかな? そんでもって帰りにスーパーでなんか買って帰ろう、おやつとかさ」
「そしたら午後にはまた、のんびり過ごす感じですねー。平和、平和!」
「帰ったら自由研究だのダンジョン探査だのでまた、それなりに用事ばかりだしな。今のうちに堪能しとこう」
「はいー!」
眩しい日差し、蝉は朝早くからやかましいほどに鳴いていて、近くに車も走ってないことからひたすら自然の音しか聞こえてこない田舎の風景。
虫は嫌いだけどこういうノスタルジックなのは大好物なので、リーベと話しながらも胸が踊るものを覚えていたりしている。
大人になった時、いつか今この時を懐かしくて堪らなく思うことがきっとあるんだろう。それを思うと時間の怖さと儚さと、だからこその限りある今の尊さが身に沁みるよね。
「公平ー、リーベちゃんとばっかりいちゃついてないで春香とも遊べよー。あと俺ともあーそーべーよー」
「ちょ……リュー兄! 変な声で変なこと言わないでよ、もう!」
そんな感じでおセンチになりつつもリーベと午前中の予定について話をしていると、リューさんと春香がやってきて会話に入ってくる。
なんかリューさんクネクネしながら俺の肩に腕を回してくるし。ゾンビゲームのゾンビかな? 春香も春香で顔を赤くして自分の兄貴のスネを蹴ってるし。
賑やかしいなあと思いつつ4人ではしゃぐと、さらに追加で続々と親戚達が家から出てくる。みんな暇してるみたいだ。
「みんなー、私とこの子達も一緒に行くからよろしくねー」
「夏子さん。啓太くんに恵ちゃんも連れてですか」
「別にいいけど、水場は怖いってちゃんと教えてるよな、おばちゃん?」
まずは叔母の夏子さんとその息子娘の啓太くん恵ちゃん。相変わらずシャイなのか母親の背中に隠れている二人の姿が大変可愛らしいね。
リューさんが一応念のためって感じで彼女に確認を取る。何しろ今から向かう川は、小川程度のささやかな流れと浅さで危険性は少ないんだけれどそれでも川だ。万一のことがないとは絶対に言い切れないからね。
もちろん何かあったらどんなことをしてでも絶対に助けるけれど……そもそも水場で遊ぶことに対する危機意識をしっかり持っていることが今回に限らずこれから先も、大切なことになってくるからね。
その辺はさすが高3のリューさん、しっかり考えているようで夏子さんに前もって聞いているわけか。
それを受けて彼女ももちろん! と頷いて答える。
「当たり前でしょ、母親舐めんなっての! これでも毎年海とか遊びに行ってるし、水辺がどんなに怖いところかよく言って聞かせてるもの。ね、啓太、恵」
「う、うん!」
「ん……」
「この子達は私の宝だもの、絶対にとは言えないけれど、できるかぎりのことはしてるから。ただ、やっぱり子供だからね……監督で私も行くけど、目の届かないタイミングがあったらあんたや公平に頼みたいなって」
じいちゃんばあちゃんと一緒に、二人の子供を育てている彼女の目は親としての強さと慈愛に満ちている。いろいろあって3年前に離婚して実家に舞い戻った彼女は、すっかり素敵なお母さんになっているね。
啓太くんと恵ちゃんも、そうした母の愛を受けて健やかに成長しているように思えて俺は目を細めた。いい子達だ……これは目付役を預かる俺達の責任は重大だな。
同じことを思ったのかリューさんが、納得したように頷き子供達へと言う。
「そういうことなら分かったよ。よろしくなー啓太、恵!」
「よろしくね二人とも。水って結構怖いから、お互い気をつけて遊ぼう」
「! は、はい! わ、わかった、リュー兄ちゃん、シャイニング兄ちゃん!」
「よろし……い? ん、んんん?」
「?」
兄貴分として豪快に笑う彼に続き、しゃがみこんで子供達と目線を合わせて俺も話しかける。なるべく柔らかく笑いかけたところ、まさか想定もしてない呼び方をされてしまった。なんで?
シャイニング兄ちゃんってもはやなんかのアニメキャラじゃん。たしかにシャイニング山形なんて巷じゃ言われてるっていうか、自分から言い出しちゃったところはあるけど、こんな小さな子、しかも親戚の子から肝心の山形を抜かした呼び方されるってどーゆーこと?
わけがわからないよ? 何がわけが分からないって、戸惑う俺に啓太くんのほうまで戸惑ってるところがわけが分からないよ。
何、戸惑うのがおかしいくらい俺への認識がシャイニング兄ちゃんなの、この子? マジで?
呆気にとられていると、夏子さんが頭を掻いて申しわけなさげに言ってくる。
「あー、その子ね。恵もだけど、公平の最近の活躍、シャイニング山形だっけ? の動画をよく見てるから。私や母さん、父さんもだけど、すっかりファンになっちゃってさあ」
「そ、それでシャイニング兄ちゃん?」
「シャイニングって言葉の響きがなんかツボに嵌まったみたいなの。恵はそうでもないんだけどね……」
「えぇ……?」
いや、まああるあるだよね、何でもない普通の単語がやけにツボに嵌まって、連呼したくなるのって。
にしてもそんなピンポイントでシャイニング兄ちゃんなんてことあるんだ?
去年まで変わらずのシャイっぷりだったけど、それでも一応は公平兄ちゃんって呼んでくれてたんだけどなあ……
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