忙しい時期ほど楽しそうな娯楽が世に出回るんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ
概ね30分くらいでお坊さんの読経も終わり、ありがたいお話なんかもいただいたりして、それから俺達はみんなでお墓参りをも行った。
山形家代々のお墓を参り、みんなで拝んで、そしてまたお坊さんにお経を読んでいただいたのだ。概ね一時間経つか経たないか。毎年恒例の、決まり決まった行事である。
そうした一連の流れも終えて、再び親元の家に戻りのんびりと過ごす。
今度はリューさんの部屋にて、優子やリーベ、アイに春香、あと二宮さん家の健吾さんと姫子さん、その間に生まれた生後半年の赤ちゃんも集まっていた。
「里穂ちゃんっていうんですねー。かわいいー!」
「べろべろー、ばあ! べろべろべろー、ばああ!!」
その赤ちゃん、里穂ちゃんというらしい女の子は愛らしく丸っこい顔つきの子で、リーベも優子ちゃんもすっかりメロメロって感じで戯れている。
俺からしてもたしかにかわいいし、二人がいなかったらベロベロバアとかやりたいほどではあるけど……まあこういう時は年長さんなのでね。大人しく後方兄貴面でもしておくことにする。
「兄ちゃーん、せめてパーティゲームしようよー。てかなんでお盆にまでゲームしてるのー?」
「お盆だからこそだろ! このゲームをクリアするまで盆中は受験勉強はしないって決めてるからな、ちゃっちゃとクリアしねーとそれはそれでオカンからどやされる!」
「いやもう手遅れじゃない? さっき居間で愚痴ってたよ母ちゃん、ゲーム禁止令発令しなきゃーって」
「えぇ……?」
怖ぁ……高校受験前の俺と一緒のことしてるじゃん。
赤子と戯れる女子二人をよそに、持参した携帯ゲーム機でひたすらRPGをプレイしているリューさんの現状とそれにツッコむ春香の姿に、俺はほぼ一年前の自分を重ねて身を震わせていた。
言いわけするけどあんな時期にあんな楽しいゲームを発売したメーカーが悪いんだと思うんだよ、うん。
各種ゲーム情報サイトや雑誌で散々広告宣伝を派手に打ち出していたそのゲームを心待ちにしていた俺は、節度を持って遊ぶから! 息抜き、息抜き!! とお母様に土下座して頼み込んで許可を得た。
そしてそこまでして購入した途端、そんな約束もどこへやらすっかりドハマりしてしまい……受験勉強なんてぶっちぎっちゃってしまったのだ。
奇しくもリューさんが今ドハマリしてるのと同じジャンルのRPG、ストーリーも好みで音楽もサントラまで買ったほどの素晴らしい出来栄えの作品だ。
ビジュアルも玄人好みというべきか、水彩画チックで俺の感性にビンビン来たもんだよ……結果として設定資料集まで買っちゃったほどにハマった俺は、連日夜更けまで遊び倒した挙げ句、母ちゃんにガチギレされてマジ泣きしてゲームを封印する羽目になっちゃったのだ。
思い返すのも辛く苦しい思い出だ。そしてそれと同じ末路を今、リューさんは辿ろうとしている。
なんならこの人3年前も同じことしてるので、この理屈で言うなら俺も大学を志した際にはまた、同じことしちゃわないかと不安でならない。ゲーム自体はもうほとんど離れてるんだけど、別の何かにドハマリしちゃったりとかさあ。
「怖ぁ……」
「何が……? っていうか公平、探査者になっても相変わらず怖ぁ怖ぁ鳴いてるんだね。なんか救世主とか言って超有名人だし、すっかりセレブな天狗鼻になってるのかと身構えてたのに」
「なるかそんなもん。なんかお前の中の俺、欲望に弱すぎません?」
「去年うちの兄ちゃんみたいに勉強放ったらかしでゲームして、由紀おばさんに泣かされたんでしょー? 弱いよー」
「ぐう」
なんとかぐうの音くらいは出たけど、逆に言えばそのくらいしか出ない。いや、今はもうコマンドプロンプトでもあるんだし、そんな欲望に弱いなんてことはない! ……はず。
しかし久々に会ったけど、リューさんは相変わらずの自由人だし春香は春香だしで変わらないなあ。このくらいの年頃は俺も含め、一年もあれば大きく変わっていてもおかしくないんだけどね。
「なんか、変わんないな二人とも。ちょっとホッとするわ」
「何よ急に。ていうか失礼じゃないレディーに向かって、私も高校生になって垢抜けた自負はあるんですけどー?」
「それは見れば分かるよ。前から可愛かったけどもっと美人になった。綺麗になったなって思うし」
「…………なっ!?」
「……ふぉおあ!?」
「何その反応!?」
率直に述べたらやたら驚かれた。ドハマリ中のゲームすらほっぽってこっち見ることないだろ、逆にビックリするわ!
見ればリューさんは呆気にとられて口をあんぐり開けてるし、春香は顔を赤くして同じく口をあんぐり開けている。
柄でもなかったかな……いやでも、恥ずかしくて言えませーんなんて言ってたら年1しか会わないんだし、一生言えないまであるし。
どういうのが正解か考えていると、兄妹が続けて俺に迫ってきた。
揃って頬を染め、唖然とした様子で捲し立ててくる。
「お、お、お前そんなこっ恥ずかしいことサラッと言うのか!? 嘘だろ去年までそんなだったっけ!?」
「そりゃ言うでしょこのくらい、本当のことなんだし。一々恥ずかしがる理由もないしさあ。去年まではそりゃ、思春期だったわけだし照れくさくもあったんだろうけど」
「い、今でも思春期じゃん……こ、公平。う、嬉しいけどさ、い、いきなり言わないでよ、照れるから……」
「ん、そっかごめん。でも本当のことだよ。リューさんは去年よりもっと頼もしく見えるし、春香は去年よりもっと素敵に思える」
まあ、この半年で人格レベルで変わったからそういうことの影響は間違いなくあるんだろうけど、それはそれとして今、ここにいる山形公平にとっては紛れもなくこれが本音だ。
人を褒めるのに照れはいらない。ただありのまま、本音で感謝と尊敬と想いを伝えればいい。いろんな人の姿を見てそう思ったからそうしているだけなんだ。
肩の力を抜いた自然体のままの俺に、リューさんも春香も褒められたことに照れつつ、しかし兄妹でひそひそ話を始めた。
「こ、この威風堂々たる姿……ハーレムを築いた者の、これが余裕か……」
「か、可愛いとか、美人とか、綺麗とか……! こ、こんなこと、同い年なのに公平が妙に、大人びて見える……!!」
いや、聞こえてるから! 悪いけど聴力は去年よりぐぐーんと伸びてるから!!
ハーレム救世主ネタを絡めてきたリューさんに、ひたすら動揺している春香。一年ぶりの親戚兄妹は相変わらず賑やかしいなあと思いつつ、俺はその姿がなんだか懐かしくて嬉しくなっていた。
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