一年半、820話くらいかけてようやく明かされた山形パパの名前
そんなこんなと話をしていると、じきに車は親元の住む山間の地域に辿り着いた。清らかに流れる川沿いに民家の立ち並ぶ、いかにも夏の田舎って感じの風景が広がる。
田んぼも広がるのどかな、ノスタルジックな光景を目にしながらも車はとある家の敷地内に入る。結構庭が広めで、家も古びてはいるけど大きめの木造家屋だ。
ここが我ら山形家の父方の親元、いわば山形本家の屋敷だね。
本家って言ったのはこないだまで御堂本家の屋敷に寄らせてもらっていたからってだけで、あっちほど立派というわけでもない。庭とか言ってもぶっちゃけ空き地だし、そもそも山形家は別にお金持ちの家じゃないしな。
「おーう到着ー。変わんねえなあここはー」
「相変わらず素敵な場所よねぇ。緑豊かで自然に溢れて」
「はー! ここが公平さんや優子ちゃんのお祖父様、お祖母様のお住まいなんですねー!」
「きゅきゅー!」
敷地内にはすでに親戚のものだろう車がいくつも停まっていて、俺たちの車もそれらに並ぶ形で駐車する。
はい、到着ー。車から降りると夏の日差しとセミの鳴き声、川のせせらぎ……そして風吹く音とそれに合わせて木々の揺れる音ばかりが聞こえてくる。
美しい大自然、雄大な大地のオーケストラってところかな。この時期この地にこうして訪れる度、心に深く感じ入る素敵な瞬間だ。
「空気も澄んでて美味しい……また今年もやって来れたなあ」
「春先からいろいろあったし、特に今年は感慨深いね、お兄ちゃん……もしかしたら、兄ちゃんがいなかったかもしれないわけだし」
「優子……」
並んで山々を眺めていると、優子ちゃんが不意にそんなことを言って俯いた。驚いて彼女を見ると、俺の着ている服の袖をキュッと握りしめてくる。
どうやら最終決戦までのアレコレを思い出して、不安というか恐怖がぶり返してきたみたいだな、優子ちゃん。
思い起こせばドラゴン騒ぎの時くらいから、そんな兆候はあった気がするんだけれど……この子、俺がアドミニストレータとして邪悪なる思念との戦いに身を投じていく姿に、段々と情緒不安定になっていったみたいなのだ。
つまるところ俺が死ぬんじゃないか、何か大変なことに巻き込まれているんじゃないかって直感してたんだろう。友達の逢坂さんもそれに気づいて俺に相談してくるくらい、俺がいないところで不安がっていたらしい。
まあ当時、ドラゴンと戦ったりぶっ倒れて入院したり、首都圏に複数回呼び出されてたりとマジで新人探査者とも思えない動き方してたからね、俺も。
なんだかんだのんびりやるだろうと高を括ってた妹ちゃんからしたら、寝耳に水とか青天の霹靂とかそんな具合の変遷だったろうなあ。
そうしたところから端を発しての情緒不安定さが、ついにピークを迎えたのが夏休み直前、邪悪なる思念との最終決戦を終えた直後だったってのは、良いんだか悪いんだか判断はしかねる。
ただそうしたこともあり、俺は割と早々に家族含めた関係者一同に祝勝会も兼ねた説明会を行い、すべての決着がついたからもう心配いらないよっていう宣言をしたわけだね。
実際にすべてを打ち明けてもう解決済みだと示した効果は覿面で、以後の優子ちゃんはすっかり元気を取り戻してくれたと思っていたんだけど……
今でもこうして折りに触れ、当時の恐怖とか不安が蘇ることはあるみたいだな。これについては完全に俺やシステム側の都合が齎したものだし、ただただ申しわけないことをしたと罪悪感に心が痛む。
せめて慰めになるよう祈りを込めて、俺は妹ちゃんの頭を優しく撫でた。
「優子……俺は生きてるよ。大丈夫、もう何も心配いらない」
「……うん」
「ごめん、心配ばっかりかけちゃったな。俺はお前を置いてどこかに行ったりしないから。だから、ほら。笑顔笑顔」
「…………ん」
俺の言葉と手の動きに、優子ちゃんは少しだけ笑ってくれた。いつもよりは密やかだけど、でも前向きさはある笑顔だ。
ちょっとは元気になってくれたなら良かったと、内心でホッとする。この子だけじゃなく両親や友人達にもだけど、アドミニストレータ計画中は本当にいろんな方面に心配をかけちゃったと改めて痛感する。
こりゃ、何があっても長生きしないとな。邪悪なる思念も倒してコマンドプロンプトとしての人格も蘇った今、滅多なことで老衰以外の死に方するとも思えないけど……
こんなこと言ってたら逆に死亡フラグとか立ちそうだしな。それに概念存在がアレコレ変なことしてるみたいだし、まだまだ油断は禁物なんだ。気合い入れて、幸せになるために頑張ろうか!
「優子ちゃん、大丈夫ですかー?」
「きゅー?」
「あ……ううん! 大丈夫だよリーベ姉ちゃん、アイちゃん。ありがとね」
気づけば優子ちゃんの異変に、リーベとアイもやってきて慰めてくれている。
こんな風に、優しい人達が側にいるんだ。きっとそう遠くないうちに、妹ちゃんの不安とか恐怖も過去のものになってくれると信じるよ。
「お……? おー! 帰ってきたか正彦!」
「おーすただいまー。元気してたか、親父ー」
と、美少女二人とマスコットの寄り添い合う姿にほっこりしてると知らぬ間に、父ちゃんが家から出てきた御老体とやり取りしている。
御老体って言ってもまだまだ元気満々そうな、70歳手前くらいのおじいちゃんだね。その人は俺達を見るなり、日に焼けた顔に満面の笑みを浮かべて、大声で話しかけてきた。
「公平ー! それに優子! よく来たなあ、よく来てくれたぁ!!」
「じいちゃん!」
そう、この人が俺と優子ちゃんのおじいちゃん。
父である山形正彦のそのまた父にあたる、山形三郎その人である。
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