足の痺れってゲームで言うとマヒかスタンの状態だと思う
なんだかしんみりしつつも、俺とリーベはそのまま膝枕の体勢でしばらくの時間を穏やかに過ごしていた。
足が痺れそうだし程々でいいよーって言ったんだけど、これには彼女が頑として譲らず、結局お坊さんが来るまで続くことになったのである。
「平和ですねー」
「平和だなー」
久しぶりってほどじゃないけど平和な、取り立てて急ぎの用事が何もない時間。何もしないという最高の贅沢を、こうして誰かと一緒に楽しめることがとても幸せに感じられる。
概念存在とか、異世界の神とか、サークルとかダンジョン聖教過激派とか。もしくは夏休みの宿題とか。そういう日常のあれこれは今ばかりはすべて忘れて、ただひたすらに沁み入る時を楽しもう。
ああ、幸せ……
「兄ちゃん、リーベちゃん、お坊さん来たよー」
「ん……来たか。ありがとなリーベ、心地よかったよ」
「えへー、どもどもーですー」
と、そうしているうちにふすまの向こうから優子ちゃんの声。どうやらお坊さんの訪問を告げに来たみたいだね。
それを受けて惜しみながらも俺は立ち上がった。さすがにリーベの膝を堪能している姿を見られるのはこっ恥ずかしいし、からかわれても面倒だ。
彼女が襖を開ける直前、パッと立ち上がりリーベから距離を取る。こういう時、探査者として鍛えられた反射神経と運動能力が役に立つよねー。
そして開かれる襖、入ってくる優子ちゃん。
同時に話しかけてくるその表情が、リーベを見て驚きの色に染まった。
「数珠持って来てねって母ちゃん、が……リーベちゃん?」
「ちゃんと忘れず持ってくよーって、え。リーベ?」
「ふぎゅっう……!? あ、足が、足がぁ……!?」
釣られてリーベのほうを見ると、なんてことでしょう生まれたての子鹿みたいに足をプルプルさせている、我が家の精霊知能様がそこにいた!
案の定ながら足を痺れさせちゃって動けないみたいだ。俺に続いて立ち上がろうとしてビリリと来たのか、そのままピタッと止まって身じろぎ一つしないまま、顔を引きつらせてしまっている。
ほら見ろ言わんこっちゃない、こうなると思ったんだよなー。
「慣れないことをするから……大丈夫か、リーベ?」
「ぁぅぅぅぅ……足がビリビリー……ご、ごめんなさい先に行ってくださいー……っ」
「おいおい……」
涙目で半笑いで硬直している姿は本人的には笑い事じゃないんだろうけど、あまりにお約束すぎて傍から見てると面白さが先に立ってしまう。
膝枕を堪能させてもらった身としては申しわけなくもあるので、とてもじゃないけど指さして笑うつもりもない。ただ、お坊さんがもう来てるので悠長に痺れが取れるのを待ってもいられない。
ましてこのままこの子だけ置いてくなんて、そんなことはそもそもするつもりもないし。
仕方なし、俺は少しだけズルをすることにした。皆さんご存知コマンドプロンプトの権能、因果操作である。
「えーと、《リーベの足の血流は圧迫されてないから、リーベの足は痺れてない》……で、良かったかな?」
「ぁぅぁぅー……は! な、治りました! っていうか、なかったことになりました!? 公平さん、リーベちゃんの因果を!?」
「うん、まあ。もう行かないとまずいし……」
膝枕というか正座による足の痺れってつまるところ、体勢の問題で脚部の血の流れが悪くなることに端を発している。だから血流の圧迫なんてなかったことにして、足をそもそも痺れてないことにしたわけだ。
効果は覿面でリーベの足もすっかり元通りらしく、すぐに彼女は立ち上がって何度か足踏みをしている。
正味うろ覚えの原因だったから上手くいくかは分からなかったけど、解決したみたいで良かったー。
ホッと軽く息を吐いていると、リーベが俺に向かって頭を下げてきた。
「あ、ありがとうございますー! もう駄目かと思いました、助かりましたー!」
「やるじゃーん兄ちゃん。さっすがなんだっけ、こまごまプールプル?」
「コマンドプロンプト! っていうか何それ、一口サイズのゼリーか寒天かな? ……ま、治ったなら良かったよ。それじゃ行こうかリーベ、みんなが待ってる」
「はいー!! この御恩は一生忘れませんー!!」
怖ぁ……めっちゃ大袈裟じゃん。
まるで死に瀕してたみたいに言うけど、それただの軽い痺れなんだよなぁ……
急ぎだったからなかったことにしただけで、別にしばらく足を揉むなりストレッチするなりしてたら治っていた程度のものでしかないし。むしろこんなことで因果律を操作した俺こそが大袈裟と言えば大袈裟まである。
ま、その甲斐もあってすっかり元通りになったし良かった。一安心して、今度こそ優子ちゃんも加えた三人で部屋を出る。
お坊さんが来られているのは今から二部屋離れたところにある仏間で、先祖代々の仏壇がある部屋だ。昼ごはんの前に一家みんなで挨拶した部屋に、今度は一族みんなで集まるわけだね。
そんなに遠くもないからあっという間にたどり着く。至って普通の和室、お仏壇が置かれていてその前には色とりどりの果物やらお菓子やら、お供物がたくさん置いてある。
さらにその手前には木魚やら何やら仏具が置かれており、敷かれた座布団にお坊さんがすでに座られていた。法衣をぴしっと決めた、老境にさしかかった感じの方だね。
「あ、公平達来たわね。こっちこっちー」
「お待たせー」
すでに部屋の中にはうちの両親含め、山形家のみなさんと二宮のご家族さんも座布団に座って待機中だった。俺達も母ちゃんに呼ばれて近くまで行く。
父ちゃん、母ちゃんに俺。その後ろに優子ちゃんとリーベ。ちなみにアイは居間にてお留守番のようだ。親戚みんなに可愛がられた末に昼寝してたみたいだし、しばらく起きることもないだろう。
「お数珠さん、持ってるわね?」
「もち。そろそろ始まる?」
「そうね──あ、始まった」
座って数珠も手にして、ふうと一段落ついたあたりでちょうど、読経が始まりを告げた。お鈴を鳴らして響く涼やかな音色が、襖を締め切った部屋中に数度、響く。
そして読み上げられていくお経を聞きながら、俺は両手を合わせて拝むのだった。
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