虫嫌いの虫嫌いによる虫嫌いのための虫除け結界
晩ごはんも食べ終えてお風呂にも入り、俺は親元に帰省して一日目の夜を大変リラックスした心地で過ごした。
そう、リラックスして過ごせたのだ。これは案外去年まではなかったことだったりする。
それというのも夏の夜、山間でしかも古い家という場所もあり、この辺は虫をやたらと多く見かける環境なんだよね……特に不快害虫と呼ばれるタイプの虫を嫌というほど、簡単に見つけられてしまうわけだね。
去年までは正直、これのせいでお盆に親元へ帰るのも若干嫌がってたところがあるほどだ。特に夜のトイレとか水場とか、泣きたくなるくらい大量発生するからね、何とは言わないけど特定の虫が!
じいちゃんばあちゃん、親戚のみんなと会いたい気持ちはもちろんあるけれど、それに勝るとも劣らないくらいには勘弁してくれと毎年思ってきた。
だけど今年からはそれももう問題ない。なぜなら俺は探査者だから──そう皆さんもご存知の通り、僕の十八番のポエミースキルがあるからね!
「《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》! 虫除け用に定義した、防虫型の結界をこの部屋に展開する!」
攻性結界展開スキル《清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師》。俺の俺による俺のためだけの専用空間を形成するスキルで、本来はもっと大規模な範囲で、俺の攻撃の威力や範囲を爆発的に増幅させるための自作スキルだ。
それを今回、俺の部屋の中だけという極めて狭い範囲において、"虫を寄せ付けない"という定義だけピンポイントで設定した簡易結界の形に応用して展開した。これで今夜は問題なく、虫のいない快適な睡眠を取れるね!
このスキルは本来の運用で使えば、神魔終焉結界のサポートありきでも数分しか展開できない超燃費の悪い能力なんだけど……それってのが対邪悪なる思念を想定して創っているためのもので、俺のフルパワー、極限倍率10万倍の出力さえも活かしきれるように設定しているがゆえの負担だったりする。
今回のようにそもそも戦闘用でなく、やたらややこしいプログラムを組む必要もない"虫除け"オンリーの結界ならば、パジャマ姿のままでも一週間くらいは展開し続けられるのだ。
いやー、ものは試しやってみるもんだね!
親元に帰るにあたり、真っ先に虫問題をどうするか悩んだ末、結界スキルを極限まで負担のない形で展開し続けられないかと考えてやってみたわけだけど、ものの見事に大成功だ。
これで今後は一生涯、虫に怯える夜を過ごさなくて済むぞ、やったー!! バンザーイ!!
『テンション高っ。ていうか仮にも僕相手を想定して創ったらしいスキルをそんな、くだらないことに使うなよ公平……因果操作しないだけまだマシだろうけどさあ』
アルマがぶつくさ言うけど華麗にスルー。誰が好き好んで大嫌いな虫の待つ寝床に行きたいと思うんだ、お前には分からないかもだけど俺にとっちゃ死活問題なんだよマジで!
ちなみに因果操作でどうにかすることも一応、考えてはいたんだけどね。
あらゆる虫を相手に因果を弄ったりこの部屋にありもしない完全防虫措置を施したことにするってのは、いくらなんでも無理筋過ぎて俺の身体が保たなさそうなので断念したという経緯があったりする。
当たり前だけど1から因果を改変するよりは、元からあったスキルを調整して使用するほうがよっぽどエコなんだよね。
そういう事情もあり、今回はなんでもありの因果操作でなく、既存のスキルを流用したというわけだった。
そうしてホクホク顔で俺は夜を快適に過ごした。虫のいない親元の部屋なんて初めてだけど、何よりも心理的重圧や緊張から解き放たれたことによる安心感が本当に素晴らしい。
思わずぐっすり眠っちゃって、翌朝起こしに来たリーベに結界スキルが即バレしてしまい、呆れ混じりの笑顔を向けられちゃったくらいなんだからどれだけ俺が、毎年ここで過ごす夜に眠れない不安を抱えていたのかが窺えるってものだ。
「あははー……虫嫌いもここまでくると本気ですねー。もう、部屋に入った途端結界が展開されているから何事ー!? ってなっちゃいましたよリーベちゃんはー、もうー!」
「ごめんごめん、驚かせちゃったなー。いやでもほんと、最高の夜だったよ。絶対に虫が寄ってこないのを確信しながら過ごす田舎の夜は、最高級の贅沢をしてる気にさえなったね!」
「朝なのにテンション高めなあたり、本当に満足できる夜だったんですねー」
「うん!!」
元気いっぱいに答える今の俺は、たぶんとても高校一年には見えないくらい幼い顔つきになってるんじゃないだろうか。
長年の夢が叶ったからこのくらいは勘弁してほしい、本当にそのくらい長いこと、例の虫達には怯えさせられてきたんだ。
リーベも俺が本当に虫が駄目だってのは、まだアドミニストレータだった頃に脳内同居していた頃にはっきりと知ってるのでそこまで奇異な視線を向けても来ない。
ただ苦笑いして、仕方ない人だなあって顔をするに留まっていた。
「たしかに昨夜は虫が多いねーって話を優子ちゃんとしながら寝ましたけど、わざわざそれ対策にスキルまで使う人は世界広しといえど公平さんだけでしょうねー」
「そもそも虫除けに使える汎用スキルってあるのかな? ステルス系のスキルとか?」
「聞いたことないですねー……モンスター用の能力を虫相手につかうなんて、あんまり想定してないですしねー」
それもそうか。俺の自作した結界スキルだから、こういう裏技めいた芸当も可能なわけだね。
二人で妙なところに着目しながら、俺は帰省二日目の朝に起床した。
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